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78話 凌辱 

 アイリさんの武器は釣り竿のような糸を主体とした武器を使う。

 時には相手を絡めとり、時には刃として敵を切り裂く。

 どんな状況にも柔軟に対応できるその武器は、アイリさんに相応しいと言えるだろう。

 だが――ソウキとの戦いが始まって10分。

 俺達は悪夢を見ていた。


「う、うう……」


 自身の糸に絡まれ、試合場の四隅に立てられた柱に固定されていた。

体中が自身の毛と同じように赤く染まっていた。


 身動きの取れなくなったアイリさんは、既に意識が擦れているのか、ただ、何も言わずにそこに固定されているだけだ。

 それもその筈。

 アイリさんが口を開こうものならば、ソウキはその顔を殴り言葉を潰した。


「まだ、殺しはしないし、「負け」を認めさせもしない。じゃないと、他の奴らがこないからさ」


 ロゼ領の仲間が来るのを待っているらしい。

 そのために、アイリさんを殺さずに、痛めつけていた。


「あーあ。もうちょっとやり応えあると思ったんだけど、大したことなかったな。あ、そうだ。戦闘(こっち)が駄目なら、性行為(こっち)はどうだ?」


 ソウキはそう言って動けないアイリさんの首元に舌を這わす。

 短めに切られた着物の裾から手を入れて、下腹部を愛しそうに撫でる。戦の時とは打って変わった優しい手際。

 左手はそのままに、右手を胸元に伸ばす。


「なんだ、いいもん持ってるじゃねぇか。最初からこっちを出してくれれば、痛い思いせずに時間を潰せたのによぉ!」


 そう言いながら、上半身の服を脱ぎ、アイリさんの身体に密着させる。

 俺達を横目で嘲笑い、ただただ、アイリさんの感触と味を楽しんでいた。


「くそっ」


 生死による決着か、どちらかが敗北を認めるか。

 アイリさんは既にその選択を二つとも奪われた。


 だが、ここで誰かが試合場に登ったら、その時点で戦の勝敗は決定する。

 故に誰もが堪えなければいけないのだが――、


 そんなのカナツさんが我慢できるわけがない!


 俺は大将を見る。

 すると――、


「離せ! 私があいつを殺すんだ。アイリをあんな目に合わせて、無事でいられると思うなよ!」


 クロタカさん、サキヒデさん、ケイン。

 3人がかりでカナツさんを押さえていた。

 それでも――怒りで力が増しているのか、徐々に試合場にへと近づいていく。


 やばい、このままじゃカナツさんが失格になる!

