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同居人の少女は改造されている  作者: はしもと
第一章 便利屋
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ご飯係



 睦美の保護者になったことで、ある程度余裕のある生活が出来るようになった。口座から一ヶ月分の生活費を降ろしても、まだ残金があった。こんなことは初めてで思わず笑みがこぼれた。

 お金があるということは、人の心に余裕を生んでくれる。群青にとってあまり知りたくない世界の仕組みだったが、嬉しいときは素直に喜ぶというのが彼の信条だ。思う存分ニコニコすることにした。



「なにそれ。気持ち悪いね」

「ん? なにが」

「笑い方下手くそだね」



 睦美が群青の卑しい笑顔を見てそう毒づいた。彼はそれを間に受けてしまい、笑みが消えてしまった。悲しいときは素直に悲しむというのも彼の信条だからだ。

 二人はスーパーマーケットに来ていた。夕食の材料を買うためだ。睦美は迷うことなくインスタント食品のコーナーに行き、群青が手にもっていたカゴにドサドサとカップ麺を入れ始める。



「ばっかやろう!」

 そのカップ麺をカゴに入った順に売り場に戻していく。丁寧に向きも揃えて戻したので、さっきよりも綺麗な売り場になった。



「こんなコスパ高いもの買う金なんてねーぞ! 買うならこっちだ」

 群青が向かったのは精肉売り場だった。もう半額シールが貼られている。

「この店は九時閉店だから、この時間から半額シールが貼られるんだ。ほとんどミンチしか残ってないけどな。セールで安くなっている商品が半額のときにまとめ買いする。これらは家に帰ったら、一回分ずつ分けてラップに包んで冷凍させる。これだけあれば一週間は肉に困らない。

 それに今日は特売の肉がすき焼き用の肉だったろ? その肉のいらない切れ端の部位を挽肉加工するから今日のは味もいいんだ。カップ麺一つ買うお金で、五回分ほど肉が手に入るんだぞ」



 半額シールが貼られた挽肉を次々にカゴに入れていく。これだけ買うと一ヶ月は肉に困らないそうだ。次は野菜コーナーに向かう。



「どうするの? 安く済ませるのだったらもやしとか買う?」

「いや、もやしとネギと大葉は家で育ててるからいらない。野菜は時価の振り幅が広いからな。安くなっているときを狙う。今日は人参やじゃがいもが一個二十円だ。長期保存出来るものはこういうときにまとめて買う」



 最後に彼は小麦粉をカゴにいれた。

「小麦粉って何に使うの? パン?」

「それは薄力粉じゃないのか? オレもよくは知らないけど、小麦粉は魔法の粉だぞ。これさえあれば、あらゆる料理は生成可能だ。なにより値段が安いし腹も膨れる。最高の食材だよ」

「ふぅん」



 ギターを弾くより節約ブログでもやった方が才能あるんじゃないか、と睦美は呆れながらそんなことを思った。まとめ買いをしたので金額はそこそこしたが、群青が主張するにはこれで二週間ほどは基本的に買い物をしなくても済むらしい。十四日分がこれだけで済むなら安いものかと睦美は思った。



「お金半分返すよ」

 ポケットから財布を取り出す。睦美の財布にはブランド物のマークが入っていた。群青はそういうものに興味がないので、それがどこのブランドのもので、どれほどの価値があるものかは分からないが、それでもそのマークだけは知っている。

 よっぽど有名ブランドなのだろう。たしかに群青の目に狂いはなかった。睦美はごく自然に使っているが、三十万はくだらない財布だった。高校生が持つには高すぎる。



「いや、いい。オレはお前の保護者だ。たぶん、お前の生活費も報酬の一部なんだろうな。だからお前が俺に金を払う義務はないぞ」

 断固として群青はお金を睦美から受け取らなかった。お金がなく節約するくせにお金は受け取らない。おそらく群青はお金に無頓着なのだろう。睦美はそう予想した。そしてそれは当たっていたことを今後知ることになる。



 帰宅すると宣言通り、せっせと冷凍保存の作業を進めた。小分けしてラップで巻いてその上に油性マジックで保存日の日付を書く。ラップで巻いたものをビニール袋で一まとめにする。こうすることで使い忘れを防ぐことが出来る。初めは横で眺めていた睦美も、やり方が分かったので真似をして冷凍保存の作業を進めていく。



 彼女にとって節約することは初めてのことだったので、楽しかった。群青といれば世界が広がっていく気がした。自分が知っているこの世界の仕組みと、離れたところで群青は生きている。



 親のいうことを守り、親の期待に応え、有名大学に入り、一生安泰な仕事につく。お金をたくさん稼いで、裕福な暮らしをすることが、人生の勝ち組。ずっと周りからそういう価値観を植え付けられてきた睦美にとって、群青はもはや宇宙人のような存在ですらあった。



「今日の晩御飯はどうするの?」

「特売の日に買いだめしておいたカレールーがある。今日はそれを作ろう」

 野菜と冷凍されている豚バラ肉を取り出して、調理を始める。することもないので睦美も手伝う。皮を剥いて、包丁で切って、材料を煮込むだけ。比較的簡単な調理だ。小学校の家庭科の授業でも作るだろう。



 流れ作業のように調理をしていると睦美はあることに気づいてしまう。

 群青は料理が下手だった。まず、包丁の使い方からして危なっかしくて見てられない。よく見ると彼の手には幾つもの生傷があった。



「もしかして……不器用?」

「……不器用じゃない。うまく切れないだけだ」

「はいはい」



 選手交代。今度は睦美が包丁を握る。一定のリズムでトントントントンと、あっという間に根菜を一口サイズに切り分けた。



「睦美……。もしかして器用なのか?」

「器用じゃないよ。切るのが得意なだけ」

「ふむ……」



 なにを納得したのか知らないが、群青は手に顎を当てて何かを考えている。それを待っていても仕方がないので、睦美は鍋に具材を入れて炒めていく。

 まんべんなく火が通ったところで、水をいれて煮込む。十分に煮込み終わるとカレールーをいれてまた煮込む。煮込み終わると中火にして、二十分ほど放置だ。ちょうど出来上がるころには炊飯器のご飯も炊き上がるだろう。



 カレーはなかなかの出来だった。少なくとも群青が自分で作ったものとは比べることすら失礼なほど美味しかった。ただ単純に群青は料理ができないというだけなのだが。

「美味いなぁ。将来はカレー屋さんになれるんじゃないか?」

「いいすぎでしょ。箱に載ってた作り方通りに作っただけだよ」


 それでも一口食べるごとに美味い美味いと言われると悪い気はしなかった。料理を作ったことなんて、家庭科の授業のときくらいしかなかったので、初めて誰かにご飯を作ってあげる喜びを知ることが出来た。



「じゃあ、これからご飯当番は睦美な」

「は……はぁ? やだよ。めんどくさいよ」

「じゃあ、オレの料理でも残さずちゃんと食べるな?」

「うっ……」



 それは確かに嫌だったので、睦美は反論することが出来なかった。こうして渋々だが、睦美はこの家のご飯係になった。





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