・経験を積ませたまま返すな
今回長めです。
・経験を積ませたまま返すな
土砂降りの中、風を切り裂いて振って来たのは、石のような何か。
それらは散発的に現れて、曇天の下を明るく照らした。
爆発と、轟音によって。
『爆弾です、奴ら爆弾を持ち出しました!』
戦場を映し出すハーピーが、動揺した様子で報告する。
「突火槍ですか。あの手持ちの大砲みたいな」
『違います。もっと小さい、水筒みたいなのです!』
水筒みたいな大砲。
「もしかして擲弾筒か」
「サチウス、何ですかそれは」
ウィルトから質問をされたのって、結構珍しい気がする。なんて言ってる場合ではない。
「ざっくり言うと、小型の爆弾を筒に入れて、発射出来るようにした物だ。爆弾はケツの部分に火が点いて飛び、落ちた後に本体が爆発する」
台風のおかげで飛距離が出ないのか、こちらの陣地までは届かないのが救いか。
「大砲というより花火に近いですね」
「だいたい合ってる。持ち運びがし易いし、連射が可能で、台座によっては角度も付けられる。元々爆弾なんて小さくても殺傷力は高いんだ。野戦じゃ火薬も、質より量さ」
水で火薬や火縄が濡れて使えないってのが、戦記物のセオリーなんだけど、目の雨でちゃんと爆発してるんだよな。
技術が進んだのか魔法を使ったのか。如何あれ厄介なことになった。
「敵の様子は」
『全然進んで来ません。爆弾の出る筒を色んな体勢で撃つ度に、奥の陣幕で、何かをしきりに書付けています』
ここまでの俺たちの勝因は、敵が俺たちの迎撃を知らず、散発的な攻撃をしていることだ。
戦力の逐次投入などせず、最初の八百人が一丸となっていれば、とっくに勝負は付いていた。
「完全に実験してますね」
「悠長な真似をしやがって」
今もそうだ。他の部隊と連絡を取り合っているようには見えないし、逃げた味方を一瞥もしない。
「彼らには彼らの仕事があるんでしょうが」
「これ、至近距離で食らったら危険ですよ」
ミトラスが心配そうにウィルトを見る。恐らく奴らは距離に対して、どの角度でどの程度飛ぶとか、風速何メートルで、射程が最低ないしは最高何メートルとか、その辺を見てるんだろう。
完全に技術者がいるってことじゃねえか。
「台風の中で射撃実験なんぞようやるわ」
悪天候の中でもレアケースだけど、無くは無いからな。データを取りたいって気持ちも分かる。
ただこれってこのまま返したら絶対いかん奴。
「伝令。改めて新しく出た敵について報告」
『はっはい! えっと』
報告によると敵の第四波は、全身を金属鎧に包んだ重装備の集団らしい。
騎士にしか見えないが、鎧のデザインが不統一であることから、正規軍ではあるまいとは、ウィルトの言である。
こちらの竹が見すぼらしく見える、板金製の鎧と盾。武器は大小の近接武器、そして擲弾筒と短筒。
弓矢とかボウガンもあることから、ほとんど接近戦をする気がないのが分かる。
『あと、他の子がさっき回り込んで見て来たんですが』
「何ですか」
『背中にその、車輪が付いてるって』
背中に車輪。もしや鎧が重いから、キャスター付けて押して来たのか。まさかな。
「先生、このまま放って置けば、その内勝手に帰ると思うんですけど」
「そうですね。最後に銃の試し打ちの一つもして帰るでしょう」
擲弾筒のデータを取り終わったら、今度は近付いて撃って来るのか。嘘か本当か知らんけど、こんなのが廃棄品の横流しってんだから堪らんね。
「こちらは防戦が念頭にありますし、打って出難いことくらいは、向こうも理解しているはず。弾数にも限りがある以上、先ほどの戦いの様には長続きしない」
「そのときこちらが動かなければ、諦めて帰りますかね」
「恐らくは、ただ」
「ただ、何だよ」
「次が来ないのが気になります」
次、この時点で合計1,000人来てるんだけど。
でも言われて見れば少ないような気もする。
「思い出して欲しいのは、敵の主力は本来犯罪者たちだったはずです。しかし明らかにそれらしいのは、最初に200人だけ。第二波が多少腕の立つ、冒険者や傭兵の崩れだとしても、やはり少ない」
今の重武装集団は元より、馬に乗ってたのもたぶん、身元がちゃんとしてる連中だろう。
レンタカーを借りるのだって条件があるんだぜ。
「何処に用意してあるのか。それにもう一つ気になる点があります」
「まだあるのか」
「敵軍の間に伝令の姿が見えない。かと言ってうちのような手段を、用いているようにも見えない」
「言われて見れば、連携を一度も取りませんね」
「単一の命令だけ受けた使い捨てなのかな」
流石に何かしたら戻れ、くらいは言われてると思うが。
「それぞれが連絡を取り合うような関係でないのやも。こちらとしてはまだ打つ手は一つ二つ有ります。しかし皆の疲労が気がかりです」
確かに。スクリーンに映っている魔物たちは、大分疲れていた。負傷して避難した者以外は、俺の薬草を食ったり貼ったりしてる。
役に立ってるのが嬉しい反面、そろそろ切り上げて、返してやりたい気持ちになる。
「どうするか……」
『逃がすな。捕まえろ。そういう話だったろうが』
『我らのことなら心配はご無用ですぞ』
こちらの話を聞いていたキングとジョージ将軍が、会話に入って来る。
スクリーンを見れば、二人の部隊が街道中央の辺りまで、回り込んでいるのが見えた。
『飛び道具の経験値なぞ持って行かせるな』
『ここで逃せばのちのち大きな禍根となりましょう』
