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 高々と(そび)え立つ霊山の(ふもと)に広がる聖なる大地パーラースワートローム。そこを流れる川の水を飲むと、人は誰しもが魔法を使え、不老不死にさえもなれるのだという……。


         ある者は、その水を求めて、旅をし。 

     ある者は、その水を求めて、人を騙し殺し奪い合う。  

    そしてある者は……その空しさを知り、悟りゆく──。    


 これは、そんなパーラースワートロームを舞台とした物語の一つである。


※微妙に先ほどまでの流れ(ストーリー雰囲気)を乱す様でアレですが、旧版の作品印象をそのまま残す意味でそのまま掲載させて頂きます。




 私は悩んでいた。この国を、どの様に攻め取ればよいのかと……。

 大国、共和制キルバレス軍二十万の総司令官であり大将軍として派遣され、早2年目。相手国は総人口三万、戦える兵力は精々五千人足らず。

 『負ける筈がない』誰しもがそう思い、疑う者など居なかった。しかし現実はどうだ……。

 この地は八千メートル級の山々に覆われた高冷地で、地平線の向こうにまで続く平原も標高差二千メートルの高台に位置する、その様な小国だ。


 初めは数万の兵力もあれば十分だろうと軽く考えていた。が、いざ会戦が始まるととてもこれでは足りないと直ぐに判断できた。いや、そもそもそういう次元の問題ではなかったのだ。


 数の上で論じれば、たかが五千人程度の軍勢が相手。我々、共和制キルバレス軍二十万の相手にもならない。誰しもが直ぐにそう思う。にもかかわらず、我々は二年間もの歳月を掛けても尚、攻め落とせずにいる。


 それというのも彼らは小国でありながらも、特異で不思議な《魔術》を使う者が多数に居て。更には、この地の《精霊》までもが、彼らの味方についていたからだ。

 いや、理由はそればかりではない。最大の理由は他にもある。


(魔術だけなら、対処方はある。だが精霊だけは――これを敵に回しては、この地を攻略する意味がない……)


 私はそのことを思う度に頭を抱えてしまう。

 対峙する精霊達は、全部で四体。表情という表情もなく霧の様に突如として現れ、我々の邪魔をする。実体が無いのか、全ての物理的攻撃がすり抜けてしまう。更に、《聖獣シルヴァーフ》という名の背丈六メートルもある毛の無き人狼の様な姿形をした白き獣を操り、我々を襲わせてくる。

 その白き獣は風を自在に操り、その風を盾または刃物のような武器に変える化け物だ。その[真空の刃]で大地をも切り裂かんばかりに攻撃してくる聖獣シルヴァーフに対し、我々はありとあらゆる兵器を使い対抗してきたがまるで通用しなかった。

 投石機はその石ごと撥ね除け。弓矢などその白き体にキズ一つ付けることすらできない。倒す術を考えこれまで色々と試してはみたのだが、結果としてムダに兵を失い指揮も下がる一方だ。

 しかもその白き獣の体の周りには、薄い青白き光が覆い、聖獣を更に堅く守っている。風の盾をかいくぐり抜け、ようやく届いた攻撃は、しかしその青白き光に触れた途端に消滅しまたは跳ね返す。

 まさに手に負えない相手で参る。

 それだけに勇猛果敢だった我々キルバレスの兵士らでさえも、為す術を失い。今となってはただただ怯え、あれが現れるだけでまるでそれが敗走の合図であるかの様に、途端に我先にと逃げ出す者が後を絶たないほどだ。


 これでは戦いにすらならない。

 ……とは言え、私は帰還する気など毛頭ないが。というよりも、上の者たちが撤退など受け入れてはくれないだろうというのが正直なところか?


