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74話 絶滅のバックアップ

 天守閣に怒鳴り込んできた一人の兵士。

 その内容に俺は凍り付く。

 分身が殺された……どういうことだ?


「今、クロタカ様とケイン様が向かいました。敵は二人――シンユキとアスです!」


 シンユキとアス。

 前回の戦で戦ったメイル領の人間だった。彼女たちが何故……?

 戦で負けた腹いせということか……?

 しかし、戦でもないのに、異世界人の俺を分身とはいえど殺すことは、『戦柱〈モノリス〉』に反するギリギリの行為。

 下手したら、領が亡びるかも知れないのだ。その危険性を冒してまで、戦が終わったばかりの相手陣に攻め入るなど、メリットは一つもないではないか。

 本当に俺の分身が滅んだのかどうか、急いで確認しようと3人は飛び出した。天守閣の窓から、近くに生えている木々の枝を伝って行く。

 直線的に俺が働いている畑に向かうようだ。


「よし……!」


 俺も三人を真似て窓から飛び出そうとする。とは言え、あんな忍者みたいな真似はできない。普通に落下して死ぬだけだ。

 だが、死ねば俺は畑で蘇る。

 復活する場所は限られるが、誰よりも早い移動方法だ。

 窓枠に足を掛けて風を感じた時、背後から兵士に止められた。


「なにしてるんですか!」


「なにって、死んで移動すればいいかなって……」


「今、あなたは全滅してるんです。それがどういうことかはあなたが一番分かっているでしょう」


「……あ」


 そうだ。

 分身が全滅しているのであれば、俺は生き返れない。そんな当たり前のことに俺は止められるまで気付かなかった。

 自ら命を絶つところだった。

 窓から顔を出すと、血塗れになって骨の砕けた自分の最後が浮かんできた。『死』の恐怖。薄れていた恐怖が、凝縮されて俺に帰ってきた。


『死んでもいいや』


 そんな非常識なことが、この世界に来て半年。

 俺の脳内に刷り込まれていた。

 これは土通さんが言っていたことじゃないのかと、今になって意味が分かった。

 死ぬのも殺すのも同じだと。

 俺は生きるために自分を殺して力を使う。

 土通さんは生きるために敵を殺す。

 ただ――それだけの違いでしかなかった。


「あ、ああ……」


 情けないことに死を感じた俺は、膝が笑って腰が抜けた。天守閣の床にみっともなく尻を付ける。

 嘘だろ? 

 俺、メイル領と戦って勝利に貢献したんだぜ? 

〈紫骨の亡霊〉とだって戦ったんだ。

 それなのに、窓から飛び降りようとしただけでこんな怖いのかよ。

 俺は自分を笑って力を込めようとするが、やはり、力は入らない。


「く、くそ!!」


 壁に掴まり身体を立たせ、震える足を引きずり階段を降りようとする。

 そんな俺の脇を抱えて力を貸す人間がいた。

 人間も何も、この場所には報告に来た兵士一人しかいないのだから、彼だろう。礼を言おうと横を見ると――そこにいたのはカナツさんだった。


「あーあ。やっぱり死のうとしたんだねー」


「か、カナツさん!?」


「リョータのことだから、分身いないのに死ぶんじゃないかと不安になって戻ってきたんだよ。じゃあ、しっかり掴まっててねー」


 カナツさんは俺を抱えて宙へと跳んだ。

 ……。

 俺が死ぬことに怯えたこと見られていたのか……? だとしたら、凄い恥ずかしいんだけど。恥ずかしさを紛らわすために俺はカナツさんに話しかけた。


「それにしても、なんで分身を殺したのですかね……?」


 分身が作物を作っているのを知り、畑を荒らしに来たってことか? カラマリ領の食料を奪い、疲弊させるために?

 でも、それならば、戦う前に来るはずだ。

 今、荒らしたところでメイル領に得はない。

 そもそも、俺が畑を作ってるとは言っても、他でも作っている農家さんはいる。


「うーん。それは私にも分からないんだよねー。戦以外で他領の人間を多く殺す行為は危険だっていうのにね……」


 カナツさんも想像できていないようだ。

 その後、無言のまま畑を目指す。

 攻めてきたのはシンユキさんとアスと言っていたか。

 シンユキさんはメイル領の大将で――諏訪さんに恋する乙女だ。大将がここにきているということはメイル領全員の意思と言うことか?

 もしくは、俺に敗北した諏訪さんが腹いせに。

 うん。

 そう考えると一番しっくりくるな。

 それともう一人はアスと言ったか……。

 あんま、覚えてないな。

 正直、フブキとシンユキさんくらいしか記憶に残ってない。

 後は精々、ゾンビだけ。


「ゾンビと分身の争いか……。見たくないな」


 敵は二人って言ってたけど、まあ、当然ながら引き連れているだろう。メイル領との戦を終え、一応、カラマリ領の皆に〈ゾンビ〉の特性や弱点を教えたから、負けることはないだろう。

 畑に付くと既に二人の敵は捕らえらえていた。

 ケインとクロタカさんが取り押さえていた。

 だが、俺の視線は直ぐに別の惨劇に奪われる。


「これは……」


 畑の中、芽生えた作物の上に倒れる、命亡き残骸――分身たちが死んでいた。

 腕を千切られ、顔を剥がされ、ありとあらゆる痛みを全ての分身に与えていた。

 死体が当たり一面に散らばる。

 ここにいたのが俺と知らなければ、誰が殺されたのかわからないほど、原形なく全ての分身が殺されていた。

 俺と同じ景色を見たカナツさんは、


「シンユキ、どうしたのー? こんな意味ないことをするとは思えないんだけど……?」


 捕らえられた大将――シンユキさんに聞いた。

 あれ?

 彼女、こんな肌が白かったけ? いや、元々は肌は白いんだけど、でも、何て言うんだろうか、色白というよりも不健康なのだ。

 まるで、何日も食事をせずに眠れなかったように。

 クロタカさんに背後から羽交い締めにされたシンユキさんは、俺の顔を見ると牙をむいて噛みつこうとする。

 それはどこか、怒った子供を押さえつける教師のような状態だった。


「お前、お前が!!」


 シンユキさんとアスが俺を見つけると暴れる力を強くする。捕らえている相手がクロタカさんでなければ力で撃つ勝つことが出来るだろうが、レベルに関してはクロタカさんの方が高い。

 暴れるシンユキさんの足元を払って地面に押し倒す。

そして、馬乗りになり、より一層、固定を強くした。


「ほら、シンユキ、話を聞いてよ」


 倒れたシンユキさんに、視線を近づけるようにしてアイリさんが座った。

 シンユキさんとアイリさんは敵同士とは言え、求め、求められた関係。

多少は会話は通じるようだ。

 アイリさんの言葉に、俺を睨んだままシンユキさんが言う。


「あいつが、あいつがコウタロウを殺したんだ!」


 俺が諏訪さんを殺したと。

 俺が諏訪さんを?

 何言ってるんだ?

 むしろ、俺の方が殺されそうになった筈なんだけどな?

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