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44話 〈ハクハの信念〉は騎士道らしい

「いや、勝負って言っても、俺じゃ相手にならないって。まさか、そんなことの為に俺を助けたなんて言わないよね?」


 戦うまでもない俺なんかの為に、トウカは自身よりもレベルが高い騎士三人に挑んだのか?

 信じられないと首を振る。

 だが、そんな俺を見て、トウカも同じように首を左右に動かした。


「あなたこそ何を言っているんですか。この私に、抵抗もしない相手を殺せとでも?」


「え、いや……。そうじゃないんだけど」


 俺の言いたいことが伝わっていない。


「なら、早く武器を手に取ってください」


 だから、武器を取れって言われても。

 大体、剣だけじゃ、強くなれる自信はない。


 それにしても、いつでも殺せる相手に武器を渡すとは。


「これは騎士道ってやつなのか……?」


ならば、このまま、俺が机に置かれた剣を手にしなければ、延々と隠れさせて貰えるかも知れない。


 少しでも時間を稼ごうと、悩むふりをする俺に、


「もし、このまま私と戦わないようでしたら、ここから追い出します」


 容赦なくトウカが宣言した。


「そんな……」


 最終的に俺を殺すのならば、何故、助けたのだろうか。

 期待させておきながら、中々に酷い仕打ちである。折角夜まで休めると思ったのに……。

その悪魔の所業を、俺は包み隠さずに責めさせて貰った。


 俺の言葉に困惑するトウカ。


「何故って……、それは……。シンリ様が指揮を執り始めてから、ハクハは変わってしまったのです。本当なら、人を騙して三人がかりで殺そうとするなんて本来はあり得ないことなのです」


