私の五感
「コーディネーターの田中です」
「知ってるよ」
「左様ですか」
「それで、なんの用だよ」
苛立った声で訊いた。
「明日の正午、本日宿泊される予定の香川県のホテルまでお迎えいたします。もしも指定の時刻にいなかった場合、契約破棄となりますのでご了承下さい」
どこへ逃げても無駄だった。追いかけてくる。それは変わらない。
「契約破棄でもなんでもすればいい。そんなもんは違法だ。訴えればこっちが勝つぞ」
「ええ、訴えることが出来ればですが」
「……」
「それでは失礼致します」
ブッ。ツー……、ツー……。
「電話来たんだね……」
気付けば、睦美はもう風呂から上がっていて寝間着に着替えていた。
「……逃げようぜ。どうせ殺され……」
しまった、という顔をした。睦美は悲しそうな顔をした。
「わるい」
「ううん、いいんだよ。そうだね。どうせ殺されちゃうんだろうね。だって、これは耐久テストのようなものだもの。どこまでやれば、死ぬかを測る実験だもんね」
「だったら……」
「でもね、死なない人が殺される必要はないと思うの」
そして、笑った。いつもみたいに一人で、笑った。
「群青さんは生きて。あなたが生きている世界が好きよ」
睦美の意思は決まっていた。それもずっと前からこうなることは分かっていたのだろう。
「私の五感の全ては、きっとあなたを見つけるために神様が作ってくれたんだと思うの。だから、見つけられたよ。だから、聞こえたよ。温かかったよ。全部、私が見つけたんだ」
まるでもう会えないような気がした。非通知の電話が掛かってくる前と同じように嫌な予感がした。
「ありがとう。こんな私を見つけてくれて。この世界に居場所をくれて、どうもありがとう」
睦美の笑顔は冷たかった。
睦美の声は悲しそうだった。
睦美の手は温かかった。
全部、自分だから感じることができたもの。




