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短編集

桃城市立東豊高校帰宅部活動日誌

作者: 山石 悠

どうも、山石悠です。


……うん。なんか、書いちゃったよ。すごくくだらない感じのこと。

『教科書忘れ』『テスト中の消しゴム落とし(しかし、気づかれない)』『将棋擬人化』『無駄に長いタイトル』の次は、『帰宅』だからね。

長谷川君のシリーズじゃなくて、くだらないシリーズでもまとめたくなるよね。


……ってことで、ただ家に帰る様子を書いてみました。『帰宅部員』視点で。

お楽しみいただければ、幸いです。

「そのプリント、来週までに提出な。ちゃんと、保護者の印鑑もらってこいよ」


 担任はそう言った。もう、終礼も終わりそうだ。俺は、放課後の開始とともに始まる部活に備えて、スタートウォッチを取り出した。


「んじゃ、終礼終わりな。日直」

「きりーつ」


 俺が入ってる部活は、日本全国に存在している有名な部活だ。しかし、それを正式な部活と認めている学校は、ほとんど存在しない。


「礼」


 おっと、危ない。話し過ぎた。俺は、カバンを掴んで次の言葉をクラスメイトと共に発した。


「さようなら」


 カチッ、とストップウォッチのボタンを押して、教室を飛び出す。もう、部活は始まっている。

 下駄箱のところまでは走ると、部活の先輩である桐野遼河先輩がいた。


「おう、光井! 今日は『速さ』重視か?」

「はい。過去新出してやりますよ!」

「頑張れよ!」

「先輩こそ。充実した帰宅を!」

「だな。後輩には負けねえよ」


 信じていただけるか分からないが、靴を出したりといった動作をしながら会話は行われた。

 俺は、心の中で「知り合いと会話……5ポイント」とつぶやく。


 ここまでで、俺の部活が何か、察する人は察しているはずだ。


 ……そう。俺の入っている部活。それは、『帰宅部』だ。


 帰宅部とは言っても、ただの部活動未加入者の通称というわけではない。俺たちの高校には、正式な部活として帰宅部が存在する。ちなみに、部員6名。俺は、その帰宅部の一年生だ。


 帰宅部の部活動内容を説明しよう。帰宅部の活動。それは、家に帰ることだ。だが、ただ帰るだけではない。帰宅における二つのポイント『速さ』と『充実さ』。この二つが重要視される。

 まず、『速さ』。これは、純粋に帰宅速度を表す。このポイントが速度なのは、学校から家までの距離や交通の利便さに差があるからだ。『速さ』は帰宅経路と帰宅時間の二つを割ることによって算出される。……まあ、小学生でもできる『距離÷時間=速さ』の計算ということだ。

そして、『充実さ』。こちらは、帰宅までの充実度を表している。誰と帰った。何をした。そんな、帰宅がどれほど楽しいものだったかを表しているのだ。こちらは、ポイントを稼ぎやすいが運要素がからんでくるという、ギャンブル性にとんだものだ。

 と、俺達帰宅部員は、この二つを細かくポイントに変換してその日の帰宅の総合評価『帰宅得点』を決定するのだ。

 と、細々と説明したが、校門を出たところに、ちょうどいい具体例がいるので、説明したいと思う。


「あ、錦織先輩!」

「……光井か」


 彼は、錦織仁司先輩。自宅が学校から徒歩五分という、『速さ』重視の人だ。彼は、三つの帰宅ルートを持っていて、その時の日時によって最も早いルートを決定する。理論型の『速さ』重視者だ。

 そして、もう片方の例。それこそが、下駄箱であった桐野先輩。彼は隣り街に住んでいて、電車で四十五分の位置に住んでいる。つまり、典型的な『充実さ』重視の人間だ。


「先輩、今日のルートは?」

「三番だ。本当は二番がいいんだが、工事中でな」

「なるほど……」

「っと、もう信号が青になる。すまん、もう行くぞ」

「あ、はい。お気をつけて」

「ああ」


 そういったところで、信号が青に変わる。先輩は一気に加速して信号を渡り、道の向こうに消えていった。


「さて、俺も帰りますか……」


 俺の家は、自転車で十五分。帰りがけには、シャッターの下りる気配がない桃城中央商店街を通るため、『速さ』と『充実さ』。どちらを取ることもできる状況にあるのだ。入部して二か月。いまだにどちらを選ぶか悩んでいる。だから、基本を『速さ』にして、状況を見て『充実さ』を選ぶようにしている毎日だ。

