第一章-①
エルスの町は、最近ちょっぴり慌ただしい。
だんだんと気温が上がっていき、日照時間が長くなっていく。暦が切り替わり、夏に差し掛かっているのだ。大陸は広大だが、このユナ王国は一年を通して気候が比較的安定していて、作物の実りもよい。
道端の水路を流れる水は、朝日にきらきらと光っている。この町に落ち着いてから、もうしばらく経つが――と言っても、半年もまだだけれど――めくるめく自然の美しさは、今まで自分が通り過ぎてきたどの場所にも引けを取らないだろうと、ロロは思っていた。
「よう、おはようさん」
「おはようございます」
道々、通り過ぎる人たちの顔もだんだん覚えてきて、また、覚えられてきた。今では自分は旅人ではない。立派に、エルスの住人として認められ始めているのだろうかと思うと、少し嬉しかった。こうして人間たちの間にとけこんで暮らすのは、悪い気分ではない。
「ああ、ロロくん。おはよう」
道の向こうから、赤毛の馬が蹄を鳴らして馬車を引く。彼は、普段は野菜や麦を店で売っているアオバという男だった。遠く、エルスの町のはずれ、北のストラト連邦との国境となる山のふもとに広大な畑を持っていて、そこから毎日馬車で新鮮な野菜を持ってくる。30歳で、家族はいない。
ところが、野菜売りの彼が今日は珍しいものを荷馬車に乗せている。
「それは……花ですか?」
「ああ。知り合いの畑によって、持ってきたんだよ」
赤い花弁のやわらかそうなもの。白い、流線型の槍のようなもの。青や紫の小さなはなびらがかわいらしいもの。色とりどりの花が、荷台にいっぱいに積まれていた。
なんだか微笑ましい気分になる。これだけ多くの花があると、まるで祭りでも開かれる様だ。
「もしかして、食用かなにかですか」
「いやあ、そんなんじゃないよ。毒でもないけどね。観賞用なんだ」
そう言ってアオバは、あわい空色の花弁を持つ花をひとさし握って、ロロに手渡した。
「これなんか、言い値がつくよ。エルスのはずれのあたりでしか育たない珍しい品種なんだって」
「へえ……」
手に取ってみると、確かに美しい花弁だ。少し湿っぽく、そして眠気をここちよく覚ましてくれそうな仄かな香りがある。
「特別だから、それ、一本だけあげよう」
「えっ、悪いですよ」
「いいさ。今度、こいつの蹄鉄でもリィナちゃんに作ってもらうから、それでおあいこってことにしよう」
アオバは気前よく馬を歩かせて、去っていった。
ロロの手には、青いきれいな花だけが残された。自分は天使だけれど、花の生け方なんて知らない。
「あとで、レムさんにでも頼んで生けてもらおう」
ロロは朝の鐘が鳴ったばかりの教会の扉を叩き、中にゆっくりと入っていった。
「あら、ロロさん。おはようございます」
銀髪のシスター、ラウルにロロは軽く礼をひとつ。
「今朝もお勤め、ご苦労様です」
「こう見えてもシスターですからね。今日は忙しいですから、あまりおもてなし出来ませんよ」
「すみませんね」
ロロはただ、暇をつぶしに来ただけなのだ。慌ただしく奥へ引っ込んでいくラウルを見て帰ろうかとも思ったが、彼女がすぐにお茶を持ってきてくれたのを見て帰るに帰れず、中に入り込んで本でも読もうと決めた。
分厚い本を開くと、奥の客間からのっそりと現れたのは、見覚えのない人間だった。ひとりはのっそりと背の高い肌の黒く焼けた男で、もうひとりはまだ小さい少女だった。ロロと目が合うと、男のほうが顎髭を撫でながら一礼した。ロロもそれに倣って、一礼する。
「アンタもこの町の人間かい」
男の声は鉄を真っ黒に焦がしたような野太く低く、不思議な反響をする声色だった。ロロはこういう人間には何度かあったことがある。
「ええ、まあ、そんなものです。あなたはもしかして、旅の行商でしょうか」
