23話 回想~ハクハ領の使い~
さて、〈紫骨の亡霊〉が何かを説明する前に、まずは、なんでケインが俺を殺すに至ったのかを改めて振り返ってみよう。
恐らく、三日前に現れたとある少女が関係しているはずだ。
戦でもないのに現れた、ハクハの使いが――。
◇
「あのー、あなたがサンガ リョータさんですか?」
諸君たちが愛馬の小屋が完成し、細やかに愛馬と共にお祝いをしていると、両手を後ろで組んだ可愛らしい少女が話しかけてきた。
ホットパンツのような丈の短いズボン。
艶やかな生足に視線を奪われそうになる。いきなり、脚ばかり見ていたら、変態じゃないかと吸い付く視線を引きはがして少女の顔を見た。
真っ直ぐなエメラルドの瞳。
淡いピンクの髪を、ボロボロの布で一つに縛っていた。
そして――吸血鬼が付けていそうなマントの下には、貴族しか着ないだろというような服装だった。
あれ?
なんか、そのマントみたことあるけど――。
俺がどこで見たのかと思い出そうとするが、その思考を邪魔するように、
「いやー、会いたかったです」
と、腕を組んだ。
え、これなに?
まさか、これがモテキというものか?
異世界で!?
人生で三回あるというモテキか!?
久しくなかった感覚。
えーと、最初のモテキは、覚えていないけど赤ちゃんの時にあったらしい。
ベビー時代の俺は凄いモテてたと両親は誇らしげに言う。動物園に行った際に、何故か、俺を眺める行列ができたとか。
これは本当か嘘か分からないけれど、親戚たちが似たようなエピソードをいくつか持っているので、真実の可能性が高そうだ。
そして、その話の最後には、誰もが「今は、目つきが悪くなっちゃって」と笑う。
失礼な親戚たちである。
二回目は小学生低学年かな。
今となっては何んて透かした野郎だと自分でも思うが、なんと、曜日によって一緒に帰る女子が決まっていた。
つまり、俺は5人の女子と日替わりで手を繋いで帰宅してたのだ。
そんな遊び人、俺じゃないと思いたいけど、これは俺の記憶に僅かながらに残ってるので確かだろう。
そして、遂に三回目が訪れた訳だが……。ここ異世界だぜ?
仮に俺、地球に戻っても一生モテないってこと?
別にいいけどさー。俺を好いてくれる人が一人いればいい。その一人がれないだろうけどね!
土通さんはああ見えて好きな人には一途そうだな。
なんて思いつつ、腕を組む少女に紳士的な態度で接する。
「ところで、なんで君は俺を知ってるのかな?」
「えーっと。シンリ様がカラマリの異世界人は経験値が多く貰える可能性があるから、確かめて来いって」
「はっはっは。可愛いお嬢ちゃんだ。俺はここに来た理由じゃなくて、なんで名前を知ってるのか聞いたんだよ――って、シンリ様!?」
「うん、シンリ様」
「……」
あー、思い出した。
こいつのマント、まんまシンリとお揃いじゃん。
えっと、俺を倒すと経験値が多く貰えることを知っている? シンリには殺されなかったから、レベルが上がってないだろう。
まさか、カラマリにハクハと通じる内通者がいるのか?
そう考えれば、俺の名前と能力を知ってるのも頷ける。
「でも、今はそれを考えている場合じゃないか……」
勿論、可愛い少女に腕を組まれてドキドキしてる場合でもない。
俺は組まれた腕を振りほどこうとするが――だから俺じゃ無理なんだって。相手が少女だろうが力で勝てない。
俺の全力ではビクともしない少女の体。
悲しいかな。
「あ、確かめろとは言われてるけど、別に実際に殺したりはしないから、安心して? 僕はは、汚いものは無駄に殺さない主義なんだ」
「僕……?」
この世界にもいるんだな僕っ娘って。
モテキの時に一緒に帰っていた小学生の一人もそうだった記憶がするな。
水曜日担当だったっけ?
