表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/338

・依頼請けます。

・依頼請けます。



「とまあそんな感じで免許証の更新してきた」

「冒険者証ね」


 夜。家(役所)に帰ってミトラスと夕飯は囲みながら、俺は今日あったことを話した。実家と違ってリビングは無いので、空白の部署が簡単な生活スペースとなっている。


 朝食はパンでも良いが、夕飯はごはん党なので、食卓は辛うじて日本準拠。煮魚と唐揚げと少々の果物。家から持ち込んだ味噌や醤油が切れたら、ミトラスに仕入れてもらおう。


「でも勿体ないなー。どの道役所で仕事をするんだし、肩書を沢山取って、加護をいっぱい受けたら良かったのに」


「受付でも同じことを言われたよ。でもその組み合わせがさ、あんまり」


 組み合わせの一例で、奴隷と商人で奴隷商人。奴隷と盗賊で強盗。商人と盗賊で闇商人。奴隷と芸人で道化。盗賊と芸人で義賊。商人と芸人で詐欺師。

 

 肩書同士から更に派生し、奴隷商人と闇商人で死の商人、死の商人と芸人で興行主、義賊と強盗で復讐者。


「うん。煩わしいというか面倒臭いよね」

「どっちかというと印象の問題です」

 

 上位にろくなジョブが無い。しかも肩書が七つを超えると『七人ミサキ』が付いて来る。犯罪で飯を食っていくのが難しいからなのか、受けられる加護が強力になっていくのも、どこか納得。

 

 それにしても、こんな所でこいつの名前を見かけるとは。

 

「特技とか資格の欄に書けますよって、書かないよこんなの。ほぼ前科だし一番マシなのが義賊だけどイタいし」


「芸人は」

「野良芸人は風当たりが強いから」


 こっちの世界じゃどうなのか知らんけど。


「全く、誰がこんな名前を付けたんだ」

 

 これを望むのは、果たして人としてどうなのか。そんな名前の加護を、受けたいと思うやつがいるか。たぶんいるんだろうなあ。悪名も名の内って、戦国武将みたいな考え方の人は、割といるから。

 

