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59話 勝負の『旗』


「カナツさん、良かった。ここに来れば会えると思いましたよ」


「リョータ……。なんでここに? 待ってたって……?」


「ほら、息詰まったらここに来るって言ってたから」


 俺がカナツさんを待っていたのは、〈戦柱モノリス〉がある泉だった。

 ハンディ戦の時、カナツさんが言っていたことを思い出したのだ。

 そして、今回もまた、カナツさんが悩んでいるだろうと言うことは、カラマリ領の誰もが分かってることだった。

 いつもならば、天守閣にいるのに、この数日間、カナツさんはどこにもいなかった。

 アイリさんが、高座の上に座っているだけだった。

 何もしないという通り、ただ、そこに座っていた。


「ケインからメイル領のこと聞きましたよ? アイリさんが掛ってるんですね……」


「……」


「実際に、その時は居なかった俺が言うのも筋が違うと思うんですけど、アイリさんは戦に参加するのは禁止だけど、事前準備ならば一緒にやっても構わないんじゃないですか?」


 例えば。

 明日、子供が遠足にいくとしよう。

 母親は、子供の荷造りを手伝うが、それは決して遠足をしているわけではない。

 同じ理屈で(強引にでも)、アイリさんを参加させることができないのかと、俺は提案した。アイリさんがいることで、勝率が上がるのであれば、準備だけでも参加すれば、カラマリ領の勝利は近くなるのではないかと考えた。


 だが――、


「……そうかも知れないけど。でも、アイリは自分から、その話を持ち掛けたんだ。それはつまり、カラマリ領を、私を捨ててもいいと思ってることだよね?」


 アイリさんがそう思っている限り、何度も今と同じような展開が起こるかもしれない。そして、アイリさんが「他の領に行ってもいい」と思っているのは、大将である自分が不甲斐ないからだと、そう思っているようだ。


「だから、私に出来ることは、邪魔にならないように大人しくすることだけ。だけど、アイリが掛ってるこの一戦だけは、私の力でアイリを認めさせたいんだ」


アイリさんがいなくても、自分たちの力で勝ってみせると。

それが、ケインが言っていた「アイリさんの良い所を見せる」という事だったようだ。決してアイリさんに好かれたいがために、手を出させていないわけではなかった。

完全に、俺の勘違いだ。


「そう……なんですね」


「ああ」


 カナツさんはそう言いながら、〈戦柱モノリス〉に触れた。

 そうすることで、どこからか白い文字が浮かび上がってきた。

 記載されているのは、


 戦う相手――メイル領。

 日時――明後日。

 場所――『カイタイの岩壁』

 対戦ルール――『旗取り』


 そう書かれていた。

 カイタイの岩壁は、どこぞの爆破ロケに使われそうな、切り立った岩山との事だった。

 足場が悪く、開けた狭い地での戦いは、機動力が大事になるだろう。

 ……。

 ケインがそう言っていた。


「でも、『旗取り』……?」


 対戦の内容まで、俺は聞いていなかったので、その言葉の意味を知ろうと、小さく呟くが、声に出したところで答えが閃くわけはない。

 カナツさんが、俺の呟きに答えてくれた。


「『旗取り』って言うのは、それぞれ、決められた人数で、『旗』を奪い合う戦だ」


 それぞれの領に一本ずつ『(フラッグ)』が与えられ、それを互いに奪い合う戦らしい。

 言うなれば、『陣取り』のようなルールなのかと思ったが、どうやら違うようだった。


「『旗』は相手に奪われなければ何をしてもいい」


「……と、言いますと?」


「例えば、どこかに隠してもいいし、一か所に留めて守ってもいい。もしくは、一人の人間が持ったまま戦う。この三つが主な『旗取り』の戦法だな」


 『(フラッグ)』を相手に見つからない場所に隠して、全員で攻める攻撃的な戦法。

 『(フラッグ)』を一か所に留めて、相手に奪われないように、二手に戦力を分散する戦法。

 そして、最後は一人が『旗』を持って戦うというものらしい。


「ハクハ領はシンリが『(はた)』を持って戦ってそうですね」


「正解、その通りだよ!」


「……」


 当たっても全然嬉しくない問題である。

 それに、今はハクハ領と戦闘を想定している余裕はない。

 戦うのはメイル領だ。


「でも、まだ、メイル領とは『旗取り』で戦ったことはないから、どんな戦法を使ってくるのか分からないんだよね」


 しかし、それでもこれまでの戦の経験から、どんな戦法を相手が取るのか予想をしていた。


「因みに、私は、二手に分かれる戦法を取ってくるんじゃないかと思うんだ。けど、サキヒデは、全員で攻めてくるんじゃないかって考えているみたい。そこでもう、分かれちゃってるんだよね」


「そうなんですか」


 相手がどんな作戦を取るのか。

 また、自分たちがどんな戦法をすべきなのか、少しでも勝率を上げるために、二人は実戦の地であるカイタイの岩山を訪れていたらしい。

 『旗』を隠せるような場所はない。そこだけは、カナツさんとサキヒデさんの意見が重なったみたいである。


「それに、相手の異世界人がどんな力を持ってるか分からないし」


 俺や池井さんのようなサポート向きの力なのか。

 もしくは、土通さんのように前線で戦っているのか。

 それは、手合わせしない事には分からない。


 出来れば、俺が説得して、互いに試合にでない流れを作るのが理想だろう。

 俺達が仲たがいしても得することなんて何もない。

 さっさと一つの領を勝たせて、願いを使って、〈統一杯〉の犠牲者を助けたい。

 この戦で死んだ人々を生き返らせて、異世界人は地球に帰る。

 それが最高のエンディングだ。


 まあ、〈統一杯〉が終わる前に、別に帰る方法が見つかれば、それはそれでいいんだけど。

 そしたら、俺一人がこの世界に残ればいい。


「駄目かも知れないけど、俺、戦場で説得してみてもいいですか?」


「説得……?」


「俺達が〈統一杯〉で唯一得をすることといったら、願いが叶うことだけ。それを諦めて貰えれば、戦場に出る必要はなくなるのかなって。皆、人の命を奪ってまで、犠牲にしたい願いは――」


「でも、クガンの異世界人は殺してたんでしょ?」


 ……。

 俺の説得は土通さんの行動で信じ切れて貰えないようだ。

 それはそうだ。

 俺ですら信じられないんだ。

 人を殺すなんて、地球じゃないからって出来るものじゃない。それくらいの『覚悟』を土通さんは持っているのだ。

 その覚悟が分かれば、和解は出来ると、俺はまだ――信じている。


 異世界に来て、力を手に入れたからって何も変わらない。

 俺を根暗から救い出してくれた、明るくて優しい皆のままだ。自分に言い聞かせるようにカナツさんに笑ったのだった。

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