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同居人の少女は改造されている  作者: はしもと
第四章 逃避行
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この世界に



 次の日から電車で四国を回った。まず香川県から電車に乗って愛媛県に行った。電車の窓から、遠く向こうで浮かぶ雲が見えた。頬杖をついて、睦美は静かに流れる景色を見つめていた。おそらくもう、ここに来られることは二度とない。



 なので、覚えていたかった。二度と来ないのに覚える必要があるのかは分からない。ただ、自分の体がそう長く生かせてもらえないことくらいは気付いていた。自分の体のことは自分が一番よく分かっている。ただし、もうほとんどは他人の体だった。



 群青に伝えると面倒なことになりそうだったので、もうあまり時間が残されていないことは秘密にしておいた。四人用のボックス席の向かい側に座っている群青はコンビニで買ったレタスがたっぷり挟まっているサンドウィッチを食べている。

「一つちょうだい」

「ん」



 睦美はもらったサンドウィッチをモソモソと草食動物のように食べた。そのあとはポーチから錠剤を五つ取り出し、また服用した。手持ちの薬は日を追うごとに少なくなっていく。

 愛媛県の松山に着いた。二人はここで銭湯に入った。昔ながらの銭湯は、シンプルな作りだった。シャワーは設置されておらず、蛇口と大きめの湯船が一つあるだけだった。湯の温度は高めに設定されていたので、群青は約束の時間よりも早く出ることにした。



 風呂屋の前で待っていると、睦美もどうやら同じだったらしく、ほとんど同時に風呂屋から出てきた。近くの商店街に入り、お土産屋で愛媛みかんのゼリーを購入してベンチに座って食べた。

 まだしっかりと乾いていない髪から、シャンプーの香りがした。




 *




 また電車を乗り継いで今度は高知県に来た。ここらで安めの宿をとって数日泊まった。海岸線を見たり、街を散歩したりして過ごした。貯金はあったが、これも死ぬまで保つものじゃない。この生活はほんの一瞬で潰えてしまうものだということは口に出さずとも理解していた。

 ただ、もう少しだけ一緒にいたかった。

 それすらも恥ずかしくて言えなかった。

 旅はいつか必ず終わってしまうものだと、初めて気がついた。




 *




 徳島県に着いた。徳島駅の正面には眉山が見えた。夏の日差しが強く、遠くの緑がより一層色濃くきらめいていた。睦美がロープウェイに乗りたいと言うので、二人は徒歩で阿波おどり会館へと足を運び、そこからロープウェイに搭乗した。



「あたし、ロープウェイに乗るのって初めてかも」

 ガタゴトと音をたてながら、ロープウェイは動き始めた。群青たち以外に搭乗客はいなかったので、貸切状態になっていた。さっきまで歩いていた街がどんどん遠くなっていく。足元を見れば、木々が生い茂っている。蝉の声がまだ響いていた。ロープウェイが進むほど陽射しが強くなっていく気がしたが、降りてみると風が強く、あまり気にならなかった。

 出口のすぐそばは徳島の街を一望出来る展望台になっていた。



「わぁ……」

 風が吹いた。

「綺麗だね……」

 金色の髪が、風に撫でられてふわりと揺れた。

「そうだな」

 二人で並んで同じ景色を、ただ見つめていた。



「あたしね……、徳島来たの初めてなの」

 錆びた柵にもたれた。彼女はずっと街を眺めている。

「ここにも、私たちと同じように生活している人がこんなにもたくさんいるんだってこと、小学校で習ったはずだったのに今日まで知らなかった。知ろうともしなかったよ」

「……」

「群青さん、もしもまた出会う前の状態に戻っても、あたしを見つけてくれたら嬉しい。迷惑ばかりかけちゃったけど、こう見えてもあたしね、楽しかったんだよ。幸せだった。ようやく見つけたあたしの居場所だった。世界でたった一つのあたしの居場所だったから。

 この世界に居場所を作ってくれて、ありがとうね」



「出会う前に戻ることなんてないだろ。いつまでだって、お前の場所はオレの中にあるから。だから安心しろ。ずっとお前の居場所はこの世界にあるから」

 睦美は今までで一番泣きそうな顔で、幸せそうに笑った。

「この旅も明日で最後になるよ。もう薬が残ってないからさ……。

 最後に群青さんと思いっきり過ごせてよかった」



 ピリリリリリリ……。



 群青のスマートフォンに着信が入った。

 誰からかは、確認をせずとも分かっていた。

 この世界で自分たちがどこにも逃げられる場所なんてどこにもないことくらい分かっていた。


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