77話 たった一人の対戦相手
「さてと。リョータの問題はいいけど、私達も気を引き締めないとね」
ロゼ領との『団体戦』
メンバー5人で戦うその勝負に向かったのは、なんと、カラマリ領の主力たちだった。それほどまでに、ロゼ領は強いと言うことの現れなのかもしれない。
1人たりとも手を抜けないと。
因みに戦う順番を俺達世界の『団体戦』風に言うのであれば、
先鋒はアイリさん。
次鋒にケインさん。
中堅にサキヒデさんで、副将がクロタカさん。
そして大将はやはり、カナツさんだった。
なお、この順番を決めるにあたって、一悶着あったのは言うまでもない。
揉めたのは先鋒、そして副将だった。
先鋒を決める際に、「切り込み隊長である俺が、先頭を走らないで、誰が走るって言うんだ」というケインと、「たまにはー私も一番に戦ってみたいなー」とアイリさん。
どちらも譲る気がないので、その判断はカナツさんにゆだねられた。
そうなれば勿論、通るのはアイリさんの意見なわけで、先鋒はアイリさんに決定した。
そもそも、何故、カナツさんに判断を任せたのか、俺は疑問で仕方ないけど、「俺の方が一番に相応しい」とケイン自ら申し出たのだから、何とも言えない。
ケインとしては、最近、調子がいいから、カナツさんに認めて貰ってると自負してたのだろう。だが、よく考えてくれ、ケイン。カナツさんにそんなことは関係ない。
で、副将で揉めたのは、また元言うべきかサキヒデさんだった。「何故、クロタカさんが副将なのか? 参謀として支える私としては納得いきません」と、唯をごねたのだ。
まあ、サキヒデさん、俺が来てからいい所ないもんな。
そう食いつくが、アイリさんとケインの時と違って、「僕はどっちでもいい」とクロタカさん。そしてカナツさんも「面倒くさいなー」とどうでも良さげである。
ならば、ここで俺が動くべきだと、「いいですか、サキヒデさん。こういった団体戦で一番大事なのは中堅なんですよ。最初の二人が負けたら、どうするんですか? 首の皮一枚繋げる役目を、サキヒデさん以外、誰が担うんですか」
そう言って説得を試みたところ、
「私が中堅ですね」
直ぐに決定した。
……だから、この人、マジで策士なのか?
そんな一悶着があった後に、俺達は戦場として定められた闘技場――四角に並べられた柱の中央に正方形の台が。
分かりやすい闘技場。
そこで俺達は定められた時刻にやってきた訳なのだけれど――、
「こないな」
今回の対戦相手であるロゼ領は姿を見せなかった。指定された時刻から半時過ぎれば不戦勝となるらしいが、それまでは後、数分もないだろう。
俺はこのまま不戦勝になるんじゃないかと期待しているのだけれど、5人は一向に気を緩めない。何故なのかと隣に立つサキヒデさんに聞いてみた。
「彼らはいつもそうなのですよ。指定された通りに来たことがありませんから」
「そうなんですね……」
その言葉の通り、時間ギリギリになって一人の男が姿を見せた。
身長も高いが手足も長い。
眼の下に濃いクマが浮かんでいる。顔色の悪さにこっちが心配になってしまう。
「いやー、ごめんごめん。中々、仲間が集まらなくてさー」
見た目の割にはきはきと陽気に話す男。話し方はともかくとして、仲間が集まらなかったということは嘘ではないのだろう。現に男は一人だった。
ぼさぼさになった髪をオールバックに書き上げながら言う。
「で、取り敢えず、最初は誰が戦うんだ? しょうがないから一番目は、仲間が来る間は、俺が相手してあげるよ」
「ふざけるな! たった一人で『団体戦』が出来ると思うのか!?」
遅れてきたにも関わらずに、挑発する言動にケインが怒鳴る。
団体と言っているが、姿を見せたロゼ領は一人。
「だから、後で来るんだって。そこまでいうならさ、俺を秒殺して、残りの4人は不戦勝ってことにすればいいじゃないか。ま、それが出来れば、だけどね……」
不戦勝か。
それが可能であれば、一戦だけ戦えば勝利する。
最悪――ワザと負けるって言う手もあるが、俺はカラマリ領の主力を見る。
「誰があんたみたいな奴に負けるんだよー!」
カナツさんを筆頭に、皆引く気はないようだ。
落ち着いてくれよ。
冷静になれば勝利はすぐそこに転がってるんだよ!
