深海旅行へいこう!
ある日のことです。
ぼくは潜水艦に乗って海の底にやってきました。潜水艦はこどものぼくと操縦役の機械のお姉さんが乗っています。お姉さんは一般的にはアンドロイドと呼ばれているみたいなのですが、こどものぼくにはよくわかりませんが、色々なことを知っているのでとても頼りになります。
今から数ヶ月前のことです。
街では深海旅行の話題がとても話題になっていました。懸賞に応募すると深海旅行が楽しめるという内容でペアチケットが一名様に当たるといって、海の底に興味を持った両親が家族みんなの名前を使って懸賞に応募したのです。そうしたら、ぼくの名前が書かれた懸賞はがきが見事に当選したのです。
深海旅行の当日、ぼくの名前が書かれたはがきを持って両親が深海旅行に行くのを見送るために家族みんなで集合場所まで行きました。
集合場所ではたくさんの人が集まっていて、テレビの取材や新聞記者、雑誌からラジオからなにやらであちこちにマイクを持っている人を見かけました。
その人たちを掻い潜るとやっと目的の場所まで来ることができました。
両親が当選はがきを見せると、周りから拍手の音が一斉に耳に入ってビリビリしました。
拍手が止むと、担当の人が潜水艦の説明を始めました。ぼくにはよくわからなかったけど、水族館では見れない不思議な生き物を見ることができるということはわかりました。あとは、潜水艦は特殊な作りで、艦尾から外の景色を眺めることができるように透明な素材でできているみたいです。
担当の人がこちらにやってくると、はがきを確認しました。
「はがきの名前の方はどなたでしょうか?」
両親が、この子です、とぼくを前に移動させました。
「このはがきの名前と同じ人物と付き添いという形でもう一人なのですが、お付きの方はどなたでしょうか?」
両親は顔を合わせて慌てていました。
「ぼくは行かないからこのはがきの名前をお父さんとお母さんの名前にしてくれませんか?」
ぼくは担当の人に言ったけど、首を横に振られてしまいました。
両親はどちらがぼくについて行くかで口論していたのが、ただの口喧嘩になっていて手がつけられない状態になっていました。
「じゃあ、ぼく一人で行くよ」
あたりから驚きの声が漏れたのがわかりました。まわりのことなど知らないかのように担当の人は、
「それではご案内いたします」
と言うと潜水艦まで案内してくれました。
「困ったことがあるといけないので人型のアンドロイドを備えておきました。何かあればそれに話しかけてください。食事などもアンドロイドが全て対応しますのでご心配なく」
そう言うと、ぼくの手を取って潜水艦の上部に登らせました。ぼくは中へ続くはしごに足をかけると外に向かって手を振りました。
「行ってきます」
そう言うと、潜水艦は動き出しました。
***
潜水艦の中は外からみたよりずっと広くて快適そうです。前方には潜水艦の進路を決めるものが揃っていて、操縦席や操縦ハンドル、深海の地図を映し出したモニターがあります。艦尾には説明にあったように海の中が見られるようになっていて、大きな魚や群れを成している小魚がたくさん泳いでいます。小さい部屋にはご飯や寝るところもあって生活に困ることはなさそうです。
担当の人が言っていたアンドロイドと呼ばれるものはなにかと探していると後ろから声をかけられました。
「こんちには」
少し話し方がぎこちないように思ったけど、優しそうなお姉さんがそこには立っていました。僕は笑顔で
「こんにちは」
と挨拶を返すと、少し口角をあげて頭をなでてくれました。
「わたしはここで潜水艦の操縦をしています。なにかわからないことがあればお気軽にお尋ねください。また、お腹がすいた時なども声をかけていただければ食事の用意もいたします」
ぼくには難しくてわからない言葉もあったけど、困ったときは助けてくれるってことはわかったから「ありがとう」とお姉さんに言いました。
「それでは深海の旅をお楽しみください」
とお姉さんは言うと操縦席に座ってハンドルを握りました。
ぼくは本当に深海に来たんだなぁと思いました。
ぼくはしばらく艦尾で外を覗いていました。底に行けば行くほど暗くて魚もほとんど見かけません。たまに、体の光ってる不思議な生き物のようなものを見るけど、うーん・・・、よくわからないなぁ。
お姉さんのところに行ってもいいのかわからないけど、この潜水艦の中にはぼくとお姉さんしかいないし・・・、よし、行ってみよう!
