騒音ノイローゼ
「また、来る」って言葉が吐き出されて。
震撼した。
“また”って言葉の持つ意味を、理解するのが怖かった。
ならば、繰り返されてしまうのかなって。
足が竦んだの。
だから、講義が終わると一目散に帰宅する。
毎日、正門裏門、東西門と、出口を無作為に変えては、往来を一気に駆け抜けて。
そうでもしなければ、不安の襲来に気が触れてしまいそうだった。
もしも、待ち伏せなんてされていたら?
自意識過剰だっていう?
それもいいかな。
家に着けば、共働きの両親に代わって浪人生の由太がいる。
あの子は私を裏切らない。
優しい子。
「筑井さん」
「あ、はい」
西門を潜り抜けようとして、呼び止められてしまった。
「来週の学科コンパ。まだ返事もらってないの筑井さんだけでさ」
「あ、そっか。欠席。ごめんね……」
「……残念」
確か、西原とか西崎とか、そんな名前の同級生。
「それじゃ」
「あっ、待って」
「!?」
危うく、悲鳴が音になりかけた。
それとなく、一歩を退き肩を引く。
すると、彼は宙に浮いた右手をポケットに突っ込んで、スマホ電話が、目の前に突き出される。
「その、筑井さんと連絡が取れる子……あんまりいないから」
「うん」
「アドレスでも番号でもいいんだけどね」
「…あの…持ってないの」
「は?」
「私、持ってないんだ。ケータイ」
唖然としてる。
そんな反応をされてしまうことには慣れっこなのよ。
でもね、持ってないわ。
「……え、冗談?」
「自宅のでいいかな」
唇で数字を並べると、慌てた彼が、筋張った指先で画面を撫でた。
「……筑井さんてさ、もしかしてお嬢様とか?」
「まさか」
そんな大層なもんか。
なら尚更、ケータイなんて持ってるし。
ヘンな人。
イヤミ、だったとか?
「じゃあ、今回は残念だったけど、次回は参加して。待ってる」
「……ん、ありがとう」
ちょっと、いい人だな。
なんて思う。
思うからって、信用するわけじゃないけど。
だってもう、男の人に裏切られるのはごめんだもの。
裏切り方が、卑怯すぎて。
*