「まあ、そんなもんだ」
傍らの小さな女の子はロロから隠れるようにしておっかなお辞儀をすると、ラウルのいる奥の方へ駆けていく。男はロロの近く、テーブルを挟むようにして座った。
「ここから北のストラト連邦から、荷馬車で旅をしてきたんだ」
「あの女の子は?」
「娘だよ。嫁さんが出ていっちまったんで、一緒に旅をしてる。まあ、こんな仕事だからな」
行商人はどの国、どの地域に行っても、必ず何人かいる。
国をまたいで、それぞれの特産物を別の国に売り、それでもうけを出している。ストラト連邦は、北の広大な山脈に囲まれた軍事大国だ。
「鉄鋼ですか?」
男は驚いて目を見開いた。
「よく分かるな」
「肌と、声の焼け具合で。鉄鋼を扱う行商は、すべからく鍛屋の技能も持っているものです」
旅をしていると、こういう知識が身につくものだ。ロロも身をもって知っている。
例えば、金塊を扱う行商人がいるとする。金塊をその塊のまま売るのか、宝石や硬貨に加工して売るのか。専門的な知識のない人間からすれば、後者のほうがよっぽどありがたい。その上、そうした技能は行商とは関係ない、副業としても役に立つ。行商人とはあるひとつの物事を極めた専門家のようなものだ。
「ま、ボロい商売だよ。宿に泊まる金もないんで、こうして教会の世話になってるくらいにはな」
へへ、と照れくさそうに男は笑った。
「この町に教会があって助かった。また旅を続けられるよ」
すると、奥から小さな女の子が現れた。手にはパンのたくさん入った紙袋が抱えられている。連れ立って現れたラウルが、微笑みながらいう。
「二日分くらいの足しにしかなりませんが、お持ちください」
「すみません、助かります」
「いえ。あなた方の、旅の無事をお祈りしています」
それから何度も礼を言いながら、親子の行商はふたたび旅路についた。
「最近は少し、旅のお方が多いですから大変ですわ」
ラウルの頬は少し上気している。彼女が窓を開け放つと、眩しい日光が中に差し込んできた。ロロは残ったお茶を飲み干すと、ラウルがふう、と一息つくのを見ていた。
「確かに、最近町が少し、慌ただしい感じがしますね。通りに人も多いし、行商の方もよく通ります」
「そうですね。そろそろ『花祭り』の時期ですから」
「花祭り?」
そういえば、町中では花を飾っているお店や家が多かった気がする。
「年に一度、エルスの町に国中からたくさんのお花が集まるんです。祭り、なんていいますけど、大きな競り市なんですよ」
「競り市。花の?」
「観賞用から食用、除虫、芳香、薬用……ひとことに花と言っても、いろいろな効能がありますから。このエルスの町は気候も穏やかですし、ソレイユやほかの国からの花も流れてくるんですよ」
それで、アオバも花を運んでいたわけだ。祭りでもあるのか、と思ったが、ほんとうに祭りがあるらしい。
「というのにもですね、深い由来があるんですよ」
ラウルは得意げに胸を張って、しかし、シスターらしく厳粛な口調で語り始める。
「昔、それは美しい騎士がいたそうです。その騎士は、長い銀色の髪を結わえて、大きな盾と、長い槍を武器に戦場を駆け回ったそうです。どんな激しい戦場にあっても、その騎士は汚れひとつなく帰ってきた、と言われています。自分も傷つくことなく、また、誰も傷つけずに、勝利だけを持ち帰ってきた――よほどの戦上手だったんですね」
「ふむふむ」
「ただ、その騎士には大きな秘密があったんです」
ラウルはそこで一呼吸おいて、
「その騎士は、実は女性だったのです。身分を隠して、男として振る舞っていたんですよ」
「……ん? でも、女性の騎士は珍しいものではないですよね?」
