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・説明を受けよう

今回と次回は説明回です。ほとんど説明です。

・説明を受けよう



 まだ少し肌寒い澄んだ空気に、見渡す限りの青空。小川のせせらぎと木々のささめき。自然と街がほどほどに調和しているここは兵業区。


『神無側』の冒険者ギルドは、マップ左上こと『兵業(ひょうご)区』にある。マップってなんだよ地図だよ。なんだよマップでいいじゃん。


 どうでもいいけどこの世界って、地名がどこかで聞いたような感じなんだよな。まあ人間が住んでいる以上、名前の付け方とか被ることもあるだろう。


 なんてことを考えている間に、その兵業に着いた。電車も自動車もないから、移動はもっぱら徒歩か馬車。


 でも俺個人なら自転車があるから平気。快速。こういうアナログな文明の利器、いいよね。ミトラスに実家から取り寄せて貰った物だ。朝一番でやって来て、現在は十一時。二時間以上は走った。


 いや平気じゃないわ辛いわ。帰りは馬車使お。


 ――平日だとやっぱ空いてるな。

 ――平日だからな。


 目の前を猿っぽい獣人たちが歩いており、二人で建物の中に、入っていくのが見えた。真っ白い石をそのまま切り出したかのような建物に。


 ちゃんと冒険者ギルドってロゴが付いてる。入り口前まで行って、自転車を停めて中に入る。身嗜みを整えてと。


「変じゃないかな」


 白のポロシャツとベージュのチノパンじゃ、普段着過ぎたかな。いいや、行こう。


 中の床は石のタイルが敷き詰められており、所々濡れたり湿っている。兵業は川の多く、入り組んだ土地をしているので、湿気対策は欠かせないのだ。


 中には例外もあるけど。


「すいませーん。冒険者証の更新に来ましたー」


「ああ、はいはい。じゃあ冒険者証をこちらに。それと書類を記入の上、お待ちください」


 端っこにある受付窓口で声をかけると、出て来たのは中年のおじさんだった。


 くたくたのシャツとズボン。特徴は草色のベストと、冒険者ギルドと書かれた腕章をしているくらいか。


「はいよろしくお願いしまーす」


 俺は席に座って、机に備え付けの筆で、書類に記入をし始めた。先ず被召喚者か否かの、チェック項目がある。ここに記入すると、生年月日は書かなくて良くなるらしい。


 でも実年齢は書かされる。


 誤魔化してもいいけど、後で身内にバレたら気不味いから、正直に書こう。現住所は神無側市の群魔区1-1-1っと。


 余談だが『県』はない。『市』がそれに当たり、そこからもう『区町村』と続く。日本より広く大きそうなのに、言葉のスケールは小さい。


「住所がない場合は居住現在地をどうぞ」


 まるで福祉事務所と生活保護みたいだ。冒険者というシステムが福祉かどうかは、議論の余地がありそう。


 職歴には区役所の職員、免許と資格の欄には、魔法の使用免許。ずっと前に取ったものだけど、そういえばこっちの更新は、しなくてもいいんだろうか。


「こちらでよろしいでしょうか」


「えーとサチウス様は、群魔の区役所でずっとお仕事をされてますね。特に問題はありませんね」


「俺、いや私が働いてたのって、依頼扱いだったんですか」

「ええ。長期の雇用契約ですね。何か気になることでも」

「ああいえ、特にないですね」


 考えて見ればそうだよな。異世界から召喚したようなのを、いきなり正規職員にはしないし、出来ないだろう。非正規だって先ずは、現地の人間である必要があるだろうし。


 となれば、だ。冒険者から人間を目指すのであれば、早い内から登録をするに越したことはない。業務も依頼という『てい』であったのなら、仕事をしているかというチェックもパスできる。


「……異世界から来た人というのは、説明がされていても、実は分かっていなかったり、勘違いなさっていたりすることも多いんです。まあ、そこは中々判断が難しいですから」


 わざわざこんなことを言う辺り、この人も分かってて追究して来ないんだろうな。何かこう胸にもやっとするものがあるけど、ミトラスが俺のことを、考えてくれていたと思っておこう。


 当然ながら召喚された者に人権など無い。用済みになったら殺される場合もある。元の世界に送還されたり、放り出されずに済んだりすれば、十分良いほうなのである。


「あの、今は役所に勤めてますけど、他の依頼なんかも受けて良いんですかね」


「それは勤め先に聞いて頂かないと」

「あっはい。そうですよね」


 胡散臭いな。冒険者って個人事業主なのかな。それとも派遣社員なのか。仮に派遣だとしても、副業禁止は冒険者的におかしくないか。


 勤め先に聞けってことは、少なくともこの時点では、副業は禁止じゃないだろうけど、でも派遣先の就業規則が上に来ちゃうのはどうなの。


 日本の法律観で考えちゃいけないんだろうけど、急に気になって来た。後で確認しとこ。


「ではまた一年間ご活動頂いて、その結果を査定にかけて、更新の可否を判断します。ご質問はありですか」


 受付のおじさんは、書類と俺とを見比べながら言った。


「仮に駄目だった場合はどうなりますかね」


「更新用の研修を受けて頂き、それで駄目なら失効となります。冒険者証の再取得をする場合は、もう一度同じ手続きをして頂きます。このとき前の冒険者として活動していたり、他の仕事をしていた期間というものは、ちゃんと数えられ引き継がれます」


