再生する日
壊されて、分解された後には。
感情が残されてはいなかった。
カラッポ。
ある種の秩序。
かき集めても、客観的かつ投げやりな思考。
「泣かないの?」
「泣いたら返ってくんのか、私の純潔」
ソファーを背中に、フローリングに座る私を冬馬が上から見下ろした。
まだ熱がくすぶった、その視線だけは受け止め切れず、むき出しの自分の体を隠すようにしてうずくまる。
ああ、リセットしたいな。
私の五年間。
どうか、返してあげて。
消えてしまえたらいいのに。
「出来たって、返さない」
「アンタのせいで、人生灰色」
どうすればいい?
「悪かったな」
なによ、ソレ。
悪かったな。って。
悪びれる様子もないじゃない。
死ねよ、クズ。
アンタのせいで、私。
「堕ちっぱなしじゃない」
「ならさ」
不意に、オトガイを掴まれた。
ひんやりと心地良い体温差。
頬伝いに感じる熱は、もしかして私の?
「真帆」
「……っ」
こっち見んなっ。
言葉にしかけたら、身動きを奪われて。
弾道ミサイルのごとき容赦ない爆撃にさらされた。
「堕ちてこいよ」
「オレんとこ」
「……っ」
どんな顔して言ってるか、自覚がある?
「堕ちてこい」
真っ白に。
被爆したの。
「……と、冬馬だって。堕ち方、中途半端なのよっ」
「それなら、トコトン一緒に堕ちればいい」
絶対に、狂ってる。
こんなヤツと一緒になったら、不幸になるって決まってる。
「……」
決まってるのに。
ああ、腐ったのか私。
縦に、顎を引いた。
頷いた私を、膝の間に引っぱり込むロクデナシ。
ザラついた感触に、深く埋もれて。
ソファーの上に。
塞がれた呼吸。
囚われた肌の熱。
深部を殴打された、私の肉体と精神。
「……捕まえた」
「もう、逃げんなよ」
ツン。
途切れた電子音。
暗転。
そして、常識世界からのフェードアウト。