「はい! あ、よく勘違いされるんですけど、僕は男ですよ?」
「男ぉ!?」
まだ、幼いと言えども誰がどう見ても俺の手を掴む少女は少女である。
違う。
少女じゃなくて少年だから――俺を掴む少年は少女であるか。
嘘だ……。
「本当ですよ? 触ってみます?」
と組んでいた手を解いて、今度は俺の手首を掴んだ。
そして、俺の掌を胸に押し付ける。
「ね?」
「確かにないけど……」
その年なら、まだ、膨らんでいない可能性もある訳で……。まだ、実は本当は少女でしたと言われても、そっちを信じる自信がある。
「それにしても――カラマリ領の警備は雑ですね。すんなりと侵入できましたよ」
「……」
そう。
クガンに門があるように、カラマリにも門はある。岩山にあるクガンは岩石の壁だったが、カラマリは木材で作られた壁。
強度としては木材故に不安はあるが、その門には問題があるのだ。
それは、
周囲の木々の方が門よりも丈が長いことだ。
ようするにその辺の木にさえ登ることが出来れば、誰だって侵入できてしまうザル整備なのである。そのことを心配した俺は、愛馬の小屋を作ってくれた職人に、加工できないかと相談したばかりだったのだが、どうやら、本当に必要らしい。
よりによって順位トップのハクハの人間を入れてしまったのだから。
「俺を殺さないなら、どうやって確かめるつもりだ? 俺が「はい、そうです」って肯定したらそれで信じてくれるのか?」
「うーん。信じないかな。だって、シンリ様が「カラマリの異世界人には気を付けろ」って、おっしゃてましたから」
えー。
俺、そんな評価上げることしたかなー?
そもそも俺が生きていることを知っていることが異常なのだ。
俺はシンリの目の前で殺された。
自分の領に現れた異世界人を殺す馬鹿はこの世界にいないだろうことは、段々と俺にも分かってきているけど、でも、殺したのはクロタカさんだ。
在り得なくはないはずだけど……。
「あ、そっか。クガンとの戦いで……」
なんで知ってるのかも糞も俺はハクハとクガンの争いを止めに入ったではないか。
その時、俺が生きていることを知ったのか?
「ご名答。死んだ人間がほいほい顔を出すのは愚かだよ? そのまま姿を見せなければ、カラマリにもチャンスはあったのにね」
「でも、あの時の兵士たちは!」
土通さんが殺したはず。
俺が生き返らせるまで、彼らが見た情報は漏れることはない。
「ふふっふ。僕たちは戦に参加してなかったけど、これで戦況は見てたんだ。特にクガンの異世界人はマークしてたからね」
俺の疑問に答えるように少女――じゃなかった、少年が取り出したのは、一本の筒だった。この世界の人間が見れば、それがどういう用途なのか悩むだろう。
だが、俺には分かる。
これは――、
「望遠鏡」
白い筒に透明なレンズ。
遠いものを見るための道具である。
「そうそう! そんな名前だった! これ使うと、遠くからでも人が見えるんだー」
「なるほどな」
戦に参加してなかったのは、それを使って異世界人の力を観察していたわけか。
自分たちは戦場に立たずに安全圏から、高みの見物ってわけか。
なんだろうな。
俺、ハクハ嫌いだ。
「ま、そういう訳でクガンの持つ力も見れたんだー。土筒を作って移動する。しかも鎧ごと切れる剣付き。いやはや。異世界人ってやっぱり凄いね!」
「だよなー」
少年は相変わらず俺に過度にスキンシップを取ってくる。言っていることはアレだが感じが悪い訳ではない。
ここは俺もカラマリの一員として、少しでも情報を引き出しておくか。
「え、じゃあ、やっぱ、ハクハの異世界人も凄いの? どんな能力?」
「教えるわけないでしょ。お兄さん馬鹿?」
「……」
我ながらホストにでもなれるのではないかと思うほどにさりげなく聞けたと思ったのだが、教えてくれなかった。(当たり前だ)
「ま、取りあえず大将のとこまで案内してよ」
ああ。
俺を狙ったのは異世界人の確認と共に人質にするってわけか。いや、殺されてもいいのだけれど、しかし――。
俺はチラリと畑のある方を見る。
もしも、あれが見られていたら、数に限界があることを知られた可能性がある。
いや、もしかしたら既に分身たちは殺されてるかもしれない。
想像しただけで気持ち悪くなる。
だって、同じ顔した俺が、全員死んでるんだぞ?
見たくない。
ここは俺がなにかするよりもプロに任せよう。
『手を出すな プロの仕事に 素人が』
なんて、川柳を思いついた時点で俺の心は諦めモードに入っていた。
城に案内しようと歩き出した時――、
「ユウラン! てめぇ、なんで勝手に入ってきてんだよ!」
薙刀を手にしたケインが、かつてないスピードで迫ってきた。




