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70話 異世界人殺し

「コウタロウ様! 大丈夫ですか!?」


 メイル領に戻り、諏訪を寝かせるシンユキ。荒い呼吸をするだけで、自力で動くことすらしない。そんな諏訪に、誰もが心配そうに顔を除くが、彼女たちの顔すら今の諏訪には届かないようだった。


「あの男、絶対に許しません……」


 フブキが諏訪を傷つけた異世界人――リョータに恨みの声を上げる。あの男が矢を放たなければ、諏訪がこんな目にあうことは無かった。


 『経験値』として死ぬしかないという諏訪の言葉。

 それを信じすぎたのだ。


 まさか、無力だと分かっているにも拘らず、武器を扱おうとする愚かな人間がいるだなんて思わなかった。

 それは恐らく、横たわっている諏訪も同じ思いだろう。


「恨み言を言うのはいいけど、でも、ちょっと、コウタロウの様子がおかしくない?」


 ただ、矢を受けたにしては、尋常じゃない汗が流れている。ましてや、かろうじて届いただけの矢。怪我だってそこまで酷いモノではないはずだ。

 にも関わらずに、時間が立つにつれて諏訪の血の気が引いていく。その症状が異常だと感じたシンユキは、「調べてみてくれ」と坊主頭の少年――コウリに言った。


 小さく頷くと、諏訪に刺さっていた矢じりに指先を添えると、その指をそっと舐めた。しばらく、口の中で唾液と混じり合わせると、唾液を吐き出した。


「これ……毒が付いてる。あいつ……毒を使ったんだ」


 リョータの放った矢の先端には毒が塗ってあった。矢が刺さり、塗られていた毒が体内に入り込み、血液を通じて身体全体を蝕んでいたのだ。

 

『毒』なんてものを使っているとは、シンユキは考えてもいなかった。少なくとも、カラマリ領は『毒』を使うような領だとは、誰も思っていないだろう。


 長年の付き合いから、そんな風に考えてしまっていたが、リョータは異世界人。

 メイル領が諏訪によって変わったように、カラマリ領も毒を使う卑劣な領に変化したというだけのこと。

 それこそ、のんびりと負け惜しみを吐く余裕はない。

 シンユキは、大将らしく一堂に会する仲間達に指示を飛ばす。


「コウリ! 解毒に仕えそうな材料は分かるか……?」


「舐めた分量も少ないから、完璧じゃないけど多少は分かる。と思う」


「そうか。なら、毒の解析と解毒に必要な材料の指示を頼む。何人かはコウリの手助けを」


 シンユキの言葉にコウリは、矢を持って部屋を出ていく。その後には数人が続く。残されたメイル領の戦士たちは、シンユキの次の指示を待つ。


「フブキはコウタロウを見ていてくれ! 残った人間は、解毒に必要な材料を集めに行こう!」


 明確な指示の元、一斉に部屋から飛び出していく。誰もが諏訪を助けるために必死に、全力で自分に出来ることを遂行していた。

 そんな中、部屋に残された二人の姿を見て、うっすらと笑みを浮かべ、大きな足取りで部屋の中に男が入った。


 フブキは本来ならば、その存在に気付けたのだろうが、意識をコウタロウに向けていたためか、見ず知らずの人間が入ってきたことに気付けなかった。


「あららー。やっぱ、俺特製の『毒』は結構聞いてるみたいねー」


 男の発した声を聴いて、ようやく、諏訪とフブキ以外にも人間が居たことに気付いた。


「誰だ?」


 フブキは名前を問う。

 男の顔は見覚えのない姿だった。金髪で長い髪の毛先が跳ねた男。見た目で言えば諏訪に引けを取らない。

 諏訪は渋いが、男はチャラい。


「特製の『毒』……だと?」


「そ。でも、まさかこんな上手くいくとは思わなかったよ。俺は自分の才能が怖いね」


 この男、何を言ってるのだとフブキは武器を手にする。

 相手のレベルとステータスを確認して、自分が有利なのか、それとも時間を稼いで仲間が戻ってきた方が良いのか、戦略を立てようとする。

 だが――、


「レベルがない!? なら」


 どれだけ目を凝らして意識を集中しようとも男のレベルは現れない。

 それが何を意味しているのかと言えば、答えは一つで――、


「お前、異世界人か!」


「正解ー!!」


 子供のように両手を叩いてフブキを称える。その姿は正解したことを称えているようには見えない。むしろ、フブキを馬鹿にしているだけだ。

 異世界人である男の拍手に、意識が僅かに戻ったのだろうか。

 諏訪が名前を呼んだ。


「……リュ……ウヤ」


 男の名前はリュウヤ。

 良木(らぎ) 竜哉(りゅうや)