 キャリアが発生して失われない所は、派遣と違う所だな。それにしても。


「他にはありませんか」


 自分で働いて暮らしてたばっかりに、務めてもいない業態の知識なんていう、人伝てに聞いた話が、こんな形で活きてくるとは。


「もしも十分な数の依頼が無かった場合は」


 俺はギルド内部をちらりと見た。建物の内部は酒場のようになっているが、かつては公共施設のような役割を、持っていたのではなかろうか。


 でも今は猿っぽい獣人たちが、軽食をつまんでいるだけ。たぶんお昼とか夜にはお客が増えるはずだ。でも違う。そうじゃない。


「ああ……そうですね……」


 おじさんは言葉に詰まった。それもそのはず。だって今ここに、冒険者らしき人の姿は無い。


「その件については、協議中でして」

「分かりました。すいません」


 この世界では魔物と人間の戦いは、概ね決着がついている。従って魔物の被害なんてものは、特に魔物の街と言って差し支えない神無側では、無い。


 強い魔物の家とか土地も没収されてるから、調査だの探検だのも、無い。


 残る依頼は日常のお手伝い。仕事を作り作られ、融通し合うくらいでしか、存在を保てないのだ。一応まだ冒険先は、残っているけれど。


「あとは特にありません」

 

 時代の過渡期に晒された便利屋たちは、この数年で数多くの、それでいてあまり希望のない選択を迫られていた。


「えー、ではですね。最後にサチウス様は、職能くじを引いてください。強制ではありませんので、例年通り引かずとも構いませんが」


「何ですそれ」


「冒険者になるに当たって、自分の系統を示すためのものです。自分に見合ったものが出るようになっております。自分で決めてもいいですが、それが合うとは限りませんので悪しからず」


 どっかで聞いた話だな。いわゆる一つのロールアンドチョイス。キャラクリをランダムで決めるか、自分で決めるか。


 ゲームだったらボーナスポイントが沢山出るまで粘るけど、これ俺の話だしな。


「表とかあります」

「ありますよ。どうぞ」


 受付のおじさんは引き出しを開けると、一枚の表を取り出して、こちらに差し出した。そこには戦士とか斥候とか、お馴染みの単語が並ぶ。


「最近はくじを引かない魔も、人も増えました」


 もっぱら魔物の身分証だからね。仮に現代日本でも、自動車免許の取得時に『ついでに戦士とかにならない?』って聞かれたら、だいたいの人はならないって言うと思う。


「ちなみにくじで出た職能って履歴書に書けます」


「書けますよ。資格とか特技の欄ですね。実際に職能を選ぶと、それに見合った加護が、受けられるそうです。微々たるものですし、実際の順序は逆なのですが」


「へ~」


 誰が与えてくれるのか。それ専門のスタッフがいて、何かそういう魔法でもかけてくれるのかな。加護に応じて職能の名前を振ったのか。


 それはそうか。初めに名前がある訳もなし。


「あの、お金ってかかります」


「いいえ。これは冒険者になった方への、特典みたいなものですから。中には色んな職能を取って、経歴が職能関連で埋まっている人もいますよ」


 色んなジョブを取って平伸ばしするのは強いからね。中には初手メラミみたいなこともあるだろうし。


「そんなにポンポン取れるなら、全部取っといたほうが良さそうですね」


「私たちもそう思いますが、基本的に職能を追加できるのは、最初を除いて三つまでなんです。よっぽど才能があって、熱心というか生き甲斐になってる方じゃないと」


 何処にでもいるんだなそういう奴。


「サチウス様はまだ取ってないですし、三年の勤務実績があるので、三つ取れますね。どうしますか」


 一年の勤続で一つか。どうしますかって言われても、そんな美味しい話を聞いちゃ、やるしかない。


 こういうのって後々で問題に対応すべく、必要になったものを取るべきだろうけど、そういうのは面倒臭いから今決めちゃう。


「やります」


 戦士サチウスになるのか、魔法使いサチウスになるのか。それとも。


「畏まりました。今くじをお持ちしますね」


 この冒険者版適性検査、果たして俺に言い渡される結果とはいったい。つってもインテリじゃないから、たぶん戦士になるんだろうなあ。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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