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75話 毒

「殺したって……。そんなことしてないですよ。戦いが終わった後も、僕はカラマリ領に残ってましたから」


 俺が諏訪さんを殺したわけはない。

 戦が終わった後、俺はカラマリ領から一歩だって外に出ていない。第一、この世界の地形をまだ、よく理解していないのだ。

 メイル領がどこにあるのかさえ把握していない。

 そんな俺が、カナツさん達に気付かれることなく、他領を攻めるなんて出来る筈もない。


 なにかの間違いだとメイル領の二人に俺は言う。

 だが――、


「ふざけるな! お前が戦で矢を撃ったのだろう!」


 先日あったメイル領との『旗取り』。そこで矢を放ったの人間は俺だと、喚く。


「え、まあ、そうですけど」


 確かに矢を射ったのは俺だ。クロタカさんとの修行もあり、ゾンビを生み出し操っていた諏訪さんを攻撃した。

 だが、精々、少し刺さっただけだ。

 あれで死ぬとは思えない。

 それは、一緒に行動していたクロタカさんも分かっていた。


「いくら、異世界人だったとしても、あれくらいじゃ、死なないでしょ。もし、傷が深かったとしても、それで死んだのならば、君たちの手当てが悪かったってことだよ」


 クロタカさんは押さえつけている相手に言った。

 クロタカさんの言う通りだ。

 自慢ではないが、俺も死ぬことに関しては人一倍の経験を持っていると自負している。この世界の人間と違い、レベルやステータスのない俺達が、いったいどれくらいの攻撃を耐えれるかどうかは、この身をもって経験済みだ。

 いや、これは僕だけでなく、何度も戦場に立っているシンユキさんたちだって知っているはずだ。


「あの程度で死なないのは、あなた達の方が分かるでしょう?」


 大体、俺が弓を放ったのは殺すためじゃない。修行の成果があったとはいえ、それは真っ直ぐ飛ばせるようになっただけ。だからこそ、せめてもの反撃として行ったのだ。

もしも、俺の持っている武器が『弓』ではなく『拳銃』だったのなら、俺はあそこで使わなかった。諏訪さんを撃たなかった。


「惚けるな! なにがあれだけの攻撃だ!! 毒なんて卑劣なモノを使っておいて、まだ、誤魔化そうとするのか!!」


 毒を使った?

 一体、何を言っているんだ?

 俺は毒なんて使った記憶もないし、触ったことすらない。蜘蛛や蛇を見たら、毒を持ってるんじゃないかと、どれだけ小さくても距離を取る臆病者だ。

 そんな俺が自分から触る筈もない。

 故に矢に塗るなんてことは以ての外だ。


 それに、弓を作り、渡してくれたのもクロタカさん。クロタカさんは戦を楽しむタイプの人間だ。自ら手を合わせて殺し合いを望む狂人。

 作ってくれたのが、策士で陰険な悪徳眼鏡ならばいざ知れず、クロタカさんがそんな真似するとは思えない。


「……今、一瞬私をみて、侮辱しませんでしたか?」


 俺が視線を僅かに向けたことに気付いたサキヒデさんが、敵を抑えたまま眼鏡の位置を直した。この状況で声に出して聞くのかと、呆れたのは俺だけじゃなかったようで、


「サキヒデは黙ってろよ。リョータ……それは本当なのか?」


 ケインが俺に聞いてきた。


「いや、全く……身に覚えがない。けど――」


 だけど――諏訪さんが死んだ?

 もし、毒が使われていたことが本当だったら、メイル領の二人がリスクを背負って攻め込んできたことも納得できる。

 愛すべき人を殺された復讐。

 分かりやすい――道理だ。


「お前がコウタロウを殺したんだ!!」


 身体をよじって再び暴れようとするシンユキ達。

 押さえつけているケインやサキヒデを振りほどかんばかりの暴れようだ。


「……駄目だね。もう、リョータしか見えてないみたい。ちょっと、このまま拘束しようよ」


 これ以上、話しは聞けそうにないとアイリさんが、カナツさんに言う。


「その方がいいみたいだね。サキヒデ」


「分かりました……」


 そう言うと、どこからか縄を持ち出して慣れた手つきで女性を縛っていった。


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