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 私は、クーデターの起きた共和制キルバレス本国での妻子の生死を心配しながら、当地で留まり続けた。可能であるならば、私自身自らが捜しに行きたい思いも強くあったが、そうはいかない。

 せめてもと、これまでに数度、信頼出来る部下をキルバレスへ派遣したが……。しかしそれらは二度と、戻って来ることはなかった。


 現在のキルバレス国境付近では、厳しい取り締まりが敷かれていると噂で耳にする。これまで手を尽くしたが、正確な首都キルバレス内の情報がまるで入って来ないのだ。

 きっと、それでに違いない! ああ、そうだ。間違いない!

 わたしは、そう信じていた。いや、そう思いたかったのだ……。



 ――それから更に、三年が経つ。



 《帝制キルバレス》勢力の軍勢が、この地へと攻めて来た。

 総勢二十万とされる我々の存在を、どうやら帝制キルバレス皇帝は『無視出来ない』と判断した模様だ。

 更に噂によると、我々が『精霊水を持ち帰らず、しかも独占しようとしている』などと首都キルバレス内では解釈され、揶揄(やゆ)されている、との話しだ。


 現場の状況もろくに調べもせず、また勝手な事を言ってくれたものだ。実に笑わせてくれる。


 私はこれ対し、グレイン技師が開発した《聖霊兵器》を用い、対抗した。

 帝制キルバレス軍は数ヶ月間の攻防でようやく撤退してくれた。


「これさえあれば……何とか(しの)げるな…」

 しかし、帝制キルバレス軍との攻防で疲弊した所へ。ワイゼル将軍の軍が侵攻してきた。

 私は《聖霊兵器》を用い、同じくこれに対抗した。が、ワイゼル軍もまたそれに同じく聖霊兵器を用いて対抗してくる。双方甚大な被害を出し、なんとか停戦には持ち込んだが。今度は再び、帝制キルバレス軍が攻めてきたのだ。


 どうやらここから近くにある属州国――恐らくは、沿海属州都アナハイト辺りからの派兵のようだ。

 となると……対キルバレス戦用の砦群を、更に建設する必要がある。金も人も……そして時すらも、相当に必要となってくるな。


 そうしたことが幾度と限りなく続いた。

 私はまた更に強固な砦を四方に築き、都市を作り、それを守るための城砦を建てそこに人を住まわせた。先住民である一部の者とも和解し、共存する道を選んだ。

 でなければ、男ばかりの我々軍に未来などなかったからだ。


「いつまでこれが続くのか……私はいつになれば帰れるのか……」

 見定めるにも難しい現状に、私は幾月幾年と思い悩み続け。月日は更に流れた……。


 そうして私はとうとう六十歳を過ぎ、今では王の座についている。しかしこのパーラースワートロームには依然として、あのワイゼル将軍が居り。彼も新たな国をこの地で建国していた。帝制キルバレス軍との攻防も未だに続き、戦争自体、あれ以来からこれまでずっと絶え間なく続いている。

 今では……この地の女性に産ませた子に王位を譲り、そろそろ隠居しようかと悩む日々。

 私はふと懐かしむかのようにペンダントを開き、今や色褪(いろあ)せた元妻ルナと幼い娘シャリルの写実画を見つめ、その表情はしかし穏やかなもので、そのまま静かにそれを閉めた。


 もう遠く……もはや帰れ()ぬ、思い出だ……。


 そして私はその玉座に座ったまま、隣に座る息子にこう告げた。

「ワシらは、ここへ来るべきでなかったのだ――」と。

 昔、女神がこの命を欲した時、それを受けてさえいれば。今とはまた違った運命が待ち受けていたのかも知れない。


 ……いや、女神はそれをこの私が受けないと察して、それを持ち掛けたのだ……それは分かっている。


 結果、ワイゼルと私は互いにせめぎ合うこととなり。キルバレス本国からは、クーデターを起こした軍から攻められ続けている。


 気がつけば……我々キルバレスの者同士が、血を流し続けている事態だ。

 女神の呪いがもしあるのだとするならば、まさにこの悪夢としか思えない『事態そのもの』なのだろう……。

 しかしそれは、言い逃れだろうな?

 我々の国が、このわたし自身が招き入れたものに他ならない。今となっては……全てが、虚しいばかりに思えている。


「父さん、父さん達年配の方々は。元々、この地の者ではなかったと聞いております」

「……ああ、その通りだ」

「しかし私たちは、この大地で産まれ。この地で育ちました。私たちはもう、《この大地の民》なのです!

ですから、前大戦で最大版図を築いた今こそ。統一王国として、今こそ確かな根をこの地に生やす為にも、王国建国を内外に宣言されては如何でしょうか?」

「この地と共に……《生きる》か……」


(ああ……もうワシは……帰れないのじゃなぁ…)


 とうの昔に、それは分かっていた。しかしそれを今、ようやく私は受け入れることが出来た気がするよ。

 ……いや、受け入れる他になかったのだ。この私に残された時間は、もう僅かなのだからな……。

 私はそれに対し徐に頷き、その息子の案に従うと、自ずからは病弱を理由に王の座から身を引いた。

 そうして、我が息子が初代王となった。

 ここに今、《パーラースワートローム王国》が誕生する。


 これが『パーラースワートローム歴』の始まりでもあった。


 王国誕生の祝いが盛大に催される最中、病床に伏せるベットの上で、私は横たわるその体の辺りに何か懐かしいような気配を感じた。

 私は最早、思うように動かない体を動かすことも出来ず。ただただ、瞳だけを静かに半分ほど開けた。


「これは……随分と、(なつ)かしいのぅ……」

 そこには……あの女神が宙に浮いた状態で静かに見下ろしていたのだ。

 あれから数十年と経った今でも、当時とまるで変わることのない女神の姿に。私は意外にも憎しみなどなく、寧ろ懐かしむ思いの方が強くその女神を虚ろに見上げ、そのようにポツリと零していたのだ。


『あなたは間もなく、この世を去ります。

その前に何か一つ、言い残したいことはありませんか?』


 ……それは、私が想像すらしなかった、かつては敵であった筈の女神が放つ慈悲とも取れる言葉だったのだ。




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