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異世界戦(いくさ)の『経験値』~俺は強化用素材!?~  作者: 誇高悠登
一章 経験値として生きてます
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8話 狂人の才能

 いつも冷静なサキヒデの悲鳴。

 それは、レベルの低い兵士たちの我を奪うには十分だった。

 シンリの攻撃は、これまでに経験したことのないものだった。未知の攻撃に対し、先頭にいた二人の兵士は無謀にも跳びかかる。

 その行為がどれだけ愚かなのか。

 サキヒデさんの怪我を見て判別が付かなくなっていた。

 

 愚かな人間は愚かに終わる。

 

 先ほどと同じく、シンリの握る物から『音』が響く。僅かに腕をズラしただけで、二人の兵士は眉間に穴を空け、谷下に落ちていく。溢れる血液が一本の筋を描いて、川に呑まれた。

 カナツさんが落下した兵士を助けようと身を乗り出すが、今更川に飛び込んでも兵士の命は帰ってこないと踏みとどまった。


「……っ」


 初めて見た異世界での死に、俺は思わず声を上げそうになる。自分が『死』を経験していなかったら、俺も自我を失って錯乱したことだろう。

 『死』に耐性を得た俺は、何が起こったのかを考える。


 兵士達は撃ち抜かれたのだ。

 俺が暮らしていた街の近くには自衛隊があり、この『音』を聞いたことがある。

 遠くてはっきりとシンリが手にしている『武器』は視認できないが、恐らく『音』の正体は――、

 

 『銃声』だ。


「お前! なんだよ、それは!?」


 ケインが叫ぶ。

 シンリが握っているモノの大きさから推測するに、恐らく『拳銃』だろう。俺にはその正体が何か分かるが、この世界に住む人々には何がどうなっているのか理解できないようだ。

 焦燥するカラマリ領に対して、


「まだ、精度に欠けるか。本当は眼鏡の頭を狙ったのだがな……。右肩とは大きくズレたものだ。距離があると狙いが外れるか」


 淡々と呟くシンリ。

『拳銃』の威力は申し分ないが、それを扱う自分の腕が未熟だと、手にしている『拳銃』を眺める。


「あとは、実戦で修正していくしかないな」


 次に狙いを定めたのは――カナツさんだった。銃口が向けられているにも関わらずに、その場から動こうとしない。どんな攻撃をするのか、見極めようとしているのか。 

 たった二回の銃弾では、流石の大将も見抜けない。

 当たり前だ。

『存在しない技術』をたった数回で理解できるわけがない。

 俺だっていまだにスマホの操作を使いこなせないもん。

 異世界に来た今……もう、触ることもないだろうけどな!


 カナツさんは、小さく腰を落として直ぐに回避できるように姿勢を変えるが、『音』を聞いてから逃げるのでは間に合わない。

 シンリが引き金を引く前に教えないと!

 俺は咄嗟に、


「カナツさん、逃げて!」


 大声を上げて茂みから立ち上がった。

 間一髪。


 俺の声の方が、引き金を引くよりも先にカナツさんの元に届いたようだ。

 銃声が聞こえるよりも早く、その場から跳躍する。カナツさんが立っていたすぐ後ろの樹木に銃弾が被弾する。


 木の枝に着地したカナツさんが、俺を見下ろして言う。


「お前……! なんで、ここに!」


 逃げるのが遅れていたら、自分が貫かれていたかも知れない。なのに、なんで俺を心配そうな顔で見るんだよ。どうせ、殺されても生き返るじゃないか。


「早く逃げないと撃ち抜かれますって!」


『拳銃』との対策の一つに、狙いを絞らせないように動き回ると、どっかのキャラクターが言っていた気がする。そんなこと実戦で出来るわけないじゃんかと思っていたけど――ここは異世界。

 身体能力は俺達の世界と比べ物にならない。


 とは言え、刀や槍のような近接武器での戦いに、『拳銃』が並んでいたら勝てるわけもない。

 いくら、異世界だろうと『武器』は通じるのだ。

 戦いのステージが違う。


 俺の言葉も一理あると判断したのか、ナツカさんが「お前ら……引くぞ!」と撤退を指示した。ケインとアイリさんは、怪我を負ったサキヒデさんを抱えて、森の中に消えていく。

 だが――、


「馬鹿、俺の方がレベルが高いんだ。邪魔するな!」


「早く逃げろ!」


「押すんじゃねけよ!」


 橋の上に立つ10人の兵士たちは、攻める時に見せていたチームワークが嘘のように、我先にと、互いに体を押しのけながら、ハクハ領の大将から逃げようとする。

 だが、そんな逃亡は、身体を絡ませ転ぶ結果しか生まなかった。

 押さない、走らない、喋らない。

 非難する時の『合言葉』ってやっぱり、大事じゃないか!


