・依頼請けます。
・依頼請けます。
「とまあそんな感じで免許証の更新してきた」
「冒険者証ね」
夜。家(役所)に帰ってミトラスと夕飯は囲みながら、俺は今日あったことを話した。実家と違ってリビングは無いので、空白の部署が簡単な生活スペースとなっている。
朝食はパンでも良いが、夕飯はごはん党なので、食卓は辛うじて日本準拠。煮魚と唐揚げと少々の果物。家から持ち込んだ味噌や醤油が切れたら、ミトラスに仕入れてもらおう。
「でも勿体ないなー。どの道役所で仕事をするんだし、肩書を沢山取って、加護をいっぱい受けたら良かったのに」
「受付でも同じことを言われたよ。でもその組み合わせがさ、あんまり」
組み合わせの一例で、奴隷と商人で奴隷商人。奴隷と盗賊で強盗。商人と盗賊で闇商人。奴隷と芸人で道化。盗賊と芸人で義賊。商人と芸人で詐欺師。
肩書同士から更に派生し、奴隷商人と闇商人で死の商人、死の商人と芸人で興行主、義賊と強盗で復讐者。
「うん。煩わしいというか面倒臭いよね」
「どっちかというと印象の問題です」
上位にろくなジョブが無い。しかも肩書が七つを超えると『七人ミサキ』が付いて来る。犯罪で飯を食っていくのが難しいからなのか、受けられる加護が強力になっていくのも、どこか納得。
それにしても、こんな所でこいつの名前を見かけるとは。
「特技とか資格の欄に書けますよって、書かないよこんなの。ほぼ前科だし一番マシなのが義賊だけどイタいし」
「芸人は」
「野良芸人は風当たりが強いから」
こっちの世界じゃどうなのか知らんけど。
「全く、誰がこんな名前を付けたんだ」
これを望むのは、果たして人としてどうなのか。そんな名前の加護を、受けたいと思うやつがいるか。たぶんいるんだろうなあ。悪名も名の内って、戦国武将みたいな考え方の人は、割といるから。
「まともな名前の職能もあるし、数が多いだけだよ」
「そこは絞って欲しかった」
つっても職能の変更自体は、有料になるけど可能らしいから、もしかしたら付け替えをするかも知れない。
「別に履歴書とかに書かなくてもいいんだから」
「でもさ、他の魔物とパーティ組むかもってときに、困ったら嫌だなって。ミトラスは持ってるからいいけど」
「え、僕持ってないよ」
「え、じゃあ野良なのお前」
「ブッ!」
そう言うと、ミトラスは飲みかけの味噌汁を吹いた。口元を台布巾で拭いてから、面を変えてテーブルを吹く。それから咽ている彼の背中を、擦ったりトントンしたりする。
「おいおい大丈夫か」
「えっほ、おふん。し、失礼だなあ。僕は野良なんかじゃいよ。区長になったときに、特例でいち早く人間扱いになってるの。一応」
「そうだったのか、ごめんよ」
ミトラスが息を整えたのを見て、俺は自分の席に戻った。ちょっと気不味い空気になる。あれ、でも待てよ。
「なあそれってつまり、俺がこうしてなかったら、お前を冒険に連れて行けなかったって、ことじゃないのか」
「え……あっ」
「『あ』じゃないよ。危ない所だったわ」
「今まで仕事をすること以外は、何も考えてなかったし盲点だった」
現代世界で少しは働くという思考が薄まったと思ったのに、あっさりとリバウンドしたな。労働意欲が。
「ミトラスも取っといたらどうだ。もしものときは、自分で自分に仕事を振れるし」
「自分で自分に」
その場合は自作自演とか、一人官製談合になる恐れがあるけど。
「そうそう、既に一般人だったら魔物使いや奴隷商人じゃ、パーティに入れられないし」
「自分で……自分に……」
ははーん。さては俺、迂闊なことを口走ったな。
「そうか。もしも依頼をしなくてはいけない場合でも、僕がやってしまって良い場合、冒険者なら本当にやってしまって良いんだ」
いいのかそれは。役所の立場で出した依頼を、自分で請け負っちゃうの。お前の身内の俺がやってもそうだけど、ヤバいと思うんだよな。
循環取引紛いの自転車操業。報酬は果たして横領になるのか、それともボランティアなのか。
もう少しよく考えてから発言をするべきだった。
ミトラスの目は光明を得たりとばかりに輝いている。
「そうだね。損する訳じゃないし、僕も取って見る」
「あっうん。よかったね」
参ったな。俺のせいでこいつが、一層黒い労働環境に飛び込んでしまう。何とか、何とかしないと。
「あ、で、でもさ。仮に冒険者証を取っても、区長の仕事って副業禁止じゃないか。その、公務員だし」
「冒険者業って副業の中では、唯一誰でもして良いんだよ。仮に公務員が禁止でも、市長に許可を貰えば大丈夫だよ。休日は別だしね」
日本の法律が通用しないのは分かっていたが、どうしたものか。俺の知識ではこの状況を打開するのは困難。
