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ガラクタ。  作者: ゆ~の
ホワイト・ノイズ
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ホワイト・ノイズ



「……おはよう」



視界の端に映り込む。

白いTシャツ。

揺れる喉仏。

浮き出た、無骨な血管。


ドクン、と跳ねた私の心臓。


目の前にいる人物を悟って。

全身直下。

強張って。

凍りついた。



アア、サムイ!!



「と、ま……」



ああ。



「風邪引くぞ?」



青ざめる。

これ以上、青ざめるところなんて。

残されてないのに。



ねえ、着地したのはいつ?



沈み心地。

ザラつく表面。

深く溺れながら、力尽くの圧倒的存在感で汚されたこの場所は。



「離せっ」



デジャヴ。

ううん、既視。



「嫌だ」



見上げれば、アイツの顔と真っ白の天井と。

合意なんてなかった。

今回だってそう。

いいよ、だなんて意思表示。

匂わせてすらいなかったよ。



それなのに。

それなのに。

それなのに……っ!?



「ど、け……っ」



ぎらついた眼差しで、私を見下ろすアイツの顔が、目頭の熱とともに歪む。

一滴、頬に伝い落ちた涙が合図になって、嗚咽が漏れた。



不変に同じ。


まるで、再生録画ボタンを押したみたい。



「真帆」



名前を呼ぶ声が、起爆剤になって感情を掻き回す。

手首を捕まれたまま、拘束されて。

額に唇を押しつけられて。

死にたくなった。




「……ヤ、だぁ」



痛い。

熱い。

身体も心も全部。

全部が狂ってる。


どうして?

なんで、また?



ドウシテヨ!?



死んでしまえばいいのに。

死んでくれっ!!

どうか死ね!!



壊れたスピーカーみたいにエコーがかかった、脳裏で再生される、憤怒と理性。



瓦礫の下に埋もれた、憐れなトーキードール。

やっぱり無残な痛みに耐えて、今回もただ鳴くだけ、なのね。



「……愛してる」


「死ね」


「おかえりって言って」


「……イ、ヤ!!」


「言えよっ」


「イヤー……っ…ぁアッ」



なんだろう。

なんなんだろう。

末期だ。

末期。



世紀末?



「頼むから」


「死ンデ、よ?」


「ムリ」


「最低……っン、ァア?!」



イタイイタイイタイイタイ。イタイイタイイタイイタイ。イタイイタイイタイ。



イタイ!!



「オレ、死にたくねえなあ。生きる」


「……自己中……っ!?ぁぁあっ」


「知らなかったのか?真帆」


「ヘン、タ…イ!!」


「それは否定しない」



鮮やかに笑う。



戦慄。

襲い来る戦慄の嵐。



溺れてたまるか。

流されてたまるか。


ねえ、冬馬。



冬馬。




トウマ。





トーマ。






とーまぁ。







ナンデ、コンナコトスルノ?












「ダカラ……ナンデワカンネエンカナ。スキダカラダロ!!」



「ウ、ソつ……きッ」



バカみたい。

バカみたいバカみたい。

バカみたいバカみたいバカみたい。



バカみたい!!



結局、また抉じ開けられて。

引きずり出されて。

どさくさに紛れて、今度は会話までしてる。


睨み合って。

まるで見つめ合って。

未だに、繋がったまま。



「……真帆」


「呼ぶ、な…ァ」



アンタの掠れた声が耳障りなの。

呼吸も、汗も、全部全部っ。

癪に障るのよっ。



「前ん時は、オレんちだったよな」


「クズ」


「アノ日から、またやり直そうよ」


「ハン」



やり直そう?

ヤリ直そう?

なにをだよ?


フザケンナァアア!!



「アノ時、アノママ捕まえておけば良かった」


「離れ、ろ……、ッ!?」


「……逃がさない」


「異、常者!!」



そうだ、私だって異常だ。

真っ昼間にソファーの上で。

獣みたいに、喘いでる。



「真帆ももうすぐ二十歳だな」


「オッサン」


「そうでもないよ。ほら」


「……ッヒ!?」



セカンドバージン。



失ったのは、初めてから五年が経った同じ季節。







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