魔王になりたくて
一話
僕の名前は住田 友好
どこにでもいる普通の高校生で、成績も運動も平均的。
個性もなく、趣味もないただのつまらない高校生だ。
何の取り柄もない僕だったが、最近ずっと好きだった女の子と付き合えた。今まで女の子と付き合ったことがなかった僕としては非常に喜ばしいことである。
彼女、三四五 歌々(みよい かか)は僕の彼女にしておくには勿体ないぐらいに可愛い。くりくりとした目に少し丸っこい小さな鼻、肌は白く一見人形かと見間違うほどの容姿だ。
肩に少しかかるぐらいのセミロング、普段は音符マークのヘアピンをつけている。
少し言動がおかしいところがあるが、そこが可愛いところでもある。
さて、今は学校の帰り道、僕は彼女と下校を共にしている。
ほぼ毎日変わらないこの光景、平和な毎日、僕はこの平和な毎日が好きだった。
平和っていいよね。僕はこのまま普通に平凡に生きていくのが夢なんだ。
だから今を壊したくなかった。今のこの幸せな日常を壊したくなかったんだ。
「トモくん、私、魔王になるねー」
「・・・・・・」
唐突な彼女の言葉に声が出なかった。今、魔王って言ったのかな。いや、そんなことないきっと聞き間違いだ。心を落ち着かせてもう一度聞いてみよう。
「今、なんて?」
「だから、魔王になりたいの」
「・・・・・・」
元々おかしなことを言う時はあった。イチゴのショートケーキのイチゴの部分になりたいとか、ゴリラと一緒に暮らしたい、というかいっその事ゴリラになりたいとか。その他諸々。
でも魔王になりたいって言われたのは流石に初めてだった。
初めてだからこそ、混乱した、困惑した。なんで魔王。どうして魔王。何を思っての魔王。
わからない、意味がわからない。
「・・・どうして魔王になりたいの」
率直に聞いてみる。聞きたくはなかったけれど聞くしかない、だってそうするしかない。
本当は普通に平和に平凡に日常話をしたい。キャッキャうふふと手を繋ぎながら他愛のない話がしたい。
今日夕飯ハンバーグなんだーとか今度の日曜日どこ行くとかそんな話がしたい。
ショートケーキのイチゴの話とかゴリラと暮らす方法について語り合いたくない。
でも、彼女がそういう話を求めているなら乗ってあげるしかない。
それが彼氏ってもんだろ。
「私ね!魔王の生まれ変わりだったの!」
・・・頭が痛くなってきた。
魔王の生まれ変わりってなんなの、前世の記憶でも蘇ったの。まず魔王って実在するの。
何でそんなに嬉しそうに眼を輝かせながら言うの。
「魔王の生まれ変わりだったの!?そいつはすげえや!」
切り換えていくしかない。話を合わせるしかない。
「そうでしょー!すごいでしょー!」
そう言って笑う彼女はとても可愛かった。
そんな彼女を見て本当に付き合えて良かったなと思う反面、これが普通の日常会話だったらどれだけ幸せだったのだろうと考えてしまうのであった。
しかし、何故魔王の生まれ変わりなんて話が出てきたのだろうか。そりゃあ何を考えているのか分からないことなんて多々あるし、意味の分からない話をすることももちろんある。
でも、こんな唐突に言ってくることなんて今までなかった。
ショートケーキのイチゴの話だってケーキ屋さんに行ったときに出てきたものだし、ゴリラの話は動物園でのことだった。
そう、今まではちゃんとキッカケがあった。しかし今回に関してはあまりにも突拍子がなさ過ぎる。どうして、どうして彼女は
自分が魔王の生まれ変わりだと思ったのだろうか。
聞いてみると彼女は話してくれた。
僕にこのことを話すまでに何があったのかを、何故こんな話をしたのかを
あと魔王になりたいと思った理由も
楽しそうに、嬉しそうに話してくれた。
「実は昨日ね・・・・・・・・・」
頑張ってます