「まともな名前の職能もあるし、数が多いだけだよ」

「そこは絞って欲しかった」


 つっても職能の変更自体は、有料になるけど可能らしいから、もしかしたら付け替えをするかも知れない。


「別に履歴書とかに書かなくてもいいんだから」


「でもさ、他の魔物とパーティ組むかもってときに、困ったら嫌だなって。ミトラスは持ってるからいいけど」


「え、僕持ってないよ」

「え、じゃあ野良なのお前」

「ブッ!」


 そう言うと、ミトラスは飲みかけの味噌汁を吹いた。口元を台布巾で拭いてから、面を変えてテーブルを吹く。それから咽ている彼の背中を、擦ったりトントンしたりする。


「おいおい大丈夫か」


「えっほ、おふん。し、失礼だなあ。僕は野良なんかじゃいよ。区長になったときに、特例でいち早く人間扱いになってるの。一応」


「そうだったのか、ごめんよ」


 ミトラスが息を整えたのを見て、俺は自分の席に戻った。ちょっと気不味い空気になる。あれ、でも待てよ。


「なあそれってつまり、俺がこうしてなかったら、お前を冒険に連れて行けなかったって、ことじゃないのか」


「え……あっ」

「『あ』じゃないよ。危ない所だったわ」


「今まで仕事をすること以外は、何も考えてなかったし盲点だった」


 現代世界で少しは働くという思考が薄まったと思ったのに、あっさりとリバウンドしたな。労働意欲が。


「ミトラスも取っといたらどうだ。もしものときは、自分で自分に仕事を振れるし」


「自分で自分に」


 その場合は自作自演とか、一人官製談合になる恐れがあるけど。


「そうそう、既に一般人だったら魔物使いや奴隷商人じゃ、パーティに入れられないし」

「自分で……自分に……」


 ははーん。さては俺、迂闊なことを口走ったな。


「そうか。もしも依頼をしなくてはいけない場合でも、僕がやってしまって良い場合、冒険者なら本当にやってしまって良いんだ」


 いいのかそれは。役所の立場で出した依頼を、自分で請け負っちゃうの。お前の身内の俺がやってもそうだけど、ヤバいと思うんだよな。


 循環取引紛いの自転車操業。報酬は果たして横領になるのか、それともボランティアなのか。


 もう少しよく考えてから発言をするべきだった。

 ミトラスの目は光明を得たりとばかりに輝いている。


「そうだね。損する訳じゃないし、僕も取って見る」

「あっうん。よかったね」


 参ったな。俺のせいでこいつが、一層黒い労働環境に飛び込んでしまう。何とか、何とかしないと。


「あ、で、でもさ。仮に冒険者証を取っても、区長の仕事って副業禁止じゃないか。その、公務員だし」


「冒険者業って副業の中では、唯一誰でもして良いんだよ。仮に公務員が禁止でも、市長に許可を貰えば大丈夫だよ。休日は別だしね」


 日本の法律が通用しないのは分かっていたが、どうしたものか。俺の知識ではこの状況を打開するのは困難。


 ここは一つ、ミトラスから情報を引き出して、いちゃもんを付けるしかない。


「なるほどな。そういえば気になってたんだけど、冒険者って事業主なの。それとも派遣なの」


「やだなーあんなのが事業主の訳ないじゃん!」


 面白いジョークでも聞いたみたいに、彼は屈託のない笑顔を見せてくれた。そうか。やっぱりか。


「受付の人にさ、役所勤めだけど他の依頼受けても良いかって聞いたら、それは職場に確認してくれって」


「それは変だな。冒険者ってギルドの社員みたいなものだから、ここが副業禁止でも冒険者でありさえすれば、他の依頼を受けてもいいはずだよ」


「じゃあなんで確認してくれなんて言ったんだろ」

「責任の所在をはっきりさせたくなかったんじゃないかな」


 ミトラスが煮魚を箸で啄ばむ。何の魚か分からないけど、市場で売ってたんだし、ちゃんと食えるようだな。よし俺も食べよう。


「そうだよ、冒険者なら副業イケるよ」


 不味いな。火に油を注いだ気がする。


「変な話するけどさ、無資格の冒険者ってないの」


 印象操作とかどうだろう。格好悪いなって思わせて、自粛に導ければ或いは。


「あー、まあ、冒険するのに資格は要らないけど、世の中からは野良とかモグリって言われちゃうよね」


 元々冒険者って仕事じゃないからな。脱法的配達業っていうか。鉄砲玉っていうか。便利屋のあだ名。


「暮らしていくには資格が要るってことだな」

「世知辛いよね。誰が冒険者を仕事にしたのやら」


 自分たちの取柄を形にして、制度にまでしたのを悪いとまでは言わん。言わんけども。


「浪漫とか風情が無いな」

「その分うちが儲かってるじゃない。ほらアレ」

「アレ、ああアレか」


 うちの役所の地下には、異世界行きの門がある。門というか扉というか。そこで行き場がなくなった冒険者たちが、未知の世界を求めて旅立つのだ。


 そのための料金が結構いい額になってる。


「日頃ああいう姿を見ちゃうとなあ」

「冒険依存症って感じの人たちだね」

「そうそう」


 仕事の収支だの生活がどうだのは、この際どうでもいいから、とにかく冒険がしたい。という利用者は多く、この頃は遠方からやって来る人も。


「楽しいのかも知れないが、ミトラスがあんな風になっちゃうと嫌だなあ」


 どうかな。チラっ。


「異世界に行くよりも、こっちの人々の依頼を解決するだけでも、僕は十分かな。今は人間たちがやらなくなったおかげで、魔物たちも仕事にありつけるんだし」


 こいつ根は本当にいい子だからな。こういうことを平然と言ってのける。いや待てよ。


「となると、ミトラスが出張るとだいたい何とかなっちゃうから、あまり仕事は出来ないか」


「ああ……うん、そうだね。皆に仕事を回す必要があるうちは、僕が冒険者をするのは、皆の仕事を奪うことになってしまう」


 ミトラス君はしょんぼりすると、唐揚げを口に放り込んで黙った。すげえがっかりしてる。労働意欲に待ったをかけられたのは良いけど、代わりに俺の胸には、罪悪感が芽生えてしまった。


「そう落ち込むなって。それならそれでさ、俺に仕事を回してくれたらいいじゃないか。俺はまだ人間扱い取れて無いんだから」


「サチウス、そっか、そうだね!」


 こっちを見る彼の目に光が戻る。これくらいのフォローはしておかないと、無責任ってもんだ。


「そうそう。だからあんまり気に病」

「明日からバンバンお仕事作るから! よろしくね!」


 ん? 聞き間違いか。今変なこと口走ったような。


「なるべく役所の仕事と兼務出来るようにするから!」


 聞き間違いじゃない。ミトラスは自分の代わりに、俺を働かせるつもりだ。もしやお前の分まで働くことを、俺が望んでいるとでも思っているのか。


「いや待て。あのなミトラス。俺はあくまで単なる話題としてだな」


「遠慮しないで。最初だから薬草採取と鼠退治を出しておくから、思う存分頑張ってくれていいよ。気を遣ってくれて、ありがとうサチウス」


 (´・ω・)

 ( ・ω・)

 (・ω・)


「うん。がんばるよ」


 これは代償だ。自分が振った話から、望ましくない事態が発生しようとした。相手の意思を捻じ曲げる道理はない。だからこそ、俺はその責任を取らねばならない。


「初クエスト。上手く行くといいね」

「うん。そうだね」


「あ、遅くなったけど今日の晩御飯おいしいね」

「あ、うん、ありがとう」


 かくして今日の夕飯は、片方だけいやに明るい感じで進んだ。なまじ今日の料理の出来が良かったことが、何故だか無性に悔しかった。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