 この大陸で南北八千キロにも及ぶ最大版図を誇る大国。事実上、世界最強たる共和制キルバレス軍二十万が、たかだか兵士五千人程度の小国相手に敗走など――あってはならない。この様な事実、許されることではなかった。ましてやこの私は困ったことにも、これまで無敗で戦い抜き共和制キルバレス国内で賞賛を一身に浴び続けてきた英雄の一人でもある。


 つまりは、共和制キルバレスとしては『これだけの兵力と人事を尽くした』という建前があるのだろう。

 あの首都キルバレスにある最高評議会が何一つ得るものも無くこのまま撤退など、認めるとは到底思えない。

 事実、私が幾らここでの悲惨な現状を可能な限り正確に報告しても返ってくる本国軍令部からの指示にまるで変わりは無い。


 《攻略に努めよ》


 実に片腹痛い芸の無い返事で毎回読む度に苦笑いしか出てこない。

 噂によれば、『フォスター大将軍の任を解くべきではないか?』という声が最高評議会内で出ているのだと聞く。現状の困難さも理解せず、簡単に言ってくれるものだよ。

 私が解任されれば、恐らく《この男》が次の大将軍となるのは目に見えて明らかだ。そうなれば、実に彼らしい強引な用兵戦術で無策に兵士達を無駄に死地へと追い立て向かわせるだけのことだろう。

 それを考えると尚更に、私がここで引くわけにはいかないのだ。


 これまでこの地で起きていた出来事を長々と思い耽り、私は改めて会議の場に列する二人の将軍や部隊長たる諸侯らに目を向けた。

 この軍団には、私以外にも二人の英雄将軍と称される両名がいる。《ワイゼル将軍》と《カスタトール将軍》だ。

 だが……、


(カスタトール将軍は、いざ知らず。《この男》など、ただ単に数に任せて攻め立てていただけのことだろうからな……)


 私は内心でそう思い、微かに呆れ顔で苦笑う。

「フォスター殿、なにかよい考えが浮かばれましたかな?」

 テーブルの右斜め前に座る締まりのない体つきをしたワイゼル将軍が、上官である筈のこの私に対し実にふてぶてしい態度と横柄な言い様でそう聞いてきたのだ。

 如何にも、『何か不満でもあるのかね?』とでも言いた気で尚更に呆れる。

 しかし私はそうした思いを胸に押し込み、溜息混じりにも落ち着いた口調で言う。

「……いや。ただ今になって、グレイン殿の言葉が急に思い出されましたもので」

 私はこれまで経験の中で培ってきた機転を利かし、ワイゼル将軍のそれを交わすことにした。

 別にこれを機に、言い争いをしても構わないのだが。現状が只でさえ悪いこの時期に、総指令官である自らが内紛を起こすのは、ただただ無用に自身の評判を悪くするだけのことだろう――と、そう判断したからだ。


「例の、〝この国は手に入れられても、精霊の加護は手に入れられぬ〟ですか? フォスター」

 私の隣で座るカスタトール将軍が、そう(そら)んじてくれたのだ。

 実にポイントを突いた言葉を受け、私は思わず微笑み頷いた。


 ――なんとも気になる言葉だ――

 事実、そう感じていたからだ。


「……ああ、その通りだ。カスタトール。流石に君も気付いていたか?」

「あのグレイン技師の言葉を裏付ける様なことが、こうも度々重なり続いてしまえば。この私だって流石に、ね」

 彼はそう言っていつものように明るい笑顔を見せ、次に肩を竦め見せている。それに対し、私も同じく肩を竦ませ困り顔ながらも笑顔で返した。


 カスタトール将軍は戦の采配を前線で行うことよりも、戦略・謀略に長け、実に知恵の回る男であった。今回もそうした彼カスタトール将軍の能力的特性から《参謀》という形で、フォスター大将軍――つまりこの私の補佐を務める役割を担ってくれいた。


 そして私もそんな彼の能力を素直に高く評価し認めている。

 カスタトール将軍が言う、グレイン技師の言葉とはこういう内容のものだった。そして時は、会戦が始まる前夜、二年も前にまで遡る――。



『いいかね。この国の民が扱う不思議で特異な《聖霊の力》は、精霊達の力が宿る《精霊水》にこそ秘密がある。だとすれば、だ。彼らと戦うのは実に愚かな行為である、とそうは思わんかね? フォスター将軍。君らキルバレスの者が欲しがる《精霊水》に力を与えているのが、この地の精霊達だとすれば、だ。その精霊達の機嫌を損ねて、それでも彼女たちの協力を得られると本気で思えるのかね?

