34話 真っ直ぐな成長と歪む正義
大将と最年少の戦力がいなくなった分、アイリさん達は戻ってこない二人の穴を埋めるよう、必死に働いていた。
「一週間でカラマリをここまで成長させたって、大将に見せつけるんだから!」
と、帰ってくることを信じていた。
だが、一週間という月日は、大将を失ったカラマリ領には長すぎるようで、『大将とケインは死んだのではないか』などと言う、在り得もしない噂が流れるには十分だった。
勿論、俺もそんな噂を信じてない。
気持ちはアイリさんと同じだ。
少しでも皆を強くしようと、朝から職場である城内にいこうとした所だった。現実世界でもこんなにやる気を出して、仕事に望んだことはなかった。
そんな俺に、
「たっだいまー!」
両手を上げて扉の前に立つぼさぼさ頭の二人組。
こうやって並んでいると姉弟みたいである。
「カナツさん!? それにケインも!」
何食わぬ顔で明るく笑うカナツさんとケイン。
その笑顔に俺も釣られて笑う。
「生きてたんですね! これは皆に報告しないと!」
急いで城に行きましょうと二人の背中を押す。
「いやー、別にそんなこと報告しなくていいって。って、いうか、私達は死んだと思われてるの!?」
「まあ、二日で戻ってこれる距離なのに、一週間は不安になりますって」
「だろうな。大将が、私を役立たず扱いしたから、少しくらい心配かけてやろうって、変に悪戯心をだしたんだよ」
俺の言葉を受けてケインが言った。
ケラケラと笑う少年の姿は、それこそ――憑物が落ちた用だった。
「ケイン! それは言わない約束でしょ!?」
「……それ知ったら、皆、怒りますよ?」
なんとまあ、子供じみたことを考える。
でも、生きていて良かった。
それに――ケインの表情を見ると目的は達したようだ。
俺は二人の背中から手を放して、祝いの言葉を述べる。
「おめでとう。……いや、復讐におめでとうって言うのも、なんかおかしいけどさ……」
「うん? リョータ、なにか勘違いしてないか? 俺は〈紫骨の亡霊〉は倒せなかったぜ?」
「へ?」
「レベルを上げて回復したのは、その場から逃げるためだ。ま、ようするに、俺は諦めたんだな、〈紫骨の亡霊〉を倒す事をさ」
ケインはそう言って肩を竦めた。
あれ?
なんか、一週間で凄い大人になってるんじゃないか? 〈紫骨の亡霊〉が現れたことを知ってから、一気に成長したようだ。
ケインを導いてきた俺としては嬉しい限りである。
「……そっか」
「私もびっくりしたよー。ケインがさ、逃げるから力を貸してくれって。手を出すなって言ってたのにね!」
あの状況でケインが出した答えは、復讐すべき相手に背を向けて、カナツさんの手を借りて逃げることだった。
「俺一人じゃ、逃げる事すら厳しかったはずだ。大将の力なら余裕で逃げれるかなって」
「余裕ではなかったけどねー。結局、リョータの先輩の力を使わして貰ったしね」
「そうなんですか……」
怪我を負わせた相手に、助けを求めるなんて、なんと自由な発想だと感心するが――まあ、先輩なら怪我を負わされても力を貸すか。
ともかく、先輩の力があって、ここに戻ってきたようだ。
今度会ったらお礼を言おう。
こうして二人の笑顔を見れたのだから。
俺はそう思って前に出た。
「……ケイン」
笑っていたケインは強く、強く歯を食いしばっていた。
「あのままじゃ、二人共負けてた。それが一番駄目なことだって……」
ケインは放していくたびに笑顔が剥がれて涙を流す。
清々しい笑みは作り笑い。敵前逃亡した自分を笑って欲しくて、あえて明るく話していたようだ。
だが、最後まで感情をコントロールできなかったようで、ボロボロと大粒の涙を零す。
親の仇を取りたいと涙を流し、仇討ちできずに泣く。
全く――まだ、そんなに成長なんてしてなかったか。
諦めることが大人になることだって、俺なんかはよく言われたけど、大人になって分かる。それは成長じゃない。
やれやれ。
