そうだったらいいなって、思っただけだよ
群青の休日は少なかったが、休日のたびに足を運んだ。
いつも通り病院に入ると、やけに院内がキラキラ輝いていることに気付いた。今日はクリスマスだった。廊下に飾られたクリスマスツリーは色鮮やかにライトが光っていた。少しだけ幸せな気持ちになれた気がした。
「あっ、群青さん」
「よっ」
まだ、睦美の記憶は戻らない。頭に痛々しい包帯を巻いた睦美は、この世界の苦しいことも悲しいことも何も知らない生まれたての赤子のような無垢な笑顔で迎えてくれた。
「雪、肩についてるよ」
そう言って、肩に降り積もった雪を払ってくれた。
「いつも休みのたびに来てくれて、ありがとう」
「いいんだ。休みの日にやることもないし」
「あのさ」
「ん?」
睦美が群青の袖を弱く掴んだ。
「今日群青さんの家に行ってみたい。先生はもう外出しても大丈夫だって言ってたの。だから、群青さんの家に行ってみたい。何かを思い出すかも知れない。思い出したいの。群青さんとのこと、今までの私のこと。嫌なことも忘れたい記憶もたくさんあるかも知れないけど、それでも私は、思い出したいから」
「……分かった」
二人は関川に外出許可をもらった。
雪の降る街を二人で歩いた。二人は手を繋いだ。転ぶと危ないから、という理由だったが、雪が溶けている道でもずっと二人は手を繋いでいた。クリスマスムード一色に染まった街には、そこかしこにイルミネーションが飾られていて、今日が特別な日であることを改めて教えてくれた。街には幸せそうな人たちが溢れている。みんな優しく笑っている。
「私たちもカップルに見えるのかな」
「まぁ、そうだろうなぁ」
「私たちも幸せそうに見えるのかな」
「さぁ……、なんで?」
「そうだったらいいなって、思っただけだよ」
冬の寒さに負けないように、二人は手を握りなおした。
群青の家に帰る途中で、いつもの河川敷を通った。
「私、もしかしてここに来たことあるのかな」
まだ誰にも踏まれていない新雪の上を歩く。嘘をつく理由もなかったので、群青は首を縦に振った。
「……そっかぁ。なんか懐かしい気持ちになったんだ。嬉しいっていうか、心の奥が温かい。きっと、私にとって大切な場所だったんだと思う」
睦美は文句を言っていたが、毎回ギターを弾くときはついてきてくれていたことを、群青は思い出した。しかし、そのことは伝えなかった。
長い距離を、記憶をたどるように歩いて、ようやく二人は自宅に辿り着いた。