それは実に、愚かな見識というモノだよ……。

つまりだ。例え武力でこの国は手に入れられても、もしかすると《精霊水》の力は、その後――』

『手に入らない――消えてなくなる、と言いたいのですか? グレイン技師』

『いや……それについては実をいうとこの私も、未だ結論には至っていない所なのでね。ハッキリと言い切れるものではない。

しかし少なくとも、これだけならば言える』

『それは?』

『我々は、彼らに……いや、《彼女ら》には恐らく勝てんよ。

まあこれは私の単なる、直感というモノだがね』

『……』

 グレイン技師は最後に肩を竦めながら困り顔で苦笑い、そう答えてくれた。



 その時の会談の場には、私の他にカスタトール将軍参謀やワイゼル将軍も居た。他に数人の副官も同席していた。この時の話などそれから二年も経った今となっては、軍内部で知らない者など居ないほど有名事実なエピソードとなっている。そして現状、困ったことにグレイン技師が予言した通りの展開となっていた。


 グレイン技師は元々、我々と同胞であり共和制キルバレスの《科学者会》に所属する元老の一人であった。しかしその時点での彼グレイン技師は、この地の民と共に我々《共和制キルバレス》に対し敵対することを決め行動を起こしている裏切り者であり、謀反人。

 そうであったが為、彼の言葉をそのまま鵜呑み出来るような場の雰囲気ではなかった。少なくともその当時は。

 しかし今となってあの時のグレイン技師の言葉は、全てを正直に我々に伝えていたのではないか? 次第に軍内部で多くの者がその様に囁き噂話を始めている。


 この件についてやはり、そろそろ再検証を行う必要がありそうだ。

 私は改めてそう思い、思案顔のまま各将軍や諸侯の様子を覗った。どうやら今のカスタトール将軍参謀の言葉に対し、多少なりと興味を示している者が少なからず居る。


 どうやらいい機会が生まれたのかもしれない。

 彼カスタトールには、感謝しなければならなそうだな。が、


「ふ……ふあっはっはっはっは!

何を言うか、実にくだらん。馬鹿馬鹿しい限りだわ! 気にすることは何もあるまい! そもそも既に精霊達との戦いは始まっておる。今更どうにもなるまい?

そもそも精霊の加護だあ……? ハン☆ そんなもんは、単なる戯言だ。ハナから期待などしとらんよっ! 

ガアーッハッハッハー!!」


(この……単細胞め!)


 折角高まり始めていたこの場の雰囲気が、この男の一言によって一気に興ざめてしまった。

 私は呆れ顔と軽蔑めいた表情をワイゼル将軍に対して向け、口を開きかける。

「ワイゼル将軍はもしや、お忘れですか? 我々がこの国へ来た、本来の目的を」

 普段から冷静なカスタトール参謀が、今まさに言おうとしたこの私よりも先にやや毒づいた言葉使いでワイゼル将軍に対し言い放っていたのだ。彼にしては珍しい光景に、この場に集まる諸侯や副官らが驚いた表情と同時に、一触即発になるのではないか?と心配に思う緊張の面持ちを見せている。

 私はそれらの様子を眺め、やはり同じ様にカスタトールを心配顔に見つめた。


 これは彼カスタトールの今後の立場を心配してのことだ。

 しかしそんな私の心配など無用とばかりに、当のカスタトールの方はそんな私のことを見つめ返し、肩を竦め見せ、瞬間だけ『大丈夫だから安心をしろ』と笑顔まで浮かべている。 


 どうやら彼には彼なりに、何か考えがあるらしい。そんな彼の様子を見て、私もどうにも安心感から笑顔に変わる。


 一方、それを受けたワイゼル将軍の方は、実に分かり易い不機嫌顔を見せていた。顔を真っ赤に染め、おおよそ怒り心頭といったところかな、あれは? 

「──ぬ!? 