 軽快にチャリを飛ばす俺は、チラチラと辺りを見回す。ここらで、誰かと一緒に帰ったりするとポイントが付くんだけど……って、


「俺、真っ先に出たんじゃん」


 いつも忘れてしまう。帰宅部は、学校を真っ先に出る。つまり、先に帰っている奴はほぼいないということに。中学校の頃はいつも遅かったから、その時の癖が抜けないのだ。やはり、当初の予定通り『速さ』重視で学校に行くことになりそうだ。


「さて、少し飛ばすか」


 サドルから腰を浮かせて立ち漕ぎをする。チャリの速度が上がり、体にあたる風が少しました。そんな感じでしばらく走っていると、学校から十分の距離にある桃城中央商店街についた。

 この商店街は、明治維新や戦争を乗り越えてきた歴史の長い商店街だ。その、長い歴史を重ねてきたこの商店街は、いまだに衰えるところを知らず、シャッターが下りている店がない。この前は、腰を痛めた小枝子婆さんの店『菱田小物店』がしばらく休んでいたが、もう元気になったようで小枝子婆さんの楽しい笑い声が聞こえてくる。


「へい、翔太!」

「へい、ジョージ!」


 商店街の酒屋『西倉酒造』にやってきたアメリカ人のジョージが声をかけてきた。……申し遅れたが、俺の名前は光井翔太だ。


「今日はひとりかい?」

「ああ、一人だよ」


 チャリを止めて話をする。『速さ』も大切だが、こういうところでポイントを稼いでおきたいのだ。それに、ジョージとの話は面白い。


「翔太、彼女はいないのか?」

「いないって。そういう、ジョージこそ、彼女の一人や二人、できたんじゃない?」

「いないいない。拙者、愛しているのはお酒だけだからね」


 なぜかジョージの一人称は、拙者だ。これで、ござる、なんていえばキャラが確立するのだろうが、そんなことはなく普通にしゃべる。


「って、翔太。今日も部活だったもんね。邪魔して悪かったよ」

「いいって。ジョージ見てると、楽しいからな」

「そう言ってくれると、助かります!」


 ジョージ的、日本人が愛する性質『気遣い』を表した言葉だ。俺は、決め台詞を吐いてドヤ顔をしているジョージを見て笑う。


「じゃあ、俺行くな。西倉のおっちゃんに叱られないうちにな」

「そりゃそうだ」


 手を振ってジョージと別れる。また、一気に加速して商店街を駆け抜ける。この商店街には、帰宅部用の自転車専用通路が存在する。帰宅部は、その間でなら全力で飛ばしてもいいのだ。この通路は、六年前に造られたらしいが、詳しいことは知らない。


 商店街を抜けると、桃城市ホームレス連合第三部隊の砦がある。この桃城市では、ホームレス達が組織を作っている。それこそが、桃城市ホームレス連合だ。第五部隊まであるらしいそれは、この桃城市の治安維持に努めている。

 特に、第三部隊は警察の特殊部隊を上回る能力を発揮するらしく、刑事をやっている俺の叔父さんは、「あいつらのせいで、俺達の仕事が減る」とか言ってたのを覚えている。……と、チラチラと眺めていたら、第三部隊のリーダーであり、大企業『Leaf of Blue』の社長をしている青葉さんがいた。なぜ、大企業の社長がホームレスをしているのかは知らない。


「青葉さん!」

「ん? みっつーじゃん!」


 調子の軽い青葉さんは、俺に手を振ってくれた。すぐに、俺も振りかえす。すると、奥から燕尾服を着た青年……暁さんと、なぜか児童養護施設ではなくホームレス連合にいる小学生、アキラ君がいた。その手にあるのは、『量子論』と書かれた本。……本当に、この人達は何者なんだろうか?