 助けたつもりはないと。

 ただ、〈ハクハの信念〉に背いた三人の行為が許せなかっただけなのだと。


「そうなんだ。そう言えばさ、トウカちゃん〈ハクハの信念〉って言ってるけど、それって一体なんなの?」


「正々堂々、誇り高く生きることです。そんなこと聞かれるまでもないでしょう? 大体、私が変わっているんじゃないのです。その心意気を捨てた騎士たちが異常なのですよ」


「は、はぁ」


 俺はもしかしたら、地雷を踏んでしまったのだろうか。熱く語り始めるトウカ。熱い感情を載せた言葉と共に、俺に少しずつ近づいてくる。

 やっぱり、騎士道みたいなものらしい。


 それにしても近いって。

もう、顔と顔が触れそうだ。

 距離感を大事にしてくれ。


「正面からどんな相手にも迷わず挑んでいくのがハクハの歴史。そうやって〈統一杯〉を何度も勝ち抜いてきたんです」


 トウカはつまり、横綱が横綱相撲をしないのが気に入らないみたいなことを言っているのだろうか。

 あー、確かそんなニュースが一時期あった気がする。


 相撲に余り興味がない俺でも知っているのだから、結構トウカと同じことを思う人は多かったのかも知れない。

 ま、俺なんかは、だったら自分が戦えばいいじゃんと思うし、そんな発言をしたのだけれど、先輩に


「見るのが好きなのと、やるのが好きなのは、決して同じではないのだよ」


 と当たり前な言葉を言われた気がする。

 ……。

 いや、今思うと異世界に来てまでもヒーローのコスプレをする人間にそんなことを言われたくないな。

 当時の俺はどう思ったのだろうか。

 ……駄目だ。今、思い出した位だから、詳しく覚えている訳がない。つまり、大した感想は抱かなかったと言うことだろう。


 で、トウカは俺と同じく、自分が横綱になろうとしていると言う訳か。自分より立場が上だろうと立ち向かい、複数人で一人を騙すならば、相手が仲間だろうが許さない。

 その生き方は格好良くはあるけれど、傍からすれば迷惑でしかない。


 だって、俺にも戦うことを強要してくるんだもん。


「ですから、私は武器を持たぬ相手と戦うつもりはありません」


「……なら、戦う気がない相手とも戦わないで貰えると助かるんだけどな」


「ですが、あなたはカラマリ領を勝利に導かせようとしているのでしょう? なら、それは戦っていると言うことではないのですか……?」


「そ、それは……」


 少女に論破された俺。

 そう言えば、土通さんも似たようなことを言っていたな。俺自身が手を出していないからと言って戦っていないなんてことにはならないと。


 でも、俺としては日々、生きて行くためにカラマリ領に協力していただけだ。

まあ、土通さんが人を殺していると知り、〈統一杯〉で優勝すれば願いが叶うと知ってから、完全に自分の意思で手を貸しているのだけども。


「そりゃ、傍から見れば同じか」


 自分の意思で『経験値』と言う武器を提供しているのだ。『拳銃を作っている人間は犯罪者か?』 なんて問答は、今の俺には通用しない。俺は完全に犯罪者だ。


でも、だからと言って、この日が落ちる前に殺されるのは御免なんだよな。


「うん、確かにトウカちゃんの言う通り、俺は〈統一杯〉に参加してる。それを誤魔化すつもりはないよ」


「だったら、早く戦いましょう」


「俺もそうしたいんだけどさ、一つだけ疑問があるんだよね」


「なんですか?」


「いや、人質を取った相手と戦うのは、〈ハクハの信念〉に背かないのかなって」


「人質……?」


「あれ、シンリは伝えてないのか? いや、俺はさ、この世界の異世界人――池井さんを人質に取られているんだよ。じゃなきゃ、自分から進んで殺されに来ないだろ?」


「それは確かに――そうですね」


「だろ?」


「……やはり、そんな下卑だ行為を」


「頭のいいトウカちゃんなら、信じてくれると思っていたよ」


「私も『経験値』が手に入ると知って焦ってしまったのかも知れないですね。これで〈ハクハの信念〉を貫くだなんて、よく言えたものですよ」


 申し訳ありませんと頭を下げてくれた。


「しょうがないよ。誰だってそんな時もあるしさ」


 トウカも冷静なように見えて、騎士たちの中でレベルが一番低いことを気にしていたのだろう。故に、俺が何でハクハのゲームに参加しているのか。その小さな疑問に目を瞑ってしまったようだ。


 ならば、その閉じた瞳を少しだけ俺が開くことができれば、ハクハに対して多少なりとも優位に立てるのかも知れない。


「だからさ、俺からも少し提案があるんだ。その願いを聞いて貰えれば弱くてもいいなら戦わせてもらいたい」


「……願い?」


「うん。俺もさ人質を取られたままじゃ、ちょっと戦い辛いんだよね。だから池井さんの救出にトウカちゃんが手を貸してくれるなら、俺はトウカちゃんと戦ってもいいんだ」


「……」


「トウカちゃんに取っては悪い話じゃないと思うよ? 〈ハクハの信念〉を守るために行動できるし、経験値も手に入る」


 つまり、今回は互いに得をするのではない。

 完全に目的が一致しているのだと。

 少女の純粋な信念に付け込むようで心が痛いのだけれど、仕方がない。使えるものは何でも使うとは言わなくても、行き先が同じ相手と共に歩くくらいはしてもいい筈だ。


「分かりました……。この私がハクハに誓って助けます」


「ありがとう」


 今度こそ話術の成功でいいんだよな?

 話術っていうか、単純にトウカちゃんが良い子なだけのような気もするけれど。

 ともかく、新たに協力者を出た俺は、夜明けまで戦うのは待ってもらうことにした。トウカちゃんは、 俺と戦わなくてもいいと言ってくれたのだけれど、流石にそれは申し訳ないし、第一に他の騎士に殺されてしまう可能性もある。


「分かりました。ならば、受けて立ちましょう」


 こうして俺は少女に殺された。

 戦いにすらならなかったのは言うまでもないだろう。

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