『この国の民のみが使える、魔道の《秘密》と《力》を手に入れる』ことであろう……? バカにするなあッ! わかっとるわ! カスタトール!!」

「ああ、それならば話が早い。つまりはその為にも、《精霊達を敵に回してはならない》ということについても御理解・御協力頂けるということでよろしいですね? ワイゼル将軍」

「ン? それは一体どういう意味だ? カスタトール将軍。言いたいことがあるのなら、もっと分かり易くハッキリと伝え願いたい!」


 この男……本気か? まさかあのグレイン技師の言葉を、もうすっかり忘れているのか?


 見ると、流石のカスタトールもこれには溜息をつき、肩を竦め呆れ顔を見せ、やれやれといった表情を浮かべている。 

 おいおい、言うだけ言っておいてこのまま放置するつもりかぁ?


 私は仕方なく、彼カスタトールに代わり口を開くことにする。

「ならばこの私が改めて説明させて頂きます。

……この国、特有の《魔導の秘密》。それは、科学者であるグレイン技師の調査研究により『この地にのみ流れる《精霊水》にこそ秘密がある』と解明されたことを……これについては既に御存知ですね?」

「らしいな? で、なんだ? その事とコレはどの様な繋がりがある!?」

「いや、どの様も何も……これまで一度も不思議に思ったことはないのですか?」

「不思議……? 何のことだ」

 ワイゼル将軍は、どうやらこれから私が説明しようとしている話の意図がまるで理解出来ずに居る。それで苛立ちを露わにし、精神的圧力をこちらへ加え、この私からその回答を引き出し得ようとしている。呆れた男だ。

 わからないならわからないで素直に聞けば済むものを……。

 実に子供じみた高慢・高圧的は態度だ。その都度、自分の評価を下げていることすら彼は気付いていないのだろうか。

 やれやれ……流石のこの私も、自然と眉間に(しわ)が寄り不快感が極限に達する。

 ここは一戦、口論というのも一興かぁ?


 そう思った矢先、

「まぁまあ……お二人共。ここは落ち着いて!」

 見ると、火種を最初に作ったカスタトールの奴がやれやれ顔に溜息をふうと吐いている。

 おいおい、ワイゼルに対してならまだ解るが。この私に対して、そりゃあないだろう? 


「ワイゼル将軍。僭越ながら、フォスター大将軍の先ほどの言葉について私の方から説明させて頂きますよ。

《精霊の加護》つまり――この国を武力などで強引に手に入れようものなら。精霊水の力……(すなわ)ち、精霊の加護を受けた『魔道の源そのもの』が失われ兼ねない――……と、言う事です。

更に言えば、我々の目的である《魔道の秘密》と《力》が手に入らなくなる。

フォスター将軍、これで当たっていますか?」

「ああ、当たりだ」


 経緯はともかく、カスタトールは上手いこと噛み砕き教えてやっていた。これで判らなければ、もう手の施しようもない。


 幸いにも、流石にそこまでワイゼル将軍も馬鹿ではなかった。

「ではなんだ!? 精霊達と戦えば、精霊水は、ただのつまらぬ『単なる水』になるとでもいいたいのか!?」

「そうなる可能性がある――ということです。ワイゼル将軍。

事実、奴らが扱っていた同じ《聖霊兵器》を我らが使おうとすると。ただの玩具に変わる。それの説明は、それで付きます。お解りか?」

 私は真剣な表情でワイゼルに対しそう言った。

 そんな私の隣でカスタトールは頷き、そこで一言だけポツリと零す。

「今になって、グレイン技師の命が惜しまれますね……」

「き――貴様は、なにが言いたい?」

 カスタトールの残念がるその一言に対し、ワイゼル将軍の方は途端に不愉快な表情で反応したのだ。

 それを受けるカスタトールの方は、実に冷めた表情だ。これは実にカスタトールらしい対応だな。

 が、それでワイゼルの方は尚更に苛立ち怒りを顕わにしていた。


 ホラきた。この男はどうも自分が気に喰わないことがあると、いつもこの手に出る。ワイゼル将軍のこういう所も好感の持てないところだ。何事にも強引で身勝手で話し合いというものをまるで知らない。相手の話しも半分しか聞かず、自分に利無きことにはまるで耳を傾けようとしない。後は自分の感情で全て動く。しかも問題があれば、直ぐに言い逃れる。高圧的にものを言い、そうして相手を黙らせ、誤魔化そうとさえする。今のもまさに、それだ。