「リーダー。何してるんですか? お嬢様が来てるんです。さ、これからの運営についてのお話が……」

「まってー! ちょっと、浩太! お嬢様って、玲奈さんでしょ! あんな空間にいたら、浩太と玲奈さんの空気に、ぎゃああああああ!!!!」


 暁さんは、流れるような動作で青葉さんの意識を刈り取ると、段ボールハウスの中へと引きずり込んでいった。そして、それを見ている俺とアキラ君は顔を見合わせて苦笑した。


「すみません、変なところ見せて」

「いいよ、気にしないで」

「本当にすみません。……って、そうだ。光井さん」

「何? どうかした?」

「えっと、『全自動帰宅ルート演算システム』……異常、ないですか?」

「ああ、大丈夫。見つかったバグも、ちゃんと消えてたし」

「そうですか」


 『全自動帰宅ルート演算システム』。通称『お家帰るん』は、帰宅部の必須アイテムだ。帰宅ルートをGPSによって計算し、『速さ』に関する様々なデータを算出してくれる。そのおかげで、俺達は充実した帰宅を送れている。そして、そのシステムを組んだメンバーの一人が、このアキラ君だ。


「また、いつでも来てください。ロックさんが『ジョージばっかりずるいデース!』と言ってましたから。来なかったら『こめかみに一撃ぶち込みマース!』だそうです」

「アハハ……分かったよ」


 某国の軍隊で天才狙撃主として名をはせていたらしい、ロックさんからの伝言を聞いて、無意識に姿勢が正される。さすがに、狙撃は冗談だろう……たぶん、きっと。


 背中に、大量の冷や汗が流れるのを感じながら再びチャリを漕ぎ出す。なぜか、誰かに狙われているような錯覚にとらわれるが、気のせいだ。これはあくまでも、錯覚でしかない!


 俺は、錯覚を振り切るようにしてチャリを漕いで行く。そして、ホームレス連合が見えなくなったところまで来て、右折する。


「もうチョイ」


 家が見えてきた。どこにでもあるような、二階建ての家。ポケットからストップウォッチを取り出して、家に滑り込んだ瞬間にボタンを押した。

 六法全書や広辞苑よりも分厚い『全国帰宅部ルール全集』にのっとると、帰宅というのは自分の住んでいる家の敷地に入るまでが帰宅ということになるらしい。他にも、『充実さ』に関する内容のポイント配分もすべてここに記されている。


「ただいまー」


 チャリを止めて自分の部屋に行く。そして、すぐにラインと帰るんを起動した。ラインのほうは、部活での結果報告として利用される。ラインができる前は、チャットを使ったり、昼休みに集合していたらしい。……昼休みじゃなくて、本当に良かったと思ってる。


 俺が部活のグループを開くと、すでに帰宅の結果が乗せられていた。俺は、自分の報告の前にそちらを確認する。まずは、錦織先輩からだ。


「うわっ! 6000点!?」


 正確には、6072点。帰宅得点の相場は5000点前後なので、この点数はかなりすごい。あの数分の間に『充実さ』も稼げるだけ稼いだらしく、その点も大きいようだ。先輩も、新記録を樹立したことを喜んでいる。他にも、同じ学年の部員の結果が乗せられている。今回は、友達と一緒に帰ったことで『充実さ』のポイントをかなり稼いだらしい。結果は、5462点。寄り道をしないで帰ったのは、『速さ』の方にもいい影響があったみたいだ。


「じゃ、俺も報告しますかね」


 今日の、帰り道のことを事細かに思い出しつつ、俺はポイントの計算を始めた。



 よく、帰宅部に入る意味を聞かれる。帰宅するだけの部活に意味はない、と。だが、それは違う、と俺は言いたい。



 帰宅。それはただの移動でしかない。だが、少し視点をずらすだけで、その日々はとっても大切な何かに見えてくる。俺にとっては、高々十数分。長くても三十分くらいしかないその時間は、短いものであるからこそ、濃密な思い出を生み出すことができるものだと思う。



 俺は、帰宅部だ。いかに速く、いかに楽しく帰宅するか。それが、高校生になったばかりの俺が選んだ、ありきたりなくせに珍しい青春だ。

あー…………ね。まず、最初に言わせて。僕の話に、オチはない。いや、なきゃだめだと思うんだけどね、日々落とせなくなっているよ! なんてこった!

無駄に説明描写が多いのも勘弁して。短編のくせして、世界観が広がりすぎただけなんだ!


……うん、まあ、なんだ? あの、帰宅部を、正式な部活にしたら、こんな感じだと思う。反応よかったら、大会とか出てみたいよね(多分、無理)。


ってことで、このくらいにしておくよ。なんか、キャラ違くね? って思う人。正解だ。今の僕は、何かがおかしい。


それでは、次回があるのかないのか知らないけど、あったらまた会いましょう。


See you next time!

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