「あれ、ひょっとして、俺ってそんなに顔、売れてない感じか? 俺の名前、知ってる? そこの眼鏡くんはどうだ?」
「知らないですね……」
サキヒデさんが知らなければ誰も知らないか。
自分が対戦相手を知らない言い訳をするように続けた。
「大体、ロゼ領は戦に参加する人数が少ないですから。一人で戦うなんてことが日常茶飯事。なので、恐らく――カラマリ領と戦うのは初めてなのではないですか?」
サキヒデさんの言葉に、たった一人の対戦相手が「ああん? と目を丸くする」
「あれ、お前らカラマリ領なのか?」
「そうですが……?」
「くそっ! 嵌められた! 今回は久しぶりにハクハと戦えるって聞いたから一番に駆け付けたのに。こんなんじゃ、俺も帰るか……」
さっきまでの挑発が嘘のように、「ちょーし乗ってすいませんでした」と、小さく頭を下げ、地面を見たまま背を向け去ろうとする。
その背中をカナツさんが呼び留めた。
「ちょっと、何を言ってるの? 対戦相手はカラマリ領だって『戦柱』に表示されたでしょ?」
「いやー、俺、そんなの見ないんだよね。対戦相手なんて誰でも同じだし」
「うーん、私達、舐められてるね」
男の態度にアイリさんですら、鋭い眼光を向けていた。
思えばアイリさんのこんな表情を見るのは滅多にない。
相当、怒っている。
自分が商品にされた時ですら穏やかだったのに。
カラマリ領の怒りには気付かないのか、「とほほ」と泣きまねをする男。
「こないだシンリと戦って、ロゼ軍以外にもあんな強い奴がいるのかって驚いたんだよね。だから、戦いの続きをしようかと思ったんだけどさ」
俺は男の言い方が気になった。
それでは、シンリより自分の方が強いみたいではないか。俺と同じことをケインも思ったのだろう。聞いてくれた。
「大した自信だな。シンリより強いとでも言いたいのか?」
「まあ、そうなるね。だって、前回、ハクハは二人で俺と戦って、逃げるだけが精一杯だったのだから」
「なっ!?」
まさか。
ロゼ領の人間が底まで強いとは。数が少なくランキングが高いのだから、個人が強いと分かっていたけれど、まさか、シンリよりも強いとは。
そんな人間がいるなんて――。
「カズカってやつと一緒に戦ってたな。ま、あんな奴らが何人いようが同じだけど」
カズカを雑魚呼ばわりするロゼ領。
うそだろ?
あいつ、クロタカさんと互角だぞ?
つまり――カラマリ領の主力と同じかそれ以上の力をこいつは持ってるのか?
いや、はったりだ。
これも全て演技。
俺達の虚を突こうとしているのだ。
男の言葉の真意を探る俺達に、初めてロゼ領の、たった一人の対戦相手は名乗った。
「俺の名前はソウキってんだ。いずれ、この世界で一番の男になる名前だ。覚えて置け!」
ビシっと指を突き差して顔を決める男。
髪を掻き上げるのがお気に入りなのか。
男――ソウキに最初に応じたのはアイリさんだった。
「う、ううん。ごめん。話が長くて聞いてなかったよー。で、君が一番に戦うんだよね? ってことは、私と戦うんだよねー」
うわ、珍しく挑発してるよ。
アイリさん怒ったら怖そうだもんな。
これは相手が可哀そうだぜ。
勝利を確信する俺とは違い、カナツさんは心配そうにアイリさんを呼んだ。
「アイリ……」
「あれー、大将、もしかして私のこと心配してるー?」
「そりゃ、するよ。相手はシンリよりも強いんだよ?」
「はは。もう、大将は素直だなー。口でいうならいくらでもできるよ。それに、私は大将が一番強いって思ってるから」
だから、任せて。
アイリさんはそう言って前に出た。
「だから、笑顔で応援してねー」
傘を広げて振り返るアイリさん。
多少、怒りは有るだろうけど、カナツさんの心配のお陰でいつも通りに戻ったみたいだ。
「分かった。行っておいで!」
大将の鼓舞する声が――戦会場に響いた。