 それはそうだろう。なにせ、そのグレイン技師の命を奪ったのは他でもない、ワイゼル将軍。アナタだからな。この後の言い訳が自然と思い浮かびそうで、それだけでも腹がたつ。


「あれは裏切り者だ! 当然の処置だッた!! 解明した魔道の力から、我々キルバレスに対抗し得る強力な新兵器まで開発し使用するなど、到底許される行為ではないわあ――ッ!!」

 ガン☆と机を叩きつけ、ワイゼルは吠えていた。


 ほうら……思った通りだ。予想通りの言い訳をしてきたよ。

 彼が言う通り……グレイン技師は、キルバレスに対抗すべく《聖霊兵器》という新たなモノを開発し。更には、それを国境に数体配備し。それまで戦争のやり方すらも知らずに生きてきたこの地の人々に、戦争のやり方を仕込んだ。

 これは間違いのない、裏切り行為なのは確かだろう。

 が、裏切り者である筈のグレイン技師は、軍団統括であり大将軍であったこの私を単身で訪れ。講和を持ちかけて来たのだ。

 ……戦争にならぬように、と。礼を尽くしてな。


 私としても、利少無き戦争は望まないし。キルバレス本国の《科学者会》が、この私に求めたのはあくまでも『この国の民のみが使える、魔道の《秘密》と《力》を手に入れる』それのみであった。


 更に、科学者グレイン技師が解明し作り上げた新兵器やその技術を手に入れられることは。決して、損な話しではない。故に、講和の中身次第では、実に望む所だったのだ。


 が、ワイゼル将軍はそれをまるで解さず。愚かにも一時的な感情に任せ走りグレイン技師を部下に捕らえさせ、相手の話もろくに聞かず自らの手で斬り捨てた!

 この事件が、相手国との戦争を決定付けたのは紛れも無い事実だ。しかも困ったことに、精霊達を怒らせると精霊水が『ただの水に変わる』恐れすら出ていた。


 これでは、戦い勝ち取る意味がまるで無い。力も抜ける思いだよ……。

 それにだ、兵の苦労を考えれば。無駄な『労』と『死』という二つの犠牲を与えておいて、報われる『利』が少ないでは申し訳がたたない。


 が、ワイゼル将軍はそもそもそういう意味・理屈などを必要としない御仁らしい……。何かと精神論を唱え、精神論だけで兵士らに無理を強いる様子も多く、それが私には鼻につく。それでいて自らは、問題があれば同じ精神論を盾に言い訳をするだけの話しで。無理とムダが多過ぎる。

 これでは彼に従う兵士たちも堪ったものではないだろう。可愛そうだ。

 その問題が自分自身の責任、または損な問題にならなければ、問題にならないとでも思ってるんじゃないのかぁ? 

 私にはそう思えてならない。

 兵士たちの長たる将軍の資質に、些か欠けるのではないか? 少なくとも私なら、こんな男の下で働きたいと思わない。


「な~に、勝てば良いのだッ!! さすれば、精霊等も我々の言うことを聞くに決まっておるわッ!」


 (愚かな……聞く訳、無いだろう――!)

 もはや呆れる他なかった。

 やはり口論にすらならない相手だ。疲れるだけ損というものか。しかし、


 (不思議なのは……グレイン技師のほどの御方を、何がそのように駆り立たせたのかだ……)


 共和制キルバレスに於いての、科学者である彼グレインの地位は決して低くはなかった。キルバレスの最高評議会議員に対し、意見を申し述べる位の権限を有していたからだ。


 元々、共和制キルバレスは、科学者カルロスを中心とした彼らが育て造り上げた国と言っても過言ではなかった。それ故に、科学者の地位。それも、その代表的立場の一角を担う彼には、特別な権限が与えられていた。


 その彼が何故、キルバレスを……裏切る必要があったのだ?


 この私には、『腑に落ちない』というそんな思いがどうもこの時、根深く感じられていた。






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