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本作品は、リメーク版+旧版となります。
前回掲載時のものと内容は特に変更ありませんが、カルロスとの絡みを考え、今回は再掲載させて頂くことに致しました。
「ほぅ……ここかね? 噂のパーラースワートロームというのは」
「ええ、この者が申すにはどうやらその様です。グレイン技師」
「ふむ……しかしここは、噂以上かもしれんなぁ……」
グレインと呼ばれた老練な男の眼前は初め、濃い霧が視界を遮って何一つみえなかったが。間もなく一気に晴れ渡り、標高八千メートル級の山々に囲まれ広がる緑豊かな大地が地平線の向こうまで見渡せるようになっていった。
そして……何よりも驚くことに、黄金色の輝きを見せる人間離れした一人の美しき女性が、笑顔のまま宙に浮いた状態で優しげにこちらを見つめていたのである。
長い間、伝説とされていた聖なる大地パーラースワートローム。
しかしこの地へとある大国の旅団が訪れたことにより、その位置が特定され。長きに渡り伝説とされていたこの大地は、これをもってそうした伝説としての歴史に終焉を迎えることになる。
そしてこの発見は、グレインと呼ばれた老練な男にとって幸運であると同時に、不幸な人生への始まりでもあった――。
それから数ヶ月後のこと……。
この地から南西へ千キロ程離れた位置にある《沿海都市国家アナハイト》旧・王宮内にて、
「おめでとうございます! フォスター大将軍」
「見事な大勝利でした!」
二十万という大軍勢から一斉に喝采を受ける、三十代半ばを過ぎた一人の男が居た。
彼の名は、カリエン・ロイフォート・フォスター。
この大陸で南北八千キロもの版図を治める超大国、《共和制キルバレス》でも人気を博す英雄将軍の一人であった。
彼は、攻め取ったアナハイトの旧・王宮殿三階のベランダにて、感極まる大軍勢へ向け軽く手を掲げ感謝の意を示したあと、数十名が列する王宮殿内へと戻り、その場の諸侯に対しても感謝の表情を見せ、口を開く。
「ああ、ありがとう。しかし全ては皆の協力による結果です」
「ハハ。いやいや、それは謙遜というものでしょう。フォスター大将軍。いや、総督府閣下」
「全くです! 同時に内部謀略を行い、アナハイト側を混乱させ。しかもあの見事なまでの戦術と采配、恐れ入ります。
お陰で我々は思いの外、楽が出来ました」
最後の一人がそう言ったあと、各諸侯や副官は思わず一同に吹き出し笑みが零れ、人によっては失笑し場は和む。が、
「うおっほん!」
多くの諸侯や副官がそうやって彼の功績を讃える中、一人だけ不快気な表情を見せる男が居た。
ワイゼル将軍である。
「その様な事より、このアナハイトからパーラースワートロームへの進軍はいつ頃から始めるおつもりか、お聞かせ願いたい」
「……」
フォスターは、ワイゼル将軍からの言葉に思わず顔を顰めそうになる。
が、直ぐに思いとどまり、軽く息を吸い呼吸を整えてから口を開く。
「今しばらくの間は、このアナハイトの治安維持が最優先課題とお思い頂きたい。
ワイゼル将軍。
パーラースワートロームへの侵攻は、このアナハイトの治安状況次第ということで……」
「馬鹿な、悠長過ぎるわ!
彼の地の場所が特定されてから、もう半年以上にもなるのですぞ。仮に他国から攻め取られていたら、何とするか!
彼の地の者が扱うあのおぞましき『魔道の力』その力をこちらに向けられた際の被害、尋常ではないわ!
当然、その責任は取ってくれるのでしょうなぁ? フォスター大将軍殿」
「……」
フォスターはこの時、微かに笑みを浮かべてはいたが、内心では呆れていた。
仮に他国から先に攻め取られその力をこちらに向けられたとしても、我々が早々に攻め込みその力を直接向けられたとしても、その受ける被害にそう変わりは無いだろうに、と。
この男は一体、なにを言いたいのか?
フォスターはワイゼル将軍を呆れ顔に見つめる。そして同時に、
これは……何かあるな。
と彼の中の何かがそう察し、囁いていた。
「とにかく! たかが治安維持如きに二十万もの兵は過剰。先に先遣隊として三万の兵をもって攻め入るが、異存は御座いませんな?」
異存はある、が……それを言ったところで聞く男ではないか、とフォスターは諦め顔に頷く。
彼ワイゼル・スワート将軍の伯父は、共和制キルバレスの評議会議員である。それも強大な影響力を持つ議員だ。ワイゼル将軍は、その伯父が持つ権力を背景にフォスターとそう変わりない年齢にして、将軍にまで昇り詰めたといっても過言ではない経歴の持ち主だ。
これに逆らうのは例え総督に任命されたフォスターであっても、簡単なことではない。
彼の伯父が持つ力をもってすれば、フォスターの今の地位を取り上げることなど、造作もないことだろうからだ。
「……好きにしろ」
もっとも、本当に好きにされては堪ったものではないがな。
フォスターは内心でそう思う。
が、こうした言い方により、暗に『許可はするが、責任を持つ気は無い』という意味を同時に含ませておいた。
同席していた他の諸侯や副官も、その意味に当然ながら気が付きざわめき始めていたが。当のワイゼル将軍はそんなことなどまるで気にした様子もなく、実に満足げにこの場を自分の配下数名の者達と共に離席していく――。
◇ ◇ ◇