「ええ、それは昔からそうです。しかし、その騎士には許嫁がいたんですよ。それも、セイル家の娘にあたる人物でした。彼女は、王家の娘に一目ぼれされて、無理やりに結婚を取り付けられてしまったんです」
よくある悲恋の物語だ、とロロは思った。似たような話は、とりわけソレイユの方ではよく聞かれた。しかし、そういう話に限って続きが気になってしまうもの。
「それで、どうなったんでしょう」
「王家との婚姻ですからね。戦で名を上げていたとはいえ、ひとりの騎士でしかない彼女には断ることが出来ませんでした。そこで、彼女は寂れた村をひとつ開拓して、花でいっぱいに埋め尽くし、それを王家の娘に贈ったのだそうです。娘はそれを大層気に入って、そこに自分の邸宅をつくりました。しかし、その騎士はそれきり、行方をくらませてしまったのだそうです。彼女に会うことなく、ただ『この一面の花と、国の勝利を貴女に捧ぐ』という手紙を残して。そこから、その騎士の名前は伝承に登場しなくなります」
「なるほど」
「その、小さな村というのが、今になって、エルスと呼ばれるようになった、というお話です。真偽のほどはともかくとして――その騎士にあやかって、年に一度、エルスの町を花でいっぱいにしようというんですよ」
ロロは、ふところにしまっておいた青い花に思いをはせる。
「もうじき、エルスの町に、花が一杯になるということですね。それで、旅の人が多いと?」
「ええ。でも、それだけじゃないんですよ」
ラウルはそこで、少しだけ厳しい目つきになっていった。
「近く、王都のほうから『親衛隊』の遠征があるそうなんです。東のほうの小国と、国交を開くためだとか。エルスの町は、その通り道なんですよ」
「親衛隊?」
「王都に駐屯する、騎士団の中でも折り紙つきの精鋭たちです。今ごろ、ハルカさんたちも大慌てですよ。祭りと、遠征とで、今年はいつにもまして忙しくなりそうです」
それで、鉄鋼を扱う行商が通ってきたらしい。武器・防具のたぐいをそろえる必要があるのだろう。
「なるほど。そういうことだったんですね」
「え?」
それは、ロロがここにいる理由でもある。ラウルの話を聞いて合点がいった。
「リィナさんもレムさんも、朝からバタバタしてるんですよ。大きな仕事があるみたいで、僕は邪魔にならないようにこうしてふらふらしてるんです」
「なるほど、そうだったんですか」
はい、と頷くと、ラウルは意地悪く言った。
「私だって、暇じゃないんですけどね?」
「ご、ごめんなさい」
「教会は確かに、どんな人にも門を開いています。けれど、あんまり長く居座られても困りますよ? 救われるのは、信じる者だけなんですから」
ロロはますます肩をすくめて、返す言葉をなくしてしまった。
しかし、そこは優しいシスター・ラウルだ。ロロに反省の色を見て取ったのか、
「だから、お部屋の掃除を手伝ってください。朝食くらいは出してあげましょう」
という、ありがたいひと言で許してくれたのだった。
○
「さぁ、さぁ、リィナ。まだまだ忙しいよ~」
朝からレムと一緒に、リィナは地下の工房にこもりっぱなしだ。すっかり擦り切れてしまった魔法陣をもう一度書き直し、その度に生じるズレを修正していく。リィナは結い上げた髪から滴る汗を、手拭いでふき取った。
「こんなに忙しいのは、久しぶりです」
「はい、次! 男性用鎧が五十、女性用が三十ね。あと、馬上槍が二十五!」
レムはてきぱきと『注文』を読み上げながら、それを組み立てるのに最適な魔法陣を構築していく。リィナはそれをさらに精緻に調整して、武器を錬成していくのだ。
しかし、かれこれ寝ずに十数時間。
「お、お師匠様。そろそろ食事にしませんか?」
「だ~め。わたしのお腹が減ってないのに、弟子がご飯をねだるんじゃないの。働く!」
「ぐぬぬ……」
