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63話 ゾンビの習性

「いや、ここは一度逃げましょうよ!」


 数十人のゾンビと、メイル領の主要人物であるフブキを同時に相手するには、いくらクロタカさんでも厳しい。


 それよりも、相手の情報を少しでも集めたほうがいいのではないか。ここは撤退して『旗』を守りつつ、〈ゾンビ〉の特徴を把握すべきだ。


 俺に優しくなったクロタカさんなら、話くらいは聞いて貰えると思っていたが、甘かった。

 フブキの殺気に当てられたクロタカさんは――戦うことしか考えない狂人に変化していた。どれだけ、元が変わろうとも、この状態が改善されることはなかった。


 クロタカさんは、涼し気な表情で、近づくゾンビたちを蹴散らしていく。


「もう! こうなったら、俺も付き合うしかないか!」


 とは言え、俺が戦いに参加しても不利になる結果しか与えられない。

 故に俺は観察する。

 中学時代に、「趣味は人間観察です」と得意げに言っていた黒歴史。その歴史で鍛え上げられた俺の観察眼は、ここで発揮するためのモノだったのか。


「〈ゾンビ〉は、俺の方を目指している?」


 戦いの最中、ゾンビたちは必ずしも統率が取れていないことに気付いた。フブキの近くにいる〈ゾンビ〉たちは、クロタカさんを襲っているが、フブキから5歩離れた場所にいる〈ゾンビ〉は、逸れるようにして俺の方へと進んでいた。


「俺の黒歴史を使うまでもないか……」


 だが、黒歴史は使わなくても、俺の知識は使う必要がある。

〈ゾンビ〉の知能は低い。

 それは、どのホラーでも大概が共通している。


「ただ、闇雲に敵を襲うのか、それともなにか目的があるのか……」


 考えろ。

 今の状況。

〈ゾンビ〉の特徴。

 そして、二手に分かれる意味。


 クロタカさんが、俺に向かってくる敵も容赦なく刻んでいく。

 動く者に自動で反応する裁断機のようだ。

 だが、どれだけ反応しようとも、フブキに攻撃は届かない。むしろ、相手は数が少なくなったことで、統一性が取れたように見える。


「ん……? 統一性?」


 それを言ったら、クロタカさんが殺した逸れた相手も、決まって俺を目指していた。

 凡そ5歩という距離。

 それもいうならば、共通点ではないのだろうか。

 つまり、〈ゾンビ〉の意識にはあらかじめ、一つの命令が与えられている。それをフブキが上書きしながら戦っているのではないか。


 俺の仮説が正しければ、〈ゾンビ〉たちの目的は――、


「『旗』を奪うことだ」


 そう判断した俺は、旗を振って、自分からゾンビに近づいてく。

 命令系統には、対象者との距離も関係しているのだ。

 ならば、目的である『旗』が近づけば――フブキの命令よりも、『旗』を狙うことに集中する。


「よしっ! こい!」


 俺はフブキを囲う大半のゾンビを引き連れることに成功する。

『旗』を掲げて走る俺を追ってくる。


「ホラーゲームとか、俺、苦手なんだよ!」


 一気に距離を取るのではなく、一定の距離を保って走る。

 そうすることで、少しでも時間を稼ぐのだ。

〈ゾンビ〉たちの動きが速いパターンだったら、直ぐに追いつかれるだろうが、クロタカさんとの戦闘を見て、動きが鈍いことは良そうできていた。

 後は、俺の体力がどこまで持つかだ。


「はぁ、はぁ」


 闇雲に走っていた俺の前に、5メートルほどの崖が見えた。

 この高さなら――俺でも登れるはずだ。

 垂直の移動。

 これもまた、敵さんが苦手な動きだろ?

 俺は自分が持つ知識をフルで稼働させる。

 少しでも見過ごせば俺が殺される。

 いや、殺されるだけならいいんだけど、もしも、俺が〈ゾンビ〉になったら、復活できるのか。もしも、出来ないのであれば、諏訪さんは俺の天敵ということになる。


 かといって、試すわけにもいかないし……。


 崖を登り切った俺は、眼下でのたまう〈ゾンビ〉を見下ろす。

 登ってくる気配はない。

 しばらくは、こうしているのが安全だ。

 乱れた息を整えて次の対策を考える。


 崖の上から、一対一でフブキと対面するクロタカさんがいた。

 小刀のメリットは機動力と素早さ。

 小回りは相手も聞くだろうが、戦闘に重い部分が付いているフブキは、攻撃後に若干の隙を生む。それを誤魔化すために、ゾンビを使っていたようだが、そいつらは『旗』を目掛けて俺の下。


 つまり、これはクロタカさんの勝ちだ。


 俺はそう確信した。

 余裕過ぎて、ふと、「クロタカさんはフブキを殺すんだろうな」

 なんて、余計なことを考えてしまった。

 そんな俺の甘さを見抜いたように、フブキが俺の方を指差した。

 

 うん?

 なんで俺を指差すんだ?

 この距離で一体何ができるというのか。

 まさか、指先からレーザーが出るわけでもあるまい。


 しかし、俺は直ぐにそんなふざけたことを考えられなくなる。

 何故ならば、クロタカさんが俺を目掛けて――弾丸の如く跳躍をしたのだ。

 二度の跳躍で距離を零にするクロタカさん。

 俺の決死の逃亡はなんだったのか。


「なにか……っ!?」


 あったんですか。

 そう聞こうとした俺の腰を掴んで、三度目の跳躍をする。

 空気が口を塞いで上手く呼吸ができない。

 

 いや、それ以前に、何故、クロタカさんはフブキから離れている? これではまるで、敵から逃げているのではないか。


 勝負がつくまでの時間は、俺が稼いだ。

 俺の起点と想像力で、見事に役に立ってみせたんだ。


 初めての戦で、成果を残したと傲慢にも勘違いした俺を吹き飛ばすように爆音が響いた。

 俺の正面に噴煙が立ち上る。

 そこは俺がついさっきまで立っていた場所だった。


「爆発した!?」


 何が起こったんだ!?

 俺は吹き飛ぶ小石の雨を全身で受けながら、その爆発に体を震わせた。

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