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73話 連鎖する最悪

 次回の戦が決まったことを受けて、天守閣には3人の主力たちが集まっていた。集まったのはカナツさん、アイリさん、サキヒデさんだ。

 ケインとクロタカさんにも声をかけたようだが、集まらなかった。

 まあ、あの二人は実戦で戦いながら考えるタイプだ。

 サキヒデさんが次の対戦相手と対戦方法を書き連ねて呟いた。


「対戦相手がロゼ領で――内容が団体戦。……考え得る最悪の組み合わせですね」


 ロゼ領。

 順位は3位で俺がこの世界に来てから初めて戦う相手だ。縮まらないハクハ領との差の中で、3位というカラマリと近い力を持つ相手は望ましくないだろう。

 単純に考えれば、ハクハを覗く領の中で一番強い。だが、俺は『最悪』と呼べるほどとは思えない。

 今までにない空気の中で俺は聞いた。


「あのー、カナツさんもサキヒデさんも、『最悪』とはちょっと言い過ぎなんじゃないですか?」


 そんなことを言っていたら、勝てる者も勝てなくなりますと、まあ、励ましの意味を込めて質問してみたのだけれど、結果、大将と策士に睨まれるという結果になった。

 ロゼ領のことを知らないんだから、そんな顔しなくてもいいではないか。俺の気持ちを代弁するかのように、手を叩きながらアイリさんが二人を窘める。


「二人共そんな顔しない。リョータはロゼ領と『団体戦』のことを知らないんだから、しょうがないでしょー」


「アイリさん!」


 前回の戦では手を出さないという誓約から、手を出すことはしなかったけれど、今回はバリバリで参加してもらえるようだ。

 いやー、本当にアイリさんがメイル領に奪われなくて良かったよ。

 アイリさんが居なかったら、カラマリ領はボロボロだな。上手く話を纏める人がいなくなってしまうところだった。

 上半身を俺に向けてアイリさんは言う。


「あのねー。ロゼ領は、たった数十人で3位にいるんだよ」


 ロゼ領の特徴。

 それは人数が一番少ない領にも関わらずに3位という高い順位に位置する領なのだと。


「数十人ですか……?」


 レベルやステータスがあるこの世界で戦力の数は決して強さではないけれど、それでも数が多いことは有利であることに変わりはない。

 ハンディ戦の時のように戦に参加できる人数が制限されることはあるが、それでも30人や100人と言った大規模なものが多い。

 だが、ロゼ領は20人。

 最大数に満たないのではないか?

 100人を相手に20人で挑む。そんな状況でも3位にいる。戦場に出て、その厳しさを知った俺は『ロゼ領』の恐ろしさに身震いする。

 そんな俺に追い打ちをかけるようにサキヒデさんが言った。


「『団体戦』。それは、選ばれた5人で戦うことなのです」


『団体戦』というのは、武道に多く見られるルールと同じらしい。

団体戦とは言うものの、内容は一対一の個人で戦い、多く勝利した物がいる領が勝ちということらしい。

 指定された人数は5人。

 つまり――たった二十人で他の領と渡り合う少数精鋭のロゼ領と、一対一で戦わなければいけない。それがカナツさんやサキヒデさんが言う――『最悪』らしい。

 なるほど。

 確かに最悪だ。


「今までの戦いは数で押し切りなんとか勝利を収めていましたが――この状況でこのルールの戦は厳しいですね」


 サキヒデさんの漏らす本音にアイリさんもカナツさんも言葉を返さなかった。

 しばらくの沈黙を破ったのはカナツさん。


「せめて主力である三人が出て来なければいいが――ロゼ領の考えは分からないからな期待するのはやめておいた方がいいな」


 ロゼ領の中でもっとも強い相手は三人いるらしい。

『団体戦』に出て来なければいいとカナツさんは期待するが、すぐに対戦相手に期待するのは無駄だと首を振る。


「主力が三人と大将。合わせて4人も強敵がいるんですね!」


 この場の空気を少しでも明るくしようと俺は言う。

 5人の『団体戦』に置いて強敵が4人。

 厳しい戦いにはなるが、皆なら勝てます!

 とガッツポーズを取って応援する。


「あ、ロゼ領の特徴としてもう一つ。彼らには大将がいないんだよー」


 ロゼ領には頂点に立つ人間がいない。

 アイリさんは俺の気遣いに合わせてか、「だから、強敵は3人だねー」と笑顔を向けた。


「各々が好きなように暮らして、好きなように戦う。それがロゼ領の決まりらしい」


「それなのに三位に……」


 聞けば聞くほど異常になっていくロゼ領。

 ハクハとはまた違った強さを持っていた。


「そ、でも、団結する時はするから。人数が少ないから、仲間に対する思いは強いんだ。私がアイリの為に戦った時のように、限界を超えた力を発揮するんだよ」


 大将がいないということは決して纏まりがないのではないとカナツさんが言った。

 仲間の為にならばどこまでも強くなれる。

 自身の経験を踏まえて拳を握る。


「……俺、その戦いみてないんですけどね」


 とにかく、仲間の為に限界を超えるということらしい。

 誰かのために力を使う。

 まるで、どこぞのヒーローみたいだ。

 その言葉に俺は先輩を連想して――直ぐに別の異世界人の顔に辿り着く。

 この世界に来て6人目――最後の異世界人に。


「残ってるのは、竜哉か……」


 竜哉は俺の同僚だ。

 お調子者ではあるが、悪い奴ではない。あいつなら、もしかしたら、俺と意見を合わせてくれるだろうし、一緒に異世界人同士の戦いを止めてくれるはず。


「ただですら、厄介な『団体戦』に異世界人まで……。やれやれ、厄介ですね」


 大将はいなくても、やはり強敵は4人いるようだ。


「ほら、策士がそんな弱気を吐かないのー。そんなんじゃ、いい作戦思いつかないでしょ?」


「……『団体戦』に策もなにもないですよ。必要なのは単純な強さです。戦までの一週間。我々のレベルと技術を磨くよう再度、『経験値』の頻度を考え直します」


 今まで、俺を倒すローテーションから外れていた主力たち。だが、5人必要な『団体戦』だ。間違いなく主力たちが戦にでることになる。

 一週間で主力のレベルを上げなければならないとなると、今も畑仕事している俺の分身(バックアップ)を使いきるしかない。

 それでもレベルが上がるのは1か2程度。

 まあ、無いよりはマシか。

 強敵を前に目に見えて強くなったとなれば自身にもつながるだろうしな。カナツさんですら『ロゼ領』との『団体戦』を前に気負っている。

 こんな状態では勝てるものも勝てなくなる。


 だが、『最悪』は大抵連なって起こるものだ。


 天守閣に1人の兵士が駆け上がり叫ぶ。


「大変です――! リョータの分身がメイル領によって全滅させられました!」

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