29話 VS〈紫骨の亡霊〉
「手を出さなくていいって言われたから、手を出さないって、じゃあ、何のためにここに来たんですか!?」
「それは勿論、ケインの戦いを見届けるために決まってるじゃん。リョータは相変わらず変なことを言うねー」
「俺が可笑しいんですか?」
ケインが手を出すなと言ったからって、本当に手を出さないなんてことするか?
こんなことならば、他の人と一緒に来た方が良かった。
骸骨の攻撃を受け止めていたケインが、砂浜に膝を着く。そのまま連撃に押し込まれそうになるが、そこは流石というべきか、着いた膝を支点にして攻撃を防ぎながら受け身をとる。
一度距離を取って仕切り直す。
「ケイン。頑張れ!!」
いや、なに応援してるんだよ。
早く助けに行こうよ!
こうなったら、またしても我が身を犠牲にして隙を作るか。〈紫骨の亡霊〉ならば、相手に経験値を与える心配も、俺の力がバレても問題はない。
ここで犠牲にならずにいつ犠牲になるんだと、足場の悪い砂浜を駆けだそうとするが、
「どこ行くんだよ」
カナツさんに止められた。
……。
「なにするんですか!?」
「それはこっちの台詞だって。なに、勝手に助けに行こうとしてるんだよ」
「それは、カナツさんが行かないからじゃないですか!!」
俺だって普通に殺されるのは痛いし怖いから嫌なんだよ。カラマリ領で経験値にされるなら、痛みもないから全然いいの!
でも、最近、普通に痛みを伴う死を経験過ぎて、それすらも怖くなってる自分がいるの。
このままじゃ、俺、仕事できなくなっちゃうよ?
「そうか……。だとしても、これは譲れないな。ケインの思いを知っているからこそ、私は手を出さないよ」
「それでケインが死ぬことになってもですか?」
ケインの言う「なにか」とは自身の死を指すことは俺でも分かる。命を投げ出そうとする仲間を見捨てる選択肢をカナツさんが取るとは思ってもみなかった。
これじゃあ、俺が嫌いなハクハと同じじゃないか。
「……これが普通の戦であれば、私は助けるよ。でもさ、これは戦でもないケインの復讐なんだ。小さい頃のケインを知っているからこそ、私はそれを叶えて上げたいんだよ」
ヘラヘラとした態度から一変、カナツさんは真剣な顔つきになる。死ぬかもしれない戦いを見守るのが、辛くない訳がないと。
仲間を重んじるカナツさんだからこそ、この選択を取ったのだ。
今思えば、自分が行きたいと、恥を忍んでごねたのも、ケインの願いを叶えるためだったのか。
「でも……」
「それに、リョータは勘違いしているみたいだから言っておくけど、私は別にケインを殺させはしないさ。「なにか」が起こる前に止めて見せる」
だから、私を信じて見守ってやってくれとカナツさんは言う。
仲間を助けるだけが、絆ではない。
人との関わりを絶ってきた俺にはその感覚は分からなかった。不利な状況でなにもしないのが人の為だなんて――思えない。
仕切り直したケインが、薙刀を振るう。
コンパクトな軌道の斬撃。さっきの幽霊移動を警戒して、小さな動作で牽制するようだ。すべるように〈紫骨の亡霊〉は後ろに引いた。
〈紫骨の亡霊〉の袈裟を斬るように振るった薙刀を、ケインは右手を放して左手一本で握る。そして、左足を軸に回る。
薙刀を握る左手は柄の一番下である。つまり、両手で握るよりも薙刀の攻撃範囲が伸びるのだ。振りや隙は大きくなるが、〈紫骨の亡霊〉は後ろに下がった。
それは、サーベルの距離から離れたということだ。
攻撃範囲でなければ、反撃はない。
あとは、攻撃を避けられなければいいだけである。
「しゃあ!」
薙刀の刃が〈紫骨の亡霊〉に当たる。
ケインの判断が速かったのが良かったのだろう。復讐によって冷静な判断ができないのではと不安になったが、どうやら、思考は冴えているようだった。
復讐を前にして冴える頭。
まだ、子供でありながらも、主力として修羅場をくぐり抜けてきたケインは、両親が殺された時とは比べ物にならないだろう。
俺、その時のケイン知らないけどね。
斬撃を受けた〈紫骨の亡霊〉が、霧となって消えていく。
ふむ。
確かに苦戦していたとはいえ、倒せるではないか。
正直、拍子抜け感は否めない。
だが、安心して欲しい。
勝手に俺が気を抜いただけだった。
霧になった〈紫骨の亡霊〉は再度、骨格を作り上げた。
再び姿を現す髑髏。
あれ、これってひょっとして不死身ってやつか?
倒しても復活するってことなのか?
「いや……。普通に今のは回避されただけだ。刃が当たる瞬間、体を霧状に変化させたんだろうな」
「……そんなのアリですか」
霧状に変化させることができるって、それじゃあ、刃物は通らないってことじゃないか。
〈紫骨の亡霊〉は、高レベルの人間と同等の戦闘能力と、そんな特殊能力まで持っているのか? 物理攻撃無効ってことだよな?
……。
物理主体のこの世界でどう戦えと言うのだろう。
そういうのは剣と魔法の異世界でやってくれと思うけれども、俺の思いで世界が変わるのであったら、とっくに世界は変わっている。
異世界人だろうが所詮は〈戦柱〉に呼び出されただけだ。
この世界に取って〈戦柱〉こそが神である。
その神様が見せしめに作ったのが〈紫骨の亡霊〉だもんな。
そりゃ、特殊能力の一つくらいは持っていても可笑しくない。
「じゃあ、倒せないってことじゃないですか!」
「いや、倒せない訳じゃない。今のケインの攻撃も、僅かには当たっている。少しずつダメージを蓄積させていくしかない」
「そんな――」
少しずつダメージを与えることはできるかも知れないが、それ以上にケインの消耗は激しい筈だ。にもかかわらず、再び現れた〈紫骨の亡霊〉に挑むケイン。
だが、〈紫骨の亡霊〉の移動方法に苦戦しているようだ。足を動かさずに移動すると言うことは、動きが読めないと言うこと。
どっちにどう動くか。
いや、足さばきを見ても俺は分からないのだけども、ケインたちは違う。動きをみて予測できる目を持っている。
戦では猛威を振るう技術。だが、その技術に頼ってきたが故に、動きの予測できない相手に対応しきれていないようだ。
〈紫骨の亡霊〉の斬撃がケインの頬を掠めた。
少しづつではあるが、ケインの体に傷が増える回数が多くなってきた。このままでは、ケインは殺される。
助けるなら今だと俺はカナツさんに申告しようとした時――、
「おい! 大丈夫か!?」
一人の男が助けに入った。
ここはアサイド領。
〈紫骨の亡霊〉の発生場所。
本来ならば、誰も近づくことのない場所に――何故、人がいるのだろうか?
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