表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/338

・説明とおじさんとサチウスと

・説明とおじさんとサチウスと



「おっ奴隷だ」


 受付のおじさんは軽い調子で言った。


「奴隷」

「奴隷」


 思わずオウム返しになった俺の言葉を、彼はにこやかに復唱した。


「あの、これはどういう」


「職能の奴隷は、世間一般で言われるような、借金や前科で身分を失った人ではありません」


「あっやましくはない」

「やましいほうの奴隷じゃありませんね」


 こちらの世間一般の奴隷はやましいようだ。俺の世界の古代エジプトじゃ、サラリーマン程度のもんだったそうだが。


「奴隷は比較的当たりと言われる職能です。体力が付いて怪我や病気になり難く、治り易い。社会人としてはこれほど優良な加護はありませんよ」


「ははは……」


 取り敢えず愛想笑いを浮かべておく。理解も納得も出来るが、正直どう返していいか分からん。健康のありがたみは、冒険者とて例外ではないと言えども。


 アレか。高校時代に体力ばっかり伸ばしてたから、適性が出ちゃったってことか。こんなことならせめて、筋トレを頑張っておくべきだった。


「要は強めのすっぴんってことですかね」

「身も蓋もないですけどそうですね」


 これが小説家になろうだったら、チート主人公のハーレム要員になったんだろうな。どの道俺にはミトラスがいるから、同行はしないが。


「奴隷についてはキャリアアップ先があるのと、他の職能によって肩書が増えて、それに応じた加護も得られるという特徴があります」


「キャリアアップ」


「はい。職能の中には経験に応じて、上位のものに変化する場合があります。これをキャリアアップと呼び、受けている加護の効果が強まります」


 クラスチェンジか。生々しい言い方しやがって。


「肩書の増加についてはご存知ですか」

「いいえ」


「特定の職能が揃うことによって、受けられる加護が増えます。魔法使いと戦士で魔法戦士とか、密偵と僧侶で密僧とかですね。昔は自分の向き不向きも踏まえた上で、この辺を吟味する方が多かったですね」


 密偵で密僧? ダジャレなの?

 それ日本語ベースですよねってツッコんだほうがいいの?


 いや止せ、触ってはいけない。厄介事は御免だ。


「奴隷だと何がありますかね」


「剣士と拳闘士、あとは騎士や商人ですかね」


 字にするとたぶん奴隷剣士、奴隷闘士、奴隷騎士、奴隷商人。どれを取っても人聞きが悪い。


 とはいえこれをフル活用すると、他よりも初期ボーナスが多いという利点はあるのか。


「商人の加護って何ですか」


「何でも賢くなって成長が早まるそうです。あと一部のお仕事ですと、これを取得することが、就労の条件になっている場合もあります」


 前者は単に早熟なだけだと思うが、どっちかという大事なのは後ろのほうだな。商人の加護を取ってない奴には、商売させないってことか。厳しい。


「奴隷商人って奴隷を扱う仕事ができるんですか」


「はい。個人の裁量ですが一部の階層の方々で、冒険者以外の方とも、パーティを結成することが可能になりますね」


 階層って言ったな。職業とは言わないのは、やっぱりそういうことなんだろう。奴隷を扱う奴隷か。まるで植民地の兵隊みたいだ。


「パーティって冒険者以外と組んだらいけないんですか」


「そうですね。なので冒険者以外とも組める人を主として、パーティを結成することはよくありました」


 一々過去形なのが何かもうしんどい。


「こういうのって、どういう取り方するのが良いんですかね」


 相談の仕方がよく分からないので、ふわっとした聞き方になってしまったが、逆におじさんの目はキリッとし始めた。


「そうですね。基本的には、このままくじを引いて頂く、というのが無難ではあります。職能同士が噛み合わなくても、ご本人様にとってはそのほうが良い、ということも多々ありますので」


 ゲーム的に考えれば、覚える特技や適性の点で、選んだ職業を活かせないということはよくある。逆に職業の補正を合わせると「なんでそんなに育つの?」って奴も出るはず。


 でも実際は何をやらせても、強い奴ばっかりになりがち。


「ただやはり、将来的に目標があって、あえて不向きな職能を選ぶ方もいらっしゃいます。先ほどの商人のように、職業選択の場で求められることも、まだまだありますから」


「ああはい、資格みたいな」


「そうですそうです。他には健康面で不安のある方が、体力の補強のために、戦士等の加護を求めることもございます」


 下駄を履かせる訳だな。冒険をするために冒険者になる訳ではない。そんなケースも数多くあるんだろうけど、幅広いというか世知辛いというか。


「うーん、現状だと向き不向きを考えてる場合じゃないし、他にも冒険者以外と組める職能ってありますか、例えば魔物とか」


 神無側の魔物の大半は、冒険者登録を済ませてるけど、そうでないのもいるからな。雇用可能な範囲を広げておくべきだろう。


「なら魔物使いですね。正にそのものです。人間と冒険者以外の動物や魔物を、引き連れて良いことになります。もっとも、相手は自分で用意する必要があります。パーティを組むときは事前にギルドに申請をして、目印を貰ってくださいね」