 俺も微力ながらも身体全部を使って押さえつける。

 まるで、壁を押してる感覚だ。

 カナツさんは止まらない。


「落ち着いてください。ここで大将が手を出したら、私達の負けが決まってしまいます。おそらく、あの男もそれを狙ってるのです」


 サキヒデさんが必死に訴える。

 人数が集まっていないロゼ領が勝つには、俺達を反則負けにするしかない。

 そのための餌を撒いていると。

 しかし、それくらいはカナツさんも分かっていた。

 分かった上で足を進めようとしてるのだ。


「でも、だからってアイリがあんな目に合ってもいいのかよ! 私はこの敗北よりもアイリの命の方が大事だ!」


「大将、落ち着けよ! それを言ったら、戦で死んでいった仲間に顔向けできないぞ! アイリ姉さんだけ特別扱いすんのかよ!」


 ケインが言う。

 戦で命を落とす可能性は誰もが平等にある。

 そんな中でアイリさんだけ助けても、決していい顔はしない。


「ケインの言う通りです。アイリさんもそれを分かってるはず。だから、ここは堪えてロゼ領に勝ちましょう!」


「嫌だよ、そ、そんなの私には関係ないもん!」


 口では言うが、大将として――カラマリ領を背負うものとして、領民たちの命を誰よりも重んじているカナツさんは、力なく地面にへたりこんだ。


 言い争っていた俺達を試合場から見下ろすソウキ。

 俺達が揉めているあいだも、アイリさんへの凌辱は続いていたのだろう。いつのまにか、アイリさんの服は裂かれ、殆どが下着に近い格好にへと晒されていた。


「はっはっは。見てるかい? 赤髪のお嬢ちゃん? あんたのためにあんなに揉めてるよ。惨めだよな。『降参』の一つもできないほど、実力が離れてるんだから」


 たった4文字の言葉も口に出来ないほどの実力差。

 確かにソウキの力は、シンリと同等と言っていいだろう。

 二人の差は人を従えるかどうか。

 シンリは大将として領を支配し、従えているからこそ「一番強い」とされているのだろう。


 安定した強さとムラのある強さ。

 毎度成果を上げる人間の方が評価されるのは当然のことか。


 アイリさんの顔を掴んで俺達に向ける。

 指をアイリさんの口に入れて、舌を弄りながら俺達に言った。


「レベルだなんだって言っても、世の中は才能なんだよ。持って生まれたモノで決まる。どれだけ、あんたらが経験を摘もうが――俺達『ロゼ』には勝てないんだよ」


『経験値』なんてものはこの世界には必要ない。

 はっきりと切り捨てた。

 俺達のこれまでの努力を、成果を『無駄』だと笑う。


「くそ……。やっぱり、俺が戦えば。そうすればアイリ姉さんはあんな目には……」


 先鋒として自分が戦えば、アイリさんがあんな目に遭うことはなかったとケインは悔やむ。

 少年の悔いを和らげるようにして肩に手を置いたのは、意外なことにもクロタカさんだった。


「君は悪くない。誰が挑んだってああなってたよ。――僕以外はね」


「珍しくフォローしたと思ったら、余計なことを付け足さないでくださいよ、クロタカさん」


「そういう君も、冷静ぶってるけど、拳、強く握り過ぎじゃない?」


 カナツさんを除く三人は、怒りを殺し、自分が戦えるのを待っていた。

 なんとかして、アイリさんの試合を終わらせなければ。


 俺の持つ能力でなにかできないか?

 今、俺にある能力は、デフォルトで与えられた『経験値』の能力。

 レベルが上がればアイリさんの怪我は治る。

 しかし、口が開けない以上、俺を殺すことすらできない。


 二つ目が分身に意識を移す能力。

 これも駄目だ。

 分身を連れてきていないし、来た所で試合場に上がれないんだから意味がない。


 三つ目が触れた相手のレベルを下げる力。

 ……くそ。

 これを戦前に使ってれば。


 駄目だ。

 結局、俺に出来ることはない。

 こうして待つしかないのか。

 俺も拳を握り、身体を好きなように嬲られるアイリさんから目を反らす。


 その時だった。


「待たせた、かな……?」


 試合場に1人の男が現れた。

 背が高く色が白い。

 藍色の髪を後ろで縛り、服装はタキシードとでもいうのか。

 そんなキザな服装にも関わらず、寂しげな表情の男は、試合場で遊ぶソウキに小さいがよく通る声で言った。


「おせーぞ、マキシ。危うく、可愛い女の子を殺すところだったじゃないかよ」


 アイリさんから手を放して、仲間の――マキシの元に近寄る。


「殺す……? そんな風には見えなかったけど? それに、殺すなら殺せばいいんじゃないのかな? 今までだって殺してたんだからさ」


「はっ。残念だったな。今月の俺は、女性は殺さない月間なんだ。自分で決めたルールくらいは守らないとな!」


「あ、そうなんだ。それにしても、皆は……?」


 戦場に来ているのがソウキしかいないことに首を傾げる。


「まだ来てないんだよ。お前が二番目だな。俺的にはキキが一番だと思ったけど」


「ああ、確かに。彼はああ見えても一番真面目だからね」


「違いないな。ま、次の相手が来たら、俺はもうお役目御免だな。この続きはベットでするか」


 縛っていた柱からアイリさんを解放し、そのまま試合場から連れ出した。

 四隅の柱に『勝者 ソウキ』の文字が浮かび上がった。


 ロゼ領との戦い。

 それは俺が経験してきた中で、皆が一番苦戦する相手かも知れない。


 試合に勝つことよりも、皆が無事に帰れることを俺は願った。

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