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星の子

作者: タラバガニ

 二輪車で草原を走っていると、進行方向に卵のような岩があることに気がついた——。

 近くで見たそれは、下の方が少し土にめり込んではいても、目算5、6mの高さはある。

 周囲2mくらいは踏み固められて草もないので、僕は乗り入れて、一周りしてみることにした。幸い、道に面して拓けているので、乗り入れやすかった。


「――ッ!」

 僕は驚いて少しよろける。卵の向こう側、先刻まで見えていなかった面に回り込んだとき、邪魔をするかのように目の前に脚立が現れたのだ。

 おお、すまん。と、脚立の上から快活そうな声がした。上に人がいたならぶつかってたら危なかったな、そう思って、僕は胸を撫で下ろす。

 ギシギシと脚立が軋む音がして、作業着の小柄なお爺さんが下りてきた。腰に巾着を括り付け、手には古雑巾を提げている。

「おじさん、この岩は一体……?」

「岩なんて言っちゃいけん! ……こいつは星様の卵じゃき」

 お爺さんは僕の言葉に眉をしかめてから、独特の訛りで答えた。星様の卵――星の卵、ということだろうか?

「ざっと60年前にの、空から、こいつとおんなじようなやつらぁが20も30も降ってこられてな、星様の卵じゃあ言うて騒がれたんよ」

 ――僕の目から見れば、どう見てもそれは卵形の岩だった。それに周囲には同じようなものはなく、ただ草原が広がっているだけだ。

 僕はお爺さんの言葉が信じられなかった。

 そんな僕の気持ちは露知らず、お爺さんは説明を続けた。

「こいつ以外は皆持ってかれちまった。挙げ句学者等ぁは、ただの隕石じゃとぬかしおる…………こんなにあったけぇのにな」

 お爺さんはひどく悔しげに言った。

 確かに卵には温もりがあったが、ずっと太陽に当たっているからだとも思えた。ただ――綺麗な形をしているとは思う。

「こいつは卵じゃと信じとるけぇの、わしはかれこれ60年、世話を続けとる」

 そう言うお爺さんの笑顔は輝いていた。

 僕には事実が分からなかった。だから、お爺さんの笑顔を信じることにした。

「いつか……いつか孵るといいですね」

 僕はお爺さんに負けないよう、精一杯の笑顔で答えた。

 風に揺れる古雑巾が、光を透かしてキラキラと光っていた。

 

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