「目印」

「首輪とか名札ですね」

「ああなるほど」


 確かにそういうのが無いと、街中で見かけ次第攻撃されても、文句は言えまい。これからは同行者の、社会的な立ち位置にも気を遣わないといかんな。


「注意点としては使い魔であったり、召喚してそのまま従えている場合は、つまり本人の能力の一環として連れている場合は、これらの制限には引っかかりませんので、ご安心を」


「ふんふん」


 分かり易く言うと、スキルで出した味方NPCとかは、パーティ結成の制約を受けない訳か。


「他に質問はありませんか」


「そういえばさっき、奴隷は比較的当たりって言ってましたけど、他に当たりってどんなのがあるんですか」


「そうですね。主にキャリアアップが早いものや、逆に先は無いものの、加護が強力なものがそうです。持ち腐れし難いものも当たりと言えるでしょう」


 心なしかおじさんの声が大きくなった気がする。こうして説明するの好きだったんだろうなあ。


「具体的には」

「前者が盗賊で、後者が斥候や野伏ですね」


 どれも微妙に違ってしかも想像し易い。


「盗賊は探偵、密偵とキャリアが上がっていきます。また肩書の追加も多く、山賊や海賊の職能を選ばずとも、それらの加護を受けることが出来ます」


「漁師と盗賊で海賊みたいな」

「そうですそうです」


 ということは山賊とか湖賊とかもあるんだろう。要らない知識が一つ増えてしまった。おじさんは話を続ける。


「で、ですね。斥候の場合、盗賊と野伏の中間という感じでして、盗賊よりも加護の力が強いです。流石に次のキャリアには及びませんが」


 広く浅くで、取得を一度で止めるならこっちか。


「野伏は町の外ですから、猟師になる方によく選ばれます。野営で消耗しなくなり、季節の変わり目や悪天候での変調に強くなるのが特徴です」


 俺としては消耗や変調は、少ないほうがいいな。コンディションが維持出来て、使い減りしないっていうのは、生きて行く上で最重要と言ってもいい。


 でなければ高校三年間をバイトしながら、皆勤賞を取ることなんて不可能だ。


「ふむう、それじゃあ奴隷と商人、魔物使いと野伏でお願いできますか」


「それですと、増える肩書は奴隷商人と、狩人ですね。野伏を盗賊にすると、奴隷と盗賊で強盗の肩書が増えますが、いかがですか」


「いかがなものかと」


 奴隷だけでも人聞きが悪いのに、この期に及んで盗賊と強盗ってお前。前科も無い内から大変なことになっちゃうじゃないか。


「ちなみに強盗だとどんな加護が」


 でも一応聞くだけ聞いてみる。


「えーとですね、体力面の強化の他に、他人の家に寝泊まりしても気にならなくなる、とあります」


「そうですか。じゃあ遠慮しておきます」

 

 殺害相手の家に潜伏するのが平気になるってことだろそれ。絶対嫌だよ。


「かしこまりました。しかし惜しいですね」

「と言いますと」


「昔なら奴隷と言えば、他の職能には全て、肩書を追加出来るものを選ぶ人ばかりでした」


「まあ今となっては贅沢な話ですよ」

 

 おじさんは少し寂しそうに「そうですね」と頷いた。誘うのに困らないくらいの冒険者が、もしも今でも周りにいれば、俺もこういう選択をしなかったかも知れない。

 

 現実を鑑みて対処を優先すると、自分の最強を目指すと言った、ある種の最善から外れるものである。


「ではこれで改めて登録をします。後で加護の付与をしますので、もう一度名前が呼ばれるまでは、帰らずにお待ちください」


「はい分かりました。よろしくお願いします」


 俺は受付のおじさんに頭を下げて、奥へと引っ込む後姿を見送った。それから冒険者ギルドの、酒場のほうを見る。


 さっきの獣人たちも既に去り、後には無人の光景が広がるばかり。


 もう冒険者の時代じゃないんだな。前にこっち側にいたときにも、分かってはいたけど、実際に目の当たりにすると、やっぱりちょっと寂しいもんだなあ。


 ちなみに残りのくじを振った場合は放浪者、従者、ピアニストだった。ちぐはくもいいとこである。


 ピアニストは一番新しい職能だそうだ。俺は淡い期待を抱いたが、受付のおじさんが言うには、とてつもない筋力が付くだけらしい。


 つまりピアノを弾けるようにはならないのだ。

 重い物を運ぶことを、ピアノを引くって言うんだって。


 はあーあ、がっくし。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