俺も口うるさい大人の仲間になるところだったぜ。……いや、社会に出たんだから、いつまでも子供じみたことを言ってられないとは思うけど。
まあ、異世界だから大丈夫か。
それに、俺は悔しくて泣く子供は大好きだ。
涙を流すことが『悪』だと育てられた俺は、こうしてヘラヘラその場をしのぐ大人になった。
ケインにはそうなって欲しくない。
悔しくて涙を流し、次こそは勝つと誰に誓うでもなく声を漏らすケイン。
うん。
その方が絶対良いって。
「次は……、か、勝てるよう、努力するから……」
ケインは、また一つ強くなった。
これからも、まだ、伸びるだろう。カラマリ領の未来が楽しみだな。
「ああ、ケインはまだまだ、強くなるさ」
ケインの頭に手を置いて俺は言った。
……そんな俺の頭にも手が乗せられる。
カナツさんだった。
「なんでそれは、リョータが言うのかな? 普通、大将の私が言うよね?」
自分の台詞を取られたことにお冠のようだった。
ま、俺は殺されるしかしてないから当たり前ではあるのだけれど。
◇
「はあ、はあ……。まさか、沙我くんが殺されるなんて……。彼らは仲間じゃなかったのか? くっ。所詮、戦が大好きな人殺し集団と言う訳だ」
自身の力で空を飛ぶ男――真崎 誠はカナツによって傷つけられた肩を抑えていた。出血はしていないようだが、まだ、痛みは残っているようだ。
領を追い出された真崎 誠に帰るべき場所はない。
当てもなく宙を漂うだけだ。
思い出すのは一週間前のあの日。
「私達は逃げるから、お前も逃げろよ! 怪我してるけど、まあ、その、大丈夫でしょ……?」
怪我した真崎に向かってカナツはそう言った。
自分で怪我を負わせたくせに白々しい。
それに、彼らは後輩を殺した。
目の前で後輩を殺され、何もしないなんて――そんな正義があるものか。真崎は――『仇は僕が討たねばならない』という復讐心に憑りつかれ、カナツとケインと戦おうとした。
だが、二人を狙っていたはずの〈紫骨の亡霊〉が邪魔をする。
追ってきた〈紫骨の亡霊〉を、二人は真崎に押し付けたのだ。
「なにが、お前も逃げろだ……僕を利用しただけではないか」
怪我した体で、三人の〈紫骨の亡霊〉を相手にすることはできる。『風』を操り吹き飛ばせばいいだけだ。だが、属性を生み出し操るには意識を集中させる必要があった。
その僅かな時間を狙って、カナツとケインは距離を稼いだ。
真崎が〈紫骨の亡霊〉を吹き飛ばした時には、もう、二人の姿は視界から消えていた。
後輩を殺した相手を逃がしてしまったことに顔を歪める真崎。
「くっ……。沙我くんも僕と同じ思いだっただろうに」
願いを叶えるために〈統一杯〉に参加なんてしないはずだと願いを果たせなかったリョータの無念。
「皆で元の世界に帰れないなんて……」
六人の異世界人で生き残れるのは一人だけ。この世界に来る前に〈戦柱〉からそう告げられていた。
土通はその言葉を信じて、愛する人を生かすために兵士を殺した。
だが、真崎はその言葉に従う気はなく、六人で生きて帰れると信じていた。
そして、厄介なことに、他の異世界人も同じ思いだと勝手に決めているのだ。
だから、今回、カラマリと一緒にいたのは、リョータの策であり、なにか情報を探っているのだと、解釈していた。
例え、理不尽なデスゲームに巻き込まれようと、自分の正義を貫く。
それこそが、真崎 誠という男だった。
しかし、本人は今まさに、正義という道からそれたことに気付かない。
今回の一件で、真崎は、リョータの恨みを晴らそうと、復讐をしようとした。それは、〈マスターヒーロー〉が絶対にしないことだ。
あの時、ケインとカナツを倒すことができていれば、自分の過ちに気付いて、正義の道を修正できたのかも知れないが――逃げられた。
真崎の正義は、小さなズレが生じたまま、先に進んでしまっている。
その小さなズレが、いずれ大きな亀裂となることを――まだ、誰も知らない。
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