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同居人の少女は改造されている  作者: はしもと
第五章 同居人の少女は改造されている
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人生



 何時間経っただろうか。手術室の扉が開き、緑色の手術服を血で染めた関川が出てきた。彼は群青の姿を確認すると、にっこりと微笑んで、親指を立てた。気がつくと四時間近く経っていた。

 関川の話によると、なんとか一命は取り留めた。しかし、まだまだ予断を許さない状況であることには変わりはなかった。安心すると急に眠気が襲ってきた。話の途中で意識は途絶え、その場に倒れこんだ。

 次に群青が目を覚ますと、外はもうすっかり暗くなっていた。鈴虫の音色が聞こえる。視界が天井で埋まっていることに気付いて初めて、ベッドに寝かされていることに気がついた。慌てて起き上がると、隣には包帯をぐるぐる巻きにされている少女の姿があった。その少女が睦美だということは、暗闇の中でもすぐに分かった。



 群青はゆっくりとベッドから降り、部屋から出て関川を探した。関川はすぐに見つかった。診断室に案内される。

「疲れているところ悪いんだが、手術代の話をしなければならない。いいかな」

「はい」

 群青は静かに頭を縦に振る。



 関川から提示された今回の手術代と今後の治療費は、群青が今まで払ったことがある一番大きな額に、さらにゼロを三つほど足した額だった。それは睦美の保護者としての報酬を払っても焼け石に水をかけるようなものだった。



 関川が一つずつ説明をしていく。まず、正規の病院で診てもらえないこと。健康保険が使えないこと。体の全てが弄られていたので、元に戻すのにかなりの手術を重ねなければならないこと。高度な技術が必要とされること。群青は関川が告げる内容の真偽を図る知識を持っていないので、全てを受け入れて話を進めるしかなかった。



「樋口さんは、今は学生?」

「いえ……」

「じゃあ、何か定職に就てる?」

「いえ……」



 関川は髭を触りながら、小さく唸った。群青は生まれて初めて金の必要性を知った。金があれば救える命がある。金がなければ、誰も救えないのだと。金がなく定職にもついていない自分を恥ずかしく思った。働くことは、自分のためだけではない。みんな誰かのために毎日苦しい思いをしても働いているのだと気付いた。定職にもついておらず、なんの実績もないので社会的信用はなく、医療費を借金させてくれる銀行もないだろう。



「千夏さんは……もう亡くなっているんだろう?」

「どうしてそれを……」

「一度彼女を診たことがあるからね。流石に今まで診た患者の全てを覚えているわけではないが、知人や印象に残った患者は覚えているよ」

 大きく溜息を吐いた。その溜息は落胆ではなく、処理しきれなかった悲しみを吐き出したようだった。



「生前の千夏さんの最期の頼み……。これも何かの縁……か」

 独り言を呟いた関川は、白髪頭を困ったようにかいた。



「支払いは、特別に分割払いで私から貸そう。でも二つだけ条件がある。まず定職につき、そこから毎月完済まで必ず払い続けること。それと何か担保を用意すること」

「ありがとうございます」



 定職につくことは、それは群青にとって夢を諦めることと同義だった。

 正社員になりながらでも、夢を追う人間はいくらでもいる。そのことは知っていた。しかし、彼は自分が二足の草鞋を履けるほど、器用な人間でもないことを理解していた。

「あっ、でも君って別に一ノ瀬睦美さんと結婚しているわけではないんだよね。すまない。私の早とちりだった。請求は一ノ瀬さん本人にするよ」

「いえ、オレが払います」

 関川は顎に手を当てて、怪訝そうな顔で群青を見た。



「樋口さん。気持ちはわかるが、この金額はそう安請け合いしてもいいものじゃない。少しキツいことを言うけれど、学も技術も何もない君が今の日本で働いていくとして、一生かけてようやく返せる額なんだ。それに一ヶ月の返済額も高額になる。身内でもなんでもない人間のために、人生を棒に振ることになる。それに完治しない可能性だってある。そうなれば君に残るのは借金のみだ」



「それでも、オレが払います」

 群青に迷いはなかった。このあとも何度か同じ内容の話が繰り返されたが、群青は承諾してもらうまで、支払いの意思を示し続けた。



 関川は終始困ったような表情をしていた。群青は渡された契約書にサインを交わし、一生かかってようやく返せる額の借金を背負った。




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