ぼくはお姉さんのところへ向かいました。
お姉さんは操縦席でモニターを見ながらハンドルを操作していました。
「ねえ、お姉さん」
と声をかけると
「どうかしましたか?」
と少し口角をあげてこちらを向いてくれました。さっきまでは怖い顔でモニターを睨みつけていたので安心しました。
「海の底に行けば行くほど暗くてお魚もいないし、外は何にも見えないよ・・・」
「そうですか・・・」
お姉さんは少し困った顔をしてしまいました。
「では、少しあかりをつけましょう」
と言うと艦尾から外を照らすあかりが点きました。
「わあ!お姉さんありがとう!」
ぼくは嬉しくなって、艦尾まで走って行きました。
お姉さんはその様子をみて微笑んでいました。
ぼくはさっそく外の景色を見ました。真っ暗だった時はなにも見えなかったけど、あかりが点くとそこには不思議な生き物がたくさんいました。ピンク色をしててタラコくちびるみたいな顔でこっちを向いてニコニコしてる変な魚とか、でっかいダンゴムシみたいな生き物とか、体が透明で足の動きとか血管の流れるのとかが見えちゃう生き物とか、たくさんの種類の変な生き物がいて楽しいって思いました。
ぼくは思わずお姉さんのところへ行って、
「ねえ!お姉さん!外すっごいよ!!変な生き物がたくさんいるよ!!一緒に見ようよ!!」
と興奮を隠せずに言いました。お姉さんは少しびっくりすると
「そうですね、ご飯を食べながら一緒に見ましょうか。今から調理しますね」
と言い、艦内の調理スペースに行きました。ぼくもお手伝いしたいと思ったのでお姉さんについていきました。
「なにか食べたいものはありますか?」
「カレーが食べたいです」
お姉さんに聞かれたので、頭に思い浮かんだものをすぐに答えました。
「わかりました。お皿とスプーンを出して少し外で待っていてください」
と言うのでぼくは素直にそのとおりにしました。
少しすると、
「お皿をください」
と声が聞こえたのでお皿とスプーンを持っていきました。
お姉さんはお皿にカレーをよそうと艦尾にいきました。ぼくもあとをついていきます。
ふたりで座って外の変な生き物をみて笑ったり驚いたりしながら楽しくカレーを食べました。とても美味しかったです。
それから、変な生き物があまりに珍しいので写真を撮りました。何枚も何枚も撮って、帰ったらみんなに自慢しようと思いました。
こんな感じではしゃいで疲れて眠りにつくという生活をぼくとお姉さんは続けていました。
飽きるということはなく、毎日がとても楽しかったです。
海の中とさよならする日が来ました。海の中の変な生き物たちともお別れです。ぼくは寂しいです。いつしか海の仲間たちと一緒に写真を撮ったり、僕が指示をすると魚たちが踊ってくれたり、仲良くなることができたのに、本当に残念です。
お姉さんも少し寂しそうな顔をしています。しかし、ぼくたちは水面に向かっていかないと、この潜水艦の中に水が入ってきてしまってここから出られなくなるというので、上へ向かうほかありません。
海の仲間たちにさよならをいうと、ぼくたちは水面に向かって少しずつ上がっていきました。
艦尾から外を覗いていると、だんだんと明るくなっていくのがわかります。もうすぐ海面に出てくるんだなぁと思うと少し懐かしい気持ちになりました。
***
視界がパァっと明るくなると海面に出てきました。長いような短いような時間だったけどとても楽しかったという充実した気持ちになりました。お姉さんと潜水艦にお礼を言って、艦内と外を繋ぐはしごを登って蓋をあけました。
顔を出すとそこにはたくさんの人がいて、ぼくたちを「おかえりなさい」と言っているようです。たくさんの拍手の中、ぼくは「ただいま」と言い手を振りました。お姉さんも続いて出てきます。
ぼくとお姉さんは迎えに来た小さなボートに乗りこみます。
だんだんと近づいていく陸地に心がわくわくしています。よくみると、家族がぼくに向かって手を振ってるのを見つけました。ぼくも手を振ります。
陸地に着くと、家族のところへ急いでいきました。お父さんとお母さんは仲直りしたみたいでぼくは安心です。ぼくをなでて「おかえりなさい」と優しく声をかけてくれました。お姉さんがくると、「ありがとうございました。お世話になりました」と挨拶をしています。
ぼくは撮った写真を担当の人のところに持っていく約束をしていたので、お姉さんとそっちへいきました。
担当の人は
「たくさん撮ったね」
というと写真を受け取り、頭をなでてくれました。
お姉さんとはここでお別れです。寂しいけど、今まで楽しかったことを伝えて「ありがとう!」と言うと、お姉さんも笑顔で「ありがとう」と言いました。
ぼくは家族のところへ行き、たくさんのできごとを話しました。
おしまい
最後までお読みいただきありがとうございました。
最近、海の中の不思議な生き物が脚光を浴びています。水族館でもよくイベントが催されているそうで、時間があれば行ってみたいなぁと思っております。そんな感じで今回この作品を書きました。
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