ここは一つ、ミトラスから情報を引き出して、いちゃもんを付けるしかない。
「なるほどな。そういえば気になってたんだけど、冒険者って事業主なの。それとも派遣なの」
「やだなーあんなのが事業主の訳ないじゃん!」
面白いジョークでも聞いたみたいに、彼は屈託のない笑顔を見せてくれた。そうか。やっぱりか。
「受付の人にさ、役所勤めだけど他の依頼受けても良いかって聞いたら、それは職場に確認してくれって」
「それは変だな。冒険者ってギルドの社員みたいなものだから、ここが副業禁止でも冒険者でありさえすれば、他の依頼を受けてもいいはずだよ」
「じゃあなんで確認してくれなんて言ったんだろ」
「責任の所在をはっきりさせたくなかったんじゃないかな」
ミトラスが煮魚を箸で啄ばむ。何の魚か分からないけど、市場で売ってたんだし、ちゃんと食えるようだな。よし俺も食べよう。
「そうだよ、冒険者なら副業イケるよ」
不味いな。火に油を注いだ気がする。
「変な話するけどさ、無資格の冒険者ってないの」
印象操作とかどうだろう。格好悪いなって思わせて、自粛に導ければ或いは。
「あー、まあ、冒険するのに資格は要らないけど、世の中からは野良とかモグリって言われちゃうよね」
元々冒険者って仕事じゃないからな。脱法的配達業っていうか。鉄砲玉っていうか。便利屋のあだ名。
「暮らしていくには資格が要るってことだな」
「世知辛いよね。誰が冒険者を仕事にしたのやら」
自分たちの取柄を形にして、制度にまでしたのを悪いとまでは言わん。言わんけども。
「浪漫とか風情が無いな」
「その分うちが儲かってるじゃない。ほらアレ」
「アレ、ああアレか」
うちの役所の地下には、異世界行きの門がある。門というか扉というか。そこで行き場がなくなった冒険者たちが、未知の世界を求めて旅立つのだ。
そのための料金が結構いい額になってる。
「日頃ああいう姿を見ちゃうとなあ」
「冒険依存症って感じの人たちだね」
「そうそう」
仕事の収支だの生活がどうだのは、この際どうでもいいから、とにかく冒険がしたい。という利用者は多く、この頃は遠方からやって来る人も。
「楽しいのかも知れないが、ミトラスがあんな風になっちゃうと嫌だなあ」
どうかな。チラっ。
「異世界に行くよりも、こっちの人々の依頼を解決するだけでも、僕は十分かな。今は人間たちがやらなくなったおかげで、魔物たちも仕事にありつけるんだし」
こいつ根は本当にいい子だからな。こういうことを平然と言ってのける。いや待てよ。
「となると、ミトラスが出張るとだいたい何とかなっちゃうから、あまり仕事は出来ないか」
「ああ……うん、そうだね。皆に仕事を回す必要があるうちは、僕が冒険者をするのは、皆の仕事を奪うことになってしまう」
ミトラス君はしょんぼりすると、唐揚げを口に放り込んで黙った。すげえがっかりしてる。労働意欲に待ったをかけられたのは良いけど、代わりに俺の胸には、罪悪感が芽生えてしまった。
「そう落ち込むなって。それならそれでさ、俺に仕事を回してくれたらいいじゃないか。俺はまだ人間扱い取れて無いんだから」
「サチウス、そっか、そうだね!」
こっちを見る彼の目に光が戻る。これくらいのフォローはしておかないと、無責任ってもんだ。
「そうそう。だからあんまり気に病」
「明日からバンバンお仕事作るから! よろしくね!」
ん? 聞き間違いか。今変なこと口走ったような。
「なるべく役所の仕事と兼務出来るようにするから!」
聞き間違いじゃない。ミトラスは自分の代わりに、俺を働かせるつもりだ。もしやお前の分まで働くことを、俺が望んでいるとでも思っているのか。
「いや待て。あのなミトラス。俺はあくまで単なる話題としてだな」
「遠慮しないで。最初だから薬草採取と鼠退治を出しておくから、思う存分頑張ってくれていいよ。気を遣ってくれて、ありがとうサチウス」
(´・ω・)
( ・ω・)
(・ω・)
「うん。がんばるよ」
これは代償だ。自分が振った話から、望ましくない事態が発生しようとした。相手の意思を捻じ曲げる道理はない。だからこそ、俺はその責任を取らねばならない。
「初クエスト。上手く行くといいね」
「うん。そうだね」
「あ、遅くなったけど今日の晩御飯おいしいね」
「あ、うん、ありがとう」
かくして今日の夕飯は、片方だけいやに明るい感じで進んだ。なまじ今日の料理の出来が良かったことが、何故だか無性に悔しかった。
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




