キミに想い寄せていた、あの頃の記憶。
これも、ケータイ小説から。
「おはよう」
って、キミに言葉を紡ぐことさえも勇気が必要で。
その勇気を捻出することすら、多大なるエネルギーを消費する。
「おう、オハヨー!」
笑顔で返される毎朝、私の心は、爆発寸前。
「うわっ!?危ねっ」
キミの背中と偶然にも肩が触れてしまった時でさえ、体は凝固。
そんな自分に気がつくことすら、難しいほどのハプニング。
「ごめんなっ」
「……大丈夫?」
見えなくなったキミの背中に、ポツリと呟くの。
引っ込み思案だとか、内気だとか。
地味だとか。
そんな私の評価は、キミには指標にならなくて。
「なあ、消しゴム余分に持ってない?」
私を品定めするのは、キミは自身。
「あ、あるよっ」
「かしてくれ」
キミの手のひらに消しゴムをのせた私の指先はきっと、震えていたと思うのよ。
いぶかしそうなキミの顔を、今だって覚えてる。
そんなキミと、私の妹が、本日めでたく新たなスタート地点に寄り添って並んでいる。
純白のドレスに身を包んだ、泣き虫の彼女をどうかよろしく。
笑えるまでになった軌跡を振り返り、隣の斜め右を見上げれば、強くなった私の肩をポンと激励してくれた友人。
拍子に、ポロリと何かが零れ落ちた。
周囲から注がれる、おめでとうのシャワーが、最後の灯も消し去って。
祝福の涙が心を洗い流してくれる。
優しい風と、優しかったキミと、唯一無二の妹と。
広く澄んだ青空を見上げて、幸せで、泣き笑いになった5月の結婚式。
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