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野生の牢獄  作者: 鴨野朗須斗
14人の漂流者たち
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一日目 4

 フェイと相談して、彼らは暗くなる前に焚き木を集めるために森へと入った。森の中での遭難を避けるために、左手の切り立った崖に沿って森の中へと入る。メンバーは彰浩、隼人、隆太、省吾、依里奈、それに米村だ。真凛と鈴子、ジェシカは肌の露出が多く、森を歩くには適さない靴を履いていたため荷物の仕分けに回ってもらった。



「中は涼しいっすね」



 誰かのスーツケースにあった、大き目の長ズボンをはいた隼人が汗をぬぐいながら呟いた。元よりジーンズにパーカーを着ていた依里奈とスーツ姿の米村以外は腕か脛がむき出しの服装だったため、漂流した荷物の中からサイズの合うものに着替えている。



「道具もないし、落ちている枝を拾いましょう。枯れた木があればそれも折って薪にします。力に自身のない人は俺を呼んでください。左手の崖を目印に進みます。夢中になって、見失わないようにしてください」

「グループ分けした方がいいんじゃない? 絶対省吾とかいなくなるの目に見えてるし」

「……うるせぇな、わかってるよ」

「あ、自覚はあるんだ」



 隆太が省吾を小突きながら笑うと、彼はばつの悪そうな顔であらぬ方向を向いた。



「じゃあこの馬鹿は僕が首に縄つけておくから」

「じゃあ俺は、彰浩さんと!」

「いえ、藤川さん……依里奈さんがいますから、瀬尾さんは彼女と組んだ方がいいと思います」

「僕は頼りにならないからねぇ。それに知らないおじさんと二人きりなんて女の子は気が重いでしょ」

「私は別に、誰とでもいいですけど」



 依里奈の態度は本当にどうでもよさそうなものだったが、米村の要望で隼人とのペアを組んでもらう。比較的浅い場所で薪を探す4人を見送り、彰浩と米村は左手に岩山をとらえながら更に奥へと進んだ。



「いやぁ、あんな若い女の子と二人きりなんて僕じゃ魔が持たないよ」



 人気がなくなった森の中で、米村は心底気まずそうに呟く。確かに、彰浩も無口そうな依里奈と二人きりになったところで、会話に咲かせる花は見つかりそうにない。ジェシカや隼人、米村のようなぽんぽんと話題を提供してくれる人間に対してならば何とか場は保てそうだが、元来彰浩は口下手な人間なのだ。



「米村さん、体力は大丈夫ですか?」

「うん? まああんまり自信はないけど、まだ疲れていないよ」

「少し、奥へと進んでいいですか?」

「いいけど、何かあるのかい?」

「いえ、川を探します。三十分進んで姿がなければ取りあえず今日は戻るつもりです」



 森へ入る注意事項を聞くためにフェイと話した彰浩は、水の重要性を聞いた。人間、水だけで10日程は生きられるらしいが、その逆では数日ももたないそうだ。砂浜から見えた山には木が茂っていたのでこの島のどこかにもおそらく川が存在するだろう、とフェイは言っていた。



「川かー、海水で濡れて気持ち悪いし、流せる場所があるならいいよね」

「そうですね。フェイさんは多分川があるはず、と言っていました」

「彼ね。どうしてあんな物知りなんだろう、不思議だね」



 米村とぽつぽつと会話をしながら森を進むが、中々川は見つからない。

 くちばしの長い極彩色の鳥が飛び立つのを見たり、時折足元の茂みがかさかさと揺れるので何かしらの動物が生息しているようだが、結局機嫌と定めていた時間を過ぎても水場は見つからなかった。



「普通これだけ動物がいたらありそうなものなんですけど」

「まあたまたまこっち側にはなかったのかも。とりあえず急ぎじゃないし、今日は戻ろうか」



 気落ちする彰浩だったが米村に諭されて来た道を引き返す。枝を拾いながら戻ると、米村が「あ」と何かを見て声を上げた。



「木が倒れてる」

「行きは気づきませんでしたね」

「薪にできるよ!」



 嬉々として米村が近づく。彰浩の腰程の高さから折れたその木は既に枯れ始めているのか、赤茶色の葉をつけていた。彰浩が倒れている枝を折ろうとするが、弾力を持っていて簡単に折れるようなものではない。