「ほう。自ら的になってくれるとは……。カラマリ領の人間も気が利くな」


 転んだ兵士の頭に狙いを定め、事務的な作業とばかりに、冷酷な動作で引き金を引く。


 1人、2人と頭部を撃ち抜かれ命を落とす。

 これが――戦場なのか。


 このままでは――残された兵士が全滅してしまう。俺はこれ以上、無残な死を見たくないと目を背ける。

 

『キィン』


 顔を背けた俺に金属同士がぶつかる音が聞こえてきた。

 なにが、起きたのか。


「あー、くそっ! こんなんじゃ来なきゃ良かったよ!」


 でも、俺は戦を見に来たんだ。目を背けてもどうにもならないだろうが!

 自分に言い聞かせてシンリに視線を戻す。


「あっ……」


 いつの間にかハクハ領に移動していたのか――俺の隣にいたはずのクロタカさんが、シンリの背後から小刀を手に戦っていた。

 レベル50の兵士では越えられない谷も、クロタカさんなら跳躍で飛び越えられるようだった。

 顔と顔を近づけた二人は、互いに笑い合う。


「隠れていたのに姿を見せていいのか? お前が隠れているのが面白くて、見逃してやっていたのにな」


「君が何か隠してたのは知ってたから……。拳銃(それ)が隠してたものだね。ふふふふ、面白い『武器』つかうねぇ。僕にも味わわせてよ」


「自分から死を求めるとはな。相変わらず気味の悪い奴だ。なら――望み通りに受けてみろ」


 シンリは半歩だがって銃口を突きつけた。

 二人の距離は殆どゼロ。

 狙いを定める必要もない。


「うん、そうするよ」


 クロタカさんが今度は大きく後方に跳んだ。その後を追うようにして銃弾が飛ぶ。

 回避するならカナツさんがしたように上空に逃げた方が、まだ、効率的だっただろうに、あろうことか、サキヒデさんは、後方――射線上に跳んだのだ。

 これじゃあ、回避とは言えない。

 

 だが――自身に向かう銃弾を、クロタカさんは空中で弾いて見せた。

 人間離れした行為に俺は固まる。

 銃弾を小刀で弾くって……そんなこと出来るのかよ。カナツさんたちの表情を見ると、異世界人だからできたって訳じゃなさそうだ。

 クロタカさんだからできたというべきだろう。 

 

 銃弾を弾いたクロタカさんが勝ち誇るようにして、小刀をシンリに構えて見せた。


「君が使うにしては、その『武器』は直線過ぎるね。殺気のままの攻撃じゃあ、僕には通じないよ?」


 信じられないことに、弾丸に込められた殺気を感じて回避を行っているらしい。

 殺気で攻撃を読む。それこそ、「狙いを定められる前に逃げる」と対をなすくらいに有名な方法だけれど、いざ、目の前にすると信じられないな。


「でも……これなら……!」  


 シンリが使っているのは、リボルバー式の拳銃。大きさから判断するに八発の弾丸と考えられる。

 ならば、弾切れまで、あと何発だ?


 サキヒデさんに1発。

 落ちて言った二人の兵士に2発。

 カナツさんに1発と、転んだ兵士に2発。

 合計――6発


「少なくとも、あと2発は凌がなきゃ駄目なのか」


 クロタカさんは、素早い身のこなしで照準を付ける隙を与えない。俺が伝えるまでもなく拳銃の回避方法を実践していた。

 

 直線的な軌道と殺気。

 その二つの短所を見事に見破ってみせた。それは大将であるカナツさんでも出来なかったことだ。やはり、戦に関してはカラマリ領の誰よりも優れているというのは本当のようだ。


 狂人ではあるが戦いの天才。

 その才能を俺は見せつけられていた。殺されるだけの俺には、見る必要もないのだろうけども……。


 後、2発。

 無傷で耐えてくれと、俺は祈った。

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