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同居人の少女は改造されている  作者: はしもと
第一章 便利屋
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午前三時の非通知



 商店街を抜けて、そこから随分長い時間歩いて、閑静な住宅街の片隅のくたびれたアパートに辿り着いた。外壁は剥がれ落ちていて、地震の余震で潰れてしまいそうだ。人が住んでいる気配すら消えてしまっている。壁一面にへばりついているツタが、不気味な雰囲気をより一層助長させていた。



 今にも外れてしまいそうな頼りないドアノブをひいてドアをあけると、五畳の和室が迎えてくれた。室内には年代物の白物家電一式とキッチン。部屋の真ん中には折りたたみ式のこたつ机が置かれていて、その傍らに畳まれた布団があった。

 日々の生活費だけで収入のほとんどが消えていくので、群青の部屋には必要最低限のものしか置いていない。地方のビジネスホテルのように簡素な部屋だった。



「ここに住んでるの? 嘘でしょ?! 倉庫じゃない!」

「住めば都っていうだろ? それにちゃんと審査は通ってるから住居だ」

「お金は持っていないだろうなぁって分かってはいたけど、予想以上だった……」



 三匹の子豚の家が壊されたように、この家も風が吹けば飛んでしまいそうであった。ここに住むなら海外の最新の刑務所に入っていたほうが快適に過ごせるだろう。

 ドアに備え付けられているポストから郵便物を取り出す。

 また賃貸未納のハガキかと思って見てみると、入金確認だった。他にも滞納していたカードや携帯の料金が口座から引き落とされている。口座には金など入っていないはずなのに。



「どうしたの?」

「いや……、銀行口座に金なんて入っていなかったはずなのに、引き落とし証明の領収書が届いてるんだ。こんなことってありえるのか?」

「別にいいじゃん。払ってて未納だったらダメだけど、払ってないのに支払ったことにしてくれてるんでしょう? なにかあったらまた連絡が来るわよ。それに払えるお金も手元にないんでしょう?」



 睦美の言う通りだった。正直、滞納していた資金を集めなければいけなかったので頭を抱えていたところだ。働けばすぐに返せる金額ではあるが。

「ていうか、お金ないなら定職に就きなさいよ……。働かないとお金は稼げないわよ」



 群青は聞こえないふりをした。それはもう耳にタコが出来るほど聞かされた。

 たしかに今の生活はギリギリだが、なんとか生きてきたのだ。それに絶対に叶えたい夢もあった。それを叶えるためには全てを犠牲にしても構わなかった。

 それがたとえ、自分の生活だったとしても。

 群青が無視をしたので、睦美はもう話を続けなかった。



「今日はもう疲れたから寝よう」

 群青は布団を敷いて、引き出しから大きなタオルケットを取り出して、シーツ代わりに布団の上に広げた。

「布団はお前が使っていいよ。俺は畳の上でも寝られるから」

 急に押しかけた上に、寝床までとってしまうのはさすがに申し訳なかったので睦美は拒んだ。それに対して、群青も男の自分が布団を使って寝ることを拒んだ。数分間の譲り合いの末、群青が黙って床に寝転がり「俺はここで寝るから、あとはお前の好きにしろ」と言ったので、睦美が布団を使うことになった。



 気負いしながら布団に寝転がる。幸いにも今夜の気温は高く、群青が風邪をひいてしまうことはないだろう。睦美は仰向けになり、天井の照明を見つめた。薄ぼけた古い白色に発光していて、数秒に一回点滅をしている。もうすぐ買い替えなければならないだろう。

 群青が手を伸ばし、照明に吊るされた糸を引っ張る。乾いたスイッチの音が沈黙に響いた。部屋が橙色に染まる。



「暗くても平気か?」

 群青の問いに対して睦美は頷いた。同じ音が鳴ったあと暗闇に包まれる。窓の向こうからの光が、部屋を薄く照らしてくれた。二人の間に言葉はなく、布の擦れる音だけがしている。

 しかしその静寂は、着信音によって破られた。深夜三時に突如なり響いたスマートフォンは二人の人間の睡魔を吹き飛ばすには十分すぎた。群青が暗闇の中、スマートフォンを取り出す。画面には大きく、



『非通知』

 と、表示されていた。



「出ないの?」

 画面を見つめたまま動かない群青に問う。

「午前三時に非通知設定だぞ……。頭がおかしいやつか、バカだろ。ほっとけば、寝てると思い込んで、また明日にでも掛け直してくるさ」



 二人はスマートフォンの点灯が消えるのを、息を潜めて待った。なにか物音を立てると、電話の相手に起きていることがバレてしまいそうな気がしたからだ。

 着信音は鳴り止む気配を一向に見せず、そのまま三分程経過した。痺れをきらした群青は、渋々応答のアイコンをスライドさせた。相手が何者か全く心当たりがなかったので思わず固唾を飲んでしまった。



 電話口からはノイズと、何かを経由して通信しているような電子音が聞こえている。さらに雑音が加わったところで、女性の声が聞こえてきた。正確には女性の声に聞こえる機械音声だった。イントネーションは自然だったので、おそらく電話口の人間が加工ソフトを使用しているのだろう。



「お世話になっております。わたくし、アルカナ財団の田中です」

 田中と名乗る人物は、感情のない声で告げた。



「あなたが一ノ瀬睦美様の保護者である、樋口群青様でございますね」






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