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同居人の少女は改造されている  作者: はしもと
第四章 逃避行
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うどんの旅



 飛行機が着地する瞬間は、死を覚悟したが周りの人たちはその地面との衝撃がさも当たり前のような顔だった。不慮の事故により、墜落してしまうかどうか分からない飛行機がクライマックスでなんとか機体を擦りながらも着地するシーンのように、一回一回のフライトが終わればスタンディングオベーションでも起こるものだと思っていたが、どうやら違うらしい。



 群青はさりげなく心の中で拍手をして、ほっと胸を撫で下ろした。飛行機のパイロットは大変な仕事だ。俺は絶対にやらない。やりたいと願ったところでやれるわけもないのだが。

 飛行機は無事、羽田空港から高松空港まで二人を運んでくれた。ベルトコンベアから流れてきた自分たちの荷物を受け取って、さっさと空港を出た。

 東京は曇っていたが、香川県は快晴だった。



「さぁ、うどんを食べに行きましょう」

「死ぬ前にやりたいことって、うどんを食べるだけでいいのか?」

「え? むしろたらふくうどんを食べれたら幸せじゃない?」

「オレにはよく分からん」



 地図を片手にうどん屋を回っていく。とりあえず徒歩でいける範囲で評判のいい店は全て回るつもりらしい。

 まず一件目のうどん屋に立ち寄った。地元客であろう人たちが列を作っていたが、回転率がいいのかどんどん進んでいく。これなら思っている以上に早くうどんにありつけそうだ。

 店に入るとすぐに厨房があって、そこで注文をするらしい。睦美は肉うどんを。群青は素うどんとちくわの天ぷらを頼んだ。ちくわの天ぷらは揚げたてだったので、かじると火傷しそうなくらいに熱かったが、それを押させるほどの美味しさだった。

 本場の強いコシ。シンプルなのに、もっちりと食べ応えのある麺。それを啜るたびに輝く汁が窓からの朝日で輝いて見えた。

 睦美は一心不乱にうどんを食べていた。幸せそうな顔をしていた。



 その近辺を一通り食べ歩くと、今度は電車に乗って西へ向かった。睦美の調べによるとこちらにも何件か固まっているとことがあるそうだ。おそらく、人生で初めて同じ空間を共にする人たちと共に電車に揺られて目的地についた。



 すでにお腹は腹八分目ほどだったのだが、歩くとさっき食べた分が消化され、無事次のうどんを食べることが出来た。



 一日六軒のうどんを食べたあと、とうとう群青が音をあげた。さすがに睦美も食べ過ぎたと反省した。

 郊外だったので駅の近くにはビジネスホテルがなかった。なので繁華街まで電車で戻って宿を探した。宿は思っていたよりも早く見つかった。というよりも睦美が電車で移動中に調べて予約までしてくれていた。当然のようにツインベッドだったが、今まで同じ屋根の下で暮らした仲だ。特になにも言うまい。



 睦美が先にシャワーを浴びた。待っている間、群青はテレビを見ていた。チャンネルと放送局の組み合わせも違っていて、見たい番組を探すのに苦労した。二周チャンネルを回したところで、見たい番組なんてないことに気付いた。

 しばらくベッドの上でゴロゴロと寝転がっていると、睦美がふいに起き上がった。



「群青さん、コンビニ行かない?」

「コンビニって、もうこんな時間だぞ。今から行くのか?」

「こんな時間に行くから楽しいんじゃない。ほら、行こうよ」

 睦美に引っ張られて群青はホテルから出た。夜の香川県は昼間とはまた違った顔を見せた。ポツリポツリと街灯が並ぶ。アーケード街の中は、ほとんどの店のシャッターが降りていたが、屋根覆いに飾り付けられた光たちだけが迎えてくれた。それが天の河のようにキラキラと出口まで続いていた。

 いつの間にか如何わしい通りを歩いていることに気づいた。睦美はまだ気付いていなかった。人気のない道を通り過ぎると、またうどん屋を見つけた。



「あれ? 夜やってるなんて珍しいね」

「そうなのか?」

「ここら辺のうどん屋さんって大抵お昼過ぎにお店閉まるところ多いんだよ。入ってみようよ」



 のれんをくぐり、二人は店内に入った。厨房にはうどん職人らしき人が三人いて、それぞれ忙しく仕事をしている。こんな時間だというのに店内は賑わっており、ちょうどカウンター席二人分だけ空いていたのでそこに腰を下ろした。



「おでんもあるんだね。おでん食べようよ」

 睦美は肉うどんと大根、こんにゃく、煮卵を注文した。群青も選ぶのがめんどくさかったので、同じものを注文した。



 店内が蒸気に溢れている。夜なのに暑い。熱帯夜かも知れない。群青たちが注文をするころ、新規の客が入ってきたが席が空いていなかったので店の前で待っている。待っている間、群青はメニュー表をぼんやりと眺めていた。一方睦美は厨房の職人たちの動きを興味津々に眺めていた。無駄のない洗礼された動きを見ているだけで、料理への期待が高まっていく。初めにおでんが運ばれてきた。そのあとすぐうどんが運ばれてきた。肉汁がうどんの出汁に浮いていて食欲をそそられる。



「いただきます」

 二人が声を合わせて合掌した。

「んんー、おいしい」



 昼間に食べたうどんも十分美味しかったが、ここのは別格に美味しかった。夜中に食べるラーメンが普段よりも美味しく感じるのと同じことがこのうどんにも起こっているのかもしれない。しかし、そのことを差し引いても十分な美味しさだった。おでんにも箸を伸ばした。大根は柔らかく、軽く触れるだけで切れてしまった。湯気とともに汁が溢れ出す。食べると口の中で雪解けのように崩れる。



 思わず笑顔になって、頬が溢れそうになる。

 二人は互いに顔を見合わせると、さらに幸せな笑顔を作った。

 食事が終わると、睦美はポーチから五種類の錠剤を取り出し、服用した。

 食べ終わって店の外に出ると長い行列が出来ていた。



「地元でも有名な店みたいだね」

「あぁ、もうちょっと遅かったら並ばなきゃいけなかった。ラッキーだったな」

 人々の列を置き去りにして、コンビニを探した。散歩ついでに辺りを散策してみる。静かだった。

 どちらともいわず、手を繋いだ。前のように汗をかいてしまうことはもうなかった。二人と一人で手を繋いだ。それだけでよかった。



 コンビニを見つけたので、アイスを購入した。袋から出して食べながら知らない夜道を歩いた。また手を繋いだ。それが当たり前のことのように。



「好きよ。群青さん」

 睦美の金色の髪がライトに照らされて眩しく反射した。睦美の長い睫毛の瞳が、群青の顔をじっと捉えてそう言った。

「え、あ」

 突然の告白に群青は一瞬戸惑ってしまった。



「なんだか、今言っておかないと一生言えないかも知れないと思ったから」

 豆鉄砲を食らったような表情をしている群青を見て、クスリと小さく微笑む。

「なんて顔してんのよ。ばーか」

 睦美は頬を少しだけ紅く染めていた。満足そうに目を細めた。群青を自身の元へ引き寄せ、頬に子供のようなキスをした。



 唖然としている群青を置いて、睦美は歩き始める。

 今の表情を彼に見られないように。





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