爺さん無双~この世界の爺さん強すぎる!~
俺は不思議な体験をした。今日はその話をしようと思う。
左門渡。俺は個性的な生徒が多い学校で面白おかしく過ごしていた、友達はいない。毎日異世界転生のライトノベルだったりをネットとかで見ている暇人だ。どこにでもいるモブ、きっとこの世界には本当の主人公がいて自分は通行人Aとかそんな役割なんだろう……そう思っていた。あの時までは。
「え? 魔法陣?」
お腹が痛かったのでトイレに行っている時……突然、魔法陣が足元に現れて俺は吸い込まれていった……トイレごと。
「何処此処!?」
俺は混乱していたが次第に状況を呑み込めてきていた。異世界転生、いや召喚だ。恐らく魔王が現れて勇者呼ぼうみたいなそんなテンプレ展開、フッ俺を舐めるなよ? 俺のクラスにはな、極道の息子だったりデスゲームに巻き込まれた男とかいるんだぜ? 更には透明人間になったやつもいるし筋肉お化けのような人間というより筋肉人という種族だろう男もいる……何でそいつらが呼ばれないんだ。
「おお勇者よ死んでしまうとは情けない!」
「王! 台詞違いますよ! ここは」
「ああすまぬ、おおよくぞ来た勇者よ! 召喚に応じてくれてありがたく思うぞ」
応じて……ないんだよなあ。だってほら、俺今便器の上に座ってるんだぜ? 下半身丸出しだよ? この状況で応じるって相当なバカか露出狂じゃね? 何人かいる女性が顔赤くして俯いてるし、というか俺も恥ずかしいし!
「えっと、ここは何処ですか?」
「ここはサイジン! 我が国だ、お主も混乱しているだろうが心して聞いてくれ」
それから王様は話してくれた。今この世界には魔王が出現して混乱していること、そのせいで魔物が溢れかえり悪事を働いていること、それらを解決する為にいくつもの国から若い勇者候補を集めて魔王に挑ませたが誰一人帰ってこないこと、どうしようもないので異世界人を呼んで戦ってもらおうとしていること。
どうにも異世界人というのはチートと呼ばれるスキルを貰えるらしく強さが段違いらしい。王様が言うにはステータスと唱えると自分の筋力などを見れるそうだ。気になって調べてみると空中に数値が出てくる。
左門 渡 レベル7 勇者
攻撃力 7
防御力 7
魔 力 7
素早さ 7
H P 7
M P 7
(全ての数値固定)
うん、詰んでる。ていうか何で最初からレベルが7何だよ! あと何この全ての数値固定って! 俺これ以上強くなれねえの!? これどうみても強いとは思えないんだけど! ねえなにこれ、ラッキーなのかアンラッキーなのかどっちだあ!
「どうじゃった? 数値は本人しか見れんからな、強いじゃろ? この国で一般人は平均全て10程度らしいぞ」
一般人以下じゃねえか! でも夢にまでみた異世界召喚! このチャンス無駄には出来ない!
「ええ、俺の数値全て777でした」
「なんと! 強すぎる! これなら魔王など敵ではないな!」
すみません嘘吐きました、本当の数値はその百分の一です。なんて言えるわけがない。
「では勇者よ! 旅立つがよい!」
あとさ、何そのゲームみたいな感じ。どこかにカンペでも用意されてんの?
細かいことはともかく俺は旅立った。トイレは玉座の間に放置され、勇者が座っていた幸運の便器として崇められているらしい……頭がおかしくなりそうだ。
「おっ! スライム!」
気持ち悪いベトベトしている液体のような魔物がいた。よし、定番だな! 俺もたお……たお……武器がない。そういえば素手だった、このまま突っ込んだら溶けそうだ。
仕方ない、仲間を集めよう。町の人に聞き込みをしたところ仲間を紹介してくれる場所があるというのでその場所に向かった。
「ここが酒場か」
リーダーの酒場。ここの店主は仲間を紹介してくれるらしい、親切な人だ。
「ああいらっしゃい、本日は何の用?」
「仲間を紹介してもらいたいのですが」
「なるほど、今いるのはこの人達ね」
アイズ、男、年齢78歳、魔法使い。
トニー、男、年齢83歳、戦士。
ブロウ、男、年齢73歳、武闘家。
「他はいませんか?」
「いません」
何でだよ! 爺さんばっかりじゃねえか! こういうのって異世界ものだとさあ女がいるはずなんだよ! こんななら一人で武器買って行った方が……。
「もしかして一人で行った方がいいと思っていませんか? それは危ないかと、ここら一帯は魔王城近くなので危ないですよ。魔物も全て能力値200は軽く超える化け物揃いです」
何でそんな場所に召喚した!? いやそもそもこの国そう考えたらその環境で残ってるの? 凄くない?