「堅いです」

「この木、最近倒れたのかな」

「でも、葉っぱは枯れてますよ?」

「たぶん、こんな色の葉なんだと思う。ほら、あれ」



 そういって米村が指さす方向にも、確かに似たような色の葉がついた木が生えていた。今まで気づかなかったが、この森ではポピュラーな一種らしい。



「これってさ、朽ちて折れたって言うよりなぎ倒されたって感じじゃない?」



 確かに、倒された幹は青々とした葉がついており、簡単に倒れるようには見えなかった。



「それってつまり、この森の中にこの木を倒すような動物がいるってことですか……?」



 彰浩の言葉に、米村は青い顔で頷く。



「これ、固まってるけど樹液じゃないかな」



 彰浩も米村と並んで折れた幹を覗き込むと、確かに幹の中央から黒い光沢のある何かが流れ出し、固まっていた。つまりこの木から樹液が取れることを知っている知能と、直径三十センチ程度ではあるが一本の健康な木をなぎ倒すほどの力がある動物がこの森には生息しているかもしれないのだ。

 二人は顔を見合わせて、頷いた。――帰ろう。





 彰浩たち両手いっぱいに枯れ枝を持って戻った頃には、既に砂浜の真ん中に火が灯されていた。しかも何故かその上に土鍋まで置かれている。



「あ、お帰りなさい! 遅かったっすね」



 そう言って隼人が彰浩たちから枯れ枝を受け取り、一か所に積んである場所に投げ置く。火が暮れるまでの小一時間程度の時間しかなかったはずだが、枝は彰浩たちが集めてきたものの数倍はあった。



「随分と集まったみたいですね、お疲れ様です」

「すぐ近くで依里奈が枯れ木を見つけたんすよ。大きい木だったから、隆太たちも呼びに行って」

「皆さんで解体したんですか?」

「戻ったら依里奈が全部ばっきばきにしてました」



 体育会系だとは知ってたけどあいつまじ半端ねぇ、と隼人が遠い目をして笑う。男では結局枯れ枝を運ぶだけに使われたそうだ。真っ直ぐな黒い髪に切れ長の瞳、更には眼鏡の少女は彰浩の想像とは裏腹に力持ちだったらしい。あんな細い腕では枝をばきばきと折る姿を想像しろという方が難しいだろう。



「ところで、あの土鍋は?」

「あ、あれっすか! 笹原のおっさんがいっぱい持ってたんすよ。沖縄陶器(やむちん)って言って、店用に買い込んでたらしいっす」



 鍋の横に座り込んでいた壮年の夫婦は笹原と言うらしい。隼人曰く、彼らは東京で飲食店を営んでおり、沖縄陶器の土鍋を五つ買い込んで帰るつもりだったらしい。割れ物だったため手荷物にしたのが幸いだったと笹原は言うが、その努力もむなし一つは割れてしまったそうだ。



「今、フェイさんの知識を総動員して海水から飲み水を作ってるらしいっす。うまくいったら、残りの土鍋も使うって言ってましたよ。あの人まじ何もんなんすかね」

「自分も、フェイさんに報告してきます」

「あ、俺通訳するっす。何とか雰囲気は伝わるので」



 たき火の横でじっと鍋を見つめるフェイの隣へと向かうと、彼は小さく「オツカレ」と口にした。彰浩は彼の口から日本語が飛び出たことに驚くが、何でも周りが言っていたのを労いの言葉だと判断したらしい。

 彰浩が、三十分程歩いてみたが川はなかったこと、樹液が取れる木があったことを告げると、隼人が拙い英語で何とか通訳してくれる。フェイには伝わったのか、彼は何度か頷き、再度「オツカレ」と彰浩に声をかけた。



「それで、樹液の木を見つけたときのことなんですけど。……これくらいの細い木だったんですけど、おそらく何かになぎ倒されているような様子でした」

「……Zootic?」

「えっと」

「Animal?」

「……Yes.多分」



 夜になっても救助は来なかった。日が出ているときよりも冷える海辺で、めいめいが高校生たちによって配られた衣服に身を包み空を見上げている。

 あの後、フェイは難しい顔をして危険だから必要になるまで森に入らない方がいいと全員に警告した。彼のおかげで飲み水も調達できたし、薪のあるうちはあの森の中へ入る必要はないだろう。栄養が偏るかもしれないが、沖縄の銘菓ならこの人数でも数日はもつ程度には流れていている。

 彰浩は土鍋の四つ並ぶたき火に誰かが薪を追加する影を見ながら、ゆっくりと眠りに落ちた。

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