表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【読書感想文】『人間の條件(文春文庫)』五味川純平

作者: 田中せいや

人間の尊厳を問う不朽の名作、私の原点ともいうべき名著、の感想文。

拙著『ゆるいまんげつ ショートショート』所収の一編です。

 わたしは二十代半ばに転職した。そこで社内イジメにあって悩んでいたときに、二歳上の先輩に薦められて読んだのがこれ。

 読後、先輩に感謝した。ああ、こんな腐った社会にも人間がいるのだなあ、とおもった。


 あらすじはこんな感じだ。

 

 第二次世界大戦下に鉱山技師として満州に派遣された主人公の(かじ)が、人間の尊厳について悩み、最後はおのれの信念を貫いて野垂れ死にする。

 

 特に印象に残ったのは、こんな場面だ。

 

 梶の勤める鉱山で、七人の反抗的な中国人労働者が刑場に引き出され、次々と首をはねられていく。梶はその蛮行を阻止したいのだが、なかなか勇気が湧いてこない。さあ行け! 動け! 何も考えるな! 動くだけだ! 踏み出すだけだ! 恐れるな! お前はこの山に何しに来た!

 三人目の中国人の首が地上にころがったとき、梶は遂に一歩を踏み出した。

「待て!」

 叫んで、飛び出すように進み出た。

「やめて頂く」

 はっきり云ったつもりだが、自分の声がまるで借りものとしか聞こえなかった。

「どけ! 出しゃばると貴様も叩っ斬るぞ」

 首切り役の憲兵が怒鳴りつける。

「それが恐くていままで動けなかった」

 その後騒ぎが大きくなることを恐れた現場責任者のひとことで、どうにか処刑は中止される。

 梶はこの騒動の責任を取らされて日本帝国軍に編入され、軍人として数々の理不尽を経験していく。


 話は前後するが、この処刑に先立ち、中国特殊工人(ほぼ捕虜)のインテリ(知識人)の王享立が梶に長い手記を渡す。

 そこには、中国人の現状や人間の尊厳などについて書かれてあった。十二ページほど。たいへん興味深い内容だがここでは割愛する。

 その手記を梶が読み終えた頃、王が梶に云う。

「日本の憲兵と梶さんの違いを、梶さん自身が意識しているなら、その違いを発展させるか、消滅させるかで、あんたの人間が決まるのではないだろうか? どちらを選ぶかは、あんたの随意だが。…………。人間のこういう種類の精神機能は、発展させることを怠ると、無駄に消滅してしまう。人間は誰でも二十歳前後には多少ともヒューマニストで、真理を愛するが、三十を越すと、たいてい実利を取るようになるし、四十を過ぎると、私利私欲だけに走るようになる。つまり、発展させることを怠るからだ」

 王はその後逃亡する。


 この本はわたしの原点だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 全く「感想」になっていません。 >ああ、こんな腐った社会にも人間がいるのだなあ、とおもった。 これは物語の設定を述べただけに過ぎません。ハリー・ポッターを読んで、「ああ、ハリーは魔法を使…
[一言] 以前より、田中さまの短編を拝読させていただき、ユーモアにあふれているのに、なぜこんなに温かくて心に染みるのだろうかと思っておりました。 この文を拝読して、惹きつけられる理由が少しわかったよう…
[良い点] 小説の要点を的確に示しています。ネタバレしないように、苦心されながら書かれているように感じられました。 簡潔な文体で、読みやすいですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