「あ、まだ意識あるんだ。結構強めの『毒』使ったんだけどなー」


「お……、お前が、俺を……?」


 絞り出す声でリュウヤに問う。

 信じられないという表情は、『毒』で弱っていても読み取ることができた。


「簡単なことだよ。の前に、君には眠ってて貰おうかな!」


 すっと、小さく手を動かすと、それだけでフブキの意識がなくなった。メイル領の主戦力の意識を悠々と奪ってみせたのだ。

 意識が無くなったフブキの胸元に手を伸ばして柔らかな感触を堪能しながらリュウヤは言う。


「いや、ほら、よくよく考えたらさ、俺、極力、自分の手を汚したくないのよ。だから、千寿ちゃんを殺したように、あんたも誰かに殺して貰おうとしたわけ」


 ハクハ領の異世界人――池井 千寿と諏訪 光太郎に契約をさせて『爆弾』を作らせた。〈ゾンビ〉に『爆弾』を仕掛ければいいというのも、実際はリュウヤの出した案だった。


「池井 千寿は中々、了承しなかったけど、『爆弾』は交通整備のために使うとか言ったら、喜んで手を貸してくれたっけな」


 勿論、そんなのが目的なわけはない。諏訪の力を強化して、池井 千寿をシンリに殺させる。

狙い通りに池井 千寿は死んだ。


「そういや、池井千寿の死(それ)もお前には、運が悪かったって言ったけど、実は狙い通りなんだよね。お前ももう死ぬからぶっちゃけるけどさ」


 全てを隠す必要はなくなったとリュウヤは顔を抑えて笑う。

 この光景を見るために、どれだけ裏で暗躍をしたのか。だが、その甲斐あって自分の思い描いた通りに事が進んでいた。


「な……んで……。互いに優勝に近づくまでは…手を……」


 リュウヤが所属していたのはロゼ軍。

 現在三位の領である。

 そのロゼ領と諏訪が所属しているメイル領が一位と二位になるまで、協力をしようと手を組んでいたのだ。


 それなのに、リュウヤは諏訪を苦しめている『毒』は自分特製のモノだと平然と言ってのけた。


「だから、それも『嘘』なんだよ。俺は最初から、お前を殺すつもりだったわけ。ま、自分の手は汚したくないから、同僚(リョータ)を使ったんだけどさ」


「……な」


「いやー。本当は次の狙いは、真崎先輩だったんだけど、あの人、所属しないでフラフラしてるみたいなんだよ。だから、〈統一杯〉に影響はなさそうだから、あんたを先に狙ったわけだ」


「……」


「リョータの矢に『毒』を塗って、そしてそっと、心の声を演じてやったんだよ。そしたらまんまと信じやがった。心の声を信じるとか、あいつも案外、中二病を患ってるんだな」


 そう。

 メイル領との戦。

 弓を構えたリョータの心に響いた声は、自分の内なる声ではなく、ただ、リュウヤが発したものだったのだ。

 狙いを諏訪に誘導するように、『旗』を渡す思考を遮り、諏訪への怒りを煽った。


「でも、これであいつも勉強になっただろ。『武器』を使うってことは、殺すつもりがなくても命を奪うんだってな。威嚇だろうが何だろうが『武器』を使う時点でそれはもう、全部が同じなんだよ」


 フブキの胸元を触るのに飽きたのか、興味なさそうに放り投げ――『がっ』と諏訪の顔を踏みつけた。


「ま、こうして姿を見せたのは、一応、計画に加わって貰ったことへのお礼だ」


「……お、前……」


 裏切ったリュウヤを睨むがその視線も直ぐに霞んでいく。

 もはや顔は見えない。

 聞こえてくるのはリュウヤの馬鹿にする声だけだった。


「今まで、ありがとうございました。仕事場での数々の女たらしの武勇伝。聞いてて糞詰まんなかったです。あなたが死ぬと思うと胸が張れます。死んでくれて嬉しいです」


 リュウヤのその言葉を最後に――諏訪の意識は途切れた。

 二人目の異世界人の死。

 それは同じ世界の人間の手で起こった。

 これを皮切りに異世界人の殺し合いが幕が開くのだった。

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