表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/81

76話 答えの見えない犯人捜し

捉えたメイル領二人の話によると、カラマリ領が勝利したその後、諏訪さんは毒によって命を落としたらしい。


 異世界人の死。


 この世界では死は当たり前。

メイル領の皆は、誰もが諏訪さんの死を、当たり前のことだと受け入れようとした。

だが、一か月経ってもメイル領は諏訪さんの死を引きずっていると彼女たちは言う。諏訪さんと共に過ごした時間は短いだろうが、それでも、彼女たちの心の奥深くに諏訪さんはいた。


 俺がカラマリ領の皆と様々な経験をしてきたように、メイル領でも色々とあったのだろう。

 メイル領の二人は、現在、俺が殺される場として使われている、石室に連れて来られていた。壁に取り付けられた手錠で二人の動きを封じている。


 落ち着いた二人が暴れ出すことはないだろうが、それでも、いつ、攻撃を仕掛けてくるか分からないという、サキヒデさんの提案だった。

 メイル領の大将、シンユキさん。

 そして、メイル領で最も腕の立つ戦士、アス。

 二人の力があれば、今回のように不意打てば被害はでかい。だが、犠牲になったのは俺だけ。彼女たちは、畑で仕事そしていた、分身の顔を見て、怒りが抑えきれなくなったらしい。


 諏訪さんを殺した俺の顔を。

 怒りに来るっていたからこそ、ケインとクロタカさんに簡単に捉えられたようだ。

 そんなことを思いながら話を聞いていた俺に向けて、


「お前、随分、冷静だな。あれだけ、「異世界人同士の殺し」を嫌がっていたのに」


 シンユキさんが言う。

 元々、雪のような白さを持っていた彼女だけど、今はもう、白いというよりは、ただ、血の気のない肌に変化していた。

 それだけ、諏訪さんがいなくなって苦しんだ証拠だろう。


「当たり前だ。本音を言えば、この世界の人間達の殺し合いだって嫌いなんだけどな」


 でも、俺一人では無理だ。

 世界を変えるほど強くない。

 しかし、異世界人である俺達は別だ。

 殺し合いまでする必要はない。

 むしろ、手を取って平和にへと導けるはず。

 そんな願いを込めて、俺は諏訪さんに言った。


「異世界人同士での争いは止めるべきだ」


しかし、そんな言葉を吐いた俺の矢には、毒が塗ってあり、それが原因で諏訪さんは死んだ。

メイル領は俺に騙されたと思っているらしい。

 それが本当ならば、彼女たちが激高し、危険を冒してまで復讐に来るのも納得できる。

 だが、俺は毒を使った記憶はない。

 自分が何もしていないことを良く知っているし、カラマリ領には毒を使う人間もない。そう言い切る俺に、暴れるシンユキ。


「なら、誰がやったんだよ!」


「それは……」


 そう――そこが問題なのだ。

 あの場所には俺とクロタカさんしかいなかった。そして、クロタカさんは〈ゾンビ〉になっており、命令に逆らうだけで動けない。

 二人の内、一人が身動きが取れないならば、犯人は俺しかいない。

 実に簡単な犯人捜しだ。

 俺が犯人ならば、「証拠はあるのか?」と言って、最後に足掻いてみせるだろう。

 でも、俺は――。


「分からないよ」


 諏訪さんとさほど親交があったとは言えない。

 むしろ、苦手な先輩だった。

 でも、それだけの理由で殺す選択は取らない。


「……諏訪さんの力って、やっぱり、他の領でも使ってるんだよね?」


 俺はメイル領の二人に聞く。


「当たり前だ! ここから、私達がコウタロウと共に頂点に登っていくはずだったのに……!!」


「なるほど」


 つまり、諏訪さんを殺したいと願う人間は無数にいるわけだ。自在に〈ゾンビ〉を操る力――『ネクロマスカレイド』。

 諏訪さんが作り出す仮面を被れば、その使用者は〈ゾンビ〉になったり、元の姿に戻ったり、しまいには、〈ゾンビ〉を操ることもできる。

 ハッキリ言って、脅威でしかない。

 戦をしているこの世界ならば、命を落とす者はかなりの数になる。しかも、〈ゾンビ〉は『戦柱』の指定する人数制限に引っ掛からないおまけ付き。


 優勝を目指すならば、諏訪さんを殺したいと願う領は多い筈だ。

 クガン領とハクハ領なら、迷わずに狙うだろう。

 だが、しかしだ。

 どれだけ、思い返そうとも、あの場にいたのは俺だけ。

 毒を塗れる人間はいない。

 念のために、その時持っていた矢を全て調べたが、毒は塗っていなかった。つまり、俺が使った矢にだけ、毒があった。

 そんな偶然あるか?


 だからこそ、メイル領は俺を疑う。

 答えの見えない犯人捜し。

 そこで、ふと、なにかに気付いたのだろうか、カナツさんが言う。


「誰もいないのに毒が塗られた。それってさ――異世界人の仕業じゃないの?」


 不可能な状況を可能に出来るのは異世界人に与えられた力だけだと言いたいようだ。

〈ゾンビ〉を生み出したり、『経験値』を増やしたり。

 ならば――誰に気付かれることなく毒を使用しても不思議ではない。

 カナツさんの言うことは一理ある。

 可能性はむしろ高いようにも思える。

 でも、


「でそれはないですよ。大体、皆の力は知ってる訳だし」


 ハクハ領にいた池井さんの力は『武器を想像する力』。拳銃や爆弾を無から創り出す能力。

 クガン領にいる土通さんは、地面を通じて瞬間的に移動できる能力。

 三人目は、領を追い出された先輩。火、風、水、雷の、4つの属性を操る能力。

 そして、諏訪さん。 

 異世界人の力は俺は殆ど把握している。

 だが、まだ一人、把握していない人間がいるとケインが言う。


「いや、一人、知らない奴がいるじゃんか。そいつが殺したんじゃないのか?」


 異世界人最後の一人――竜哉。

 俺の同僚だ。


「まさか。竜哉はそんなことしない」


 先輩と一緒になって、内気な俺を誘ってくれたあいつは、なによりも人がいい。

お年寄りに迷わずに席を譲ることができる人間だ。かといって、先輩のように正義一辺倒ではなく――程よくいい人間なのだ。

 人として一番好かれる距離感を分かっている。

 必要悪も理解している。

 だからこそ、人を殺すなんて行為をするはずがない。

俺の知る竜哉ならば、あいつは、今も戦いを拒み、精々、自分に所属する領を勝たせるために努力していることだろう。

 俺の言葉にカラマリ領の主力たちは、「リョータが言うなら違う」と直ぐに疑うのを辞めた。

 俺を信用してくれていると分かり、ジワリと涙が浮かぶ。


「まあ、取り敢えず、私達も次の戦に集中しましょう」


 考えてもキリがないとサキヒデさんが言う。考えるべきは次のロゼ領とどう戦うのか。経験値を稼げなくなった今、早急に手を打たなければいけません。

 そう言う策士の言葉に、皆が強く頷いた。


「…………」


 俺だけは、頷くことができなかった。

 諏訪さんの死を――まだ、完全には受け入れられなかったから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