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同居人の少女は改造されている  作者: はしもと
第三章 人を人たらしめるもの
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君がいない世界



 定刻丁度に物騒な黒塗りの車が、群青のアパートの前に停まった。前回の男がやってきて、何も抵抗することなく睦美は車に乗って消えていった。

 連れて行くとき、男は群青に「今回は二日間ほどで帰宅します」と告げた。



 群青は睦美がいない二日間、いつもと同じように過ごした。仕事を頼まれればそれをこなし生活費を稼ぎ、空いた時間があればいつもの河川敷でギターをかき鳴らし歌った。

 日が暮れて、群青の歌を聞く人が誰もいなくなったので帰路についた。玄関の扉を開けると、部屋は当然のように真っ暗だった。当たり前だった。睦美はいないのだから。

 その光景がなんだか、千夏がいなくなった光景と重なって見えた。重なってしまった。だから少しだけ、理由なんてないくらい小さな寂しさが群青の胸を締めた。



 部屋の電気をつけて、一人分の食事の用意をする。今日は冷凍してある白ご飯を解凍したものと、冷凍してある豚肉の細切れと、激安で買った卵を炒めて焼き飯を作った。群青にしてはなかなかの出来だった。濃い目の味にしたおかげでお腹も膨れた。洗い物もしないで、四畳半の部屋で仰向けになる。部屋の照明が不安定に光っている。もうすぐ替えが必要なのだろう。



 睦美がいない。



 そんな小さなことが、群青の胸の中で膨らんでいった。それはいっぱいになって、破裂しそうなほどいっぱいになって、苦しくなった。

 これがなんの苦しみなのか、群青には分からなかった。ただ、苦しい。

 睦美のいない世界はつまらなかった。ただそれだけだった。



 寝転んでいても自分の夢に近づけるわけではないので、机の上で作詞作業を始める。睦美がいないと何故かペンがスルスル進む。隣で文句をいう人間がいないからだろう。そこの単語の意味がおかしいだとか、意味不明だとか、そんな唄じゃ売れないだとか。いつも群青はそんなふうに自分の書いた詩を指摘されていた。



「分かる奴にだけ分かればいい。全員に受ける音楽など存在しない」

 と反論してみても、

「まだあんた、そんなこと言えるレベルでもないじゃない」

 と痛いところを突かれて、彼の風が吹けば飛んでいくペラペラの理論武装の鎧は音をたてて崩れていく。

「分かってもらおうなんて受け身だったら、いつまでたっても前に進めないよ」

 群青は結局、睦美の言葉を思い出して筆を止めてしまった。そして目の前の詩が書かれた紙をクシャクシャに丸めてゴミ箱に放り投げた。



 そしてまた一回書き直す。今度はちゃんと伝わるように。分かってほしい人に分かってもらうために。

 その唄は、睦美が帰ってくる一時間前に完成した。さっそく出来たての唄を練習した。夢中になり過ぎてあっという間に時間は過ぎた。気付けばドアがノックされていた。しまった。また調子に乗って音を出しすぎたせいで隣人からの苦情か……。



 そんなことを考えドアを開けると、金髪の少女が倒れこんできた。アパートの前に停まっていた黒塗りの車は、それを確認するとさっさと走りさってしまった。金髪の少女は、顔を真っ赤にして息を乱していた。触れた部分からは高い熱を発していた。



 群青は金髪の少女を抱えて布団で寝かせた。体温計で測ると、39℃の高熱だった。急いで氷枕を用意して、少女の頭を冷やす。病院に連れていく準備をしていたところで、少女は目を覚ました。

 途切れながら鞄に入っている頓服の存在と、病院には行かなくてもいいことを群青に伝える。急いで水と頓服を飲ました。頓服は見たことのない錠剤だった。それを二粒飲むと、少女はやっと安心したのか、気を失うように眠りについた。




 *




 睦美は激しい吐き気と頭痛の中で、夢を見た。



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