「じゃ、じゃあこの三人を」
「かしこまりました」
どうしてこうなった? チートも貰えず、仲間は爺さんのみ、しかも魔王城がすぐ傍にあるとかなんだこの世界は……今からでも別の世界に召喚されたい。
そして仲間としてアイズ、トニー、ブロウが加わり俺はもう一度旅に出た。
「ほっほっほ、まあ勇者殿、儂等の力を見てくだされ」
「そうじゃよ、このトニーまだまだ現役じゃぞ」
「儂もじゃ、今でも特訓し続けておるわい」
「そうですか、それじゃあ……あそこの何か強そうな巨人をお願いしてもいいですか?」
アイズは黒いローブに灰色の杖を持っているお爺さん、トニーは大きな斧を担いだお爺さん、ブロウは長髪の武道着を着たお爺さん。それぞれ自信満々ではあるが気さくで良い人だった。
草原に出てみると明らかに他とは違うオーラを放ってたムキムキの巨人がいた。もしもの時のために実力は把握しておかないとな。
「ほっほほ! 紅蓮の超炎」
「ぬわあああああ!?」
一瞬で塵になった。いやいや爺さん強すぎだろ! 何その最高位の魔法みたいなの!
そして他の爺さん達もまあ普通じゃなかった。トニーは斧を一振りで大地を地平線の彼方まで割り、ブロウは拳の拳圧のみで魔物複数匹を消滅させた。おかしいおかしい! アンタ等絶対魔王倒せるだろ! もうこのまま魔王城行くぞ!?
なんだかんだで魔王城。襲い掛かる四天王は脅威だったが爺さん達の敵ではなかった。
「ほー! 超氷結地獄」
「うわああ!」
四天王一人目、魔眼の毒蛇。凍死。
「どらああ!」
「ぎゃああ!」
四天王二人目、機械王。あっさりと真っ二つ。
「そい!」
「嘘だああ!」
四天王三人目、拳王。拳圧のみで消滅。
そして魔王の扉にまで辿り着き、爺さん達に作戦を伝える。
「先手必勝です」
「成程な」
「分かったわい」
「ほほほついに魔王じゃな」
作戦でも何でもないがこれだけで勝てる気がする。あと四天王三匹しかいなかったのは実は草原で倒した巨人が四天王だったらしい、知らぬ間に四天王全滅してた。
そして俺は緊張しながら魔王の部屋の扉を開けていく。重々しい扉はゆっくりと開いていき、中からは強烈なプレッシャーを感じる。
「ほう、よくそ来たなゆう……」
「今です!」
「っほほ! 神々の天罰」
魔法使いのアイズの放った雷魔法は魔王を一瞬で貫き、更にそれに続くようにトニーとブロウが連撃を叩き込む。魔王は断末魔を上げて肉体は滅び去っていった。
「「「イェーイ!」」」
「……あ、勝った? もう終わっちゃったかあ」
爺さん三人は元気にハイタッチして喜び合っている。俺はといえばこの光景を見て何かが違うと感じていた、そう、こんなの俺が求めていた異世界じゃない。
――この世界の爺さん強すぎる!
そして俺は魔王が討伐された世界には勇者は必要ないとのことで元の世界に送還された。見慣れた町の風景、常識的な人々、全てが安心する。
俺の異世界生活は一日で終了した、以上が俺の体験した不思議な話である。
ノリで書きました。基本自分の短編は全てその場の思いつきで勢いのみで書いています。