危険を承知で戦えと現場が言って来る。防衛だけならまだしも、敵の装備を鹵獲するという、当初の目的は未だ果たせていない。
こちらとしても、ここが正念場なのだ。
「ああすいません。結論を言わないばかりに誤解をさせてしまって」
『え?』
ウィルトは顔の前で手をパタパタと振った。違うんですよ言わんばかりに。
「勿論戦って貰いますよ。総員背負い袋の中身を確認してください」
そう言ってうちの司令は、次の手の説明をし始めた。薬草や発煙筒が入っていた、簡素な革製の背負い袋には、未使用の道具が幾つか入っている。
「アレらを捕らえます。各員死にたくなかった順番を守りなさい。これが終わってまだ敵が来るようなら、私が出ます。今日最後の戦いと思ってくれて構いません」
スクリーンの中の軍団が動揺する。最初からそうしろと言ってはいけない。
何故なら今回は、彼らの訓練も込みでの戦いなのだから。
「それと、ミトラス、サチウス。あなたたちの力も借ります」
「喜んで!」
「とうとうお呼びが掛かったか」
出来ればここから出たく無かったが、俺たち自身のことだから、行かなきゃな。
「ミトラスは転移魔法封じの結界を張ってください。私の合図と共に消すように」
「はい先生。お任せください!」
ミトラスはすこぶる嬉しそうに答えた。たぶん人をぶっ殺して来いと言われても、快諾しそうだ。
「サチウスは沖に出て巨大化してください。少しでも街への風が和らぐように」
「自分で言ったことだけど、やっぱりやるのか」
もう十月終わるしかなり寒そうだけど、そうも言っていられない。
巨人になってもサイズの合う服が欲しい。せめて下着をくれ。
「兵業のハーピー隊は至急竜人町へ行き、向こうの区長代理へ通達。人魚たちと共に、崖崩れで落ちた者を収穫せよ」
『分かりました!』
兵業側の映像が反転し、物凄い勢いで別方向へと向かって行く。
ハーピーと妖精さんが力を合わせると、台風の中でも飛べるというのも、今回の戦果の一つだろう。
「さて、では作戦の説明をします。敵は恐らく今の爆弾を雨を降らせ終わったら、我々を銃で撃ちに近付いて来ます。その後頃合いを見て引き上げ、こちらに追撃をさせようとするでしょう」
ずぶ濡れになっている魔物たちは、発煙筒の煙を絶やさず、野営用の炉の周りで寒さに耐えている。
役所を出る前に食堂に、あいつらの飯を作って置くよう頼むか。
今更だけど、うちもやっと食堂を、稼働させられるようになったんだよな。
飯を作ってくれる奴を雇い、うちで飯を食う奴も増えた。うるさくなったけど、俺はそれが嫌いじゃない。
「キングとジョージ将軍が回り込み次第、こちらも道具を使用します。その後に突撃し、可能な限り敵を捕獲します。もしも敵が攻めて来ず、或いは追撃を誘わない場合、こちらから打って出ます」
どの道突っ込めってことだな!
「現在こちらは負傷者と医療班、離脱したハーピー隊を除き約400名。数だけなら倍はいます。引き続き制圧隊を前に出して、これに当たりなさい」
実際に負傷者として離脱したのは30人くらいか。
少ないとはいえやっぱり出てしまう。
『報告! 敵が爆弾の筒を引っ込めていきます! それと並び直してます!』
「いよいよですね。ミトラス」
「はい!」
ミトラスは部屋から飛び出すと、非常階段を上って屋上へと向かった。
転移魔法を封じる結界ってことは、逃げられなくするってことだろう。
「サチウスは外に出ていてください。海へ飛ばしますから、到着したら巨大化を」
「飛ばすっていうと、魔法か」
「いえ、ガーゴイル隊、負傷した者で二名、後退のついでに、サチウスを島嶼の向こうへと運んでください。聞こえましたね、至急外へと向かってください」
「え、あの、それ大丈夫なの」
「奥の手の一つや二つあります。それよりも急いで」
「あっはい」
ちょっと思考が追い付かないけど、今は考えないほうがいい。絶対変だと思ったけど、作戦を優先した自分はきっと偉い。
俺は慌てて外に出ると、容赦ない突風と、放水に近い雨に見舞われた。傘が一瞬でお猪口になり、吹き飛ばされる。
一分経たない内にびしょ濡れになると、空から大柄な石像二体が到着した。
「お待たせしました、行きましょう!」
「よろしくお願いします」
ガーゴイル二体が両脇から俺の腕を抱え込み、猛然と羽ばたいて飛翔する。こんな絵面を何処かで見たような気がする。
まさか自分が同じことをする日が来るとは。
「大丈夫かな」
「ご安心を。こんなのは傷の内に入りません」
「馬車より早く飛んで見せますよ」
ガーゴイルたちは意気も盛んに言ったけど、違う、そうじゃない。馬車より早い速度で、役所の三階より高い所から海面に落ちて、俺が大丈夫かって話。
さっきまでの緊張感が、遠くに消えてしまったのが分かる。これたぶん失敗すると大変なことになる奴。
「なあ、やっぱりちょっと」
「見えた、海です!」
一直線に海を目指した石像たちは、宣言通り馬車より速く飛び、海へと俺を運んだ。
「なあ、悪いけど下ろしてくれない」
「ええ! サチウス殿、成功を祈ります!」
「いや違うよ聞いてそうじゃなっ」
両腕に戻る解放感。体を包む浮遊感。
言葉の難しさを痛感しながら。
俺は海へと放り込まれた。
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




