ブッ。ツー……ツー……
「私は今、特殊な培養液が入っている水槽に脳だけの状態で管理されています。電極で繋いでコンピュータで音声を作成し、自分の体の移植に関するコーディネーターの仕事を任されています。逃げ出すことは出来ず、この仕事が終わると同時に処分されることになっています。
睦美さんに移植されたのは、『四肢』『臓器』『頭部と記憶』です。記憶は私のコピーを上書きされました。ファックスから出てきたコピーのようなものです。脳みそを移植してしまうと、コーディネーターを務める者がいなくなりますから、最後の段階で取り出されて水槽につけられました。それまでは部位がなくなるごとに生命維持装置が追加されていき、生かされ続けていました。もう私の脳が認知出来るものは、群青さんの声だけなのです。
七海千夏は、あの夏の日に死にました。コーディネーターの田中として生まれ変わって、随分と嫌われてしまいましたが、私は群青さんの声を聞くたびに、安心出来ました。辛くても頑張ろうと思えました。
群青さんがくれた唄が、ずっと私の記憶の中で励ましてくれていましたから。
どれだけ体をバラバラにされても、この記憶だけは奪われないように護りました。
だって、群青さんがくれた唄は、私の大切な宝物なのですから」
千夏の感情は分からなかった。合成音声は不器用に発音することしか出来ない。
「群青さん……」
「……うん?」
「よかったです。群青さんにとって、大切な人が私以外にもできて。これで安心して処分してもらえます。群青さん、忘れないでください。あなたに救われた人はあなたが思っているよりたくさんこの世界にいることを。それだけは、忘れないでください。
生きていれば、迷惑をかけることも役に立てないことも出てくるでしょう。必要とされていないと感じることも出てくるでしょう。でも、一回だけでも誰かを笑顔に出来ればそれだけでいいと思うのです。
私に居場所をくれたのは、あなたでした。
私に笑顔をくれたのは、あなたでした。
あなたのそばは、安心出来ました。
だから、ずっと笑顔で生きていてほしいのです。
好きになってくれて、ありがとうございました。
大好きです。群青さんのこと、大好きです。
こんな形でご迷惑をおかけしてごめんなさい」
「千夏……。謝らなくていい。お前は何も悪いことしてない」
「……はい」
「千夏……」
「はい……」
「大好きだ。この世界にオレの居場所をくれたのは、千夏だよ。ありがとう」
「……はい」
「千夏……」
「はい」
「……おかえり」
「…………ただいまです。群青さん。ずっと、お待たせしてしまいました……。
群青さん……」
「うん……?」
「さようなら……」
ブッ、ツー……。ツー……。
群青は通話終了と表示された画面を、ただずっと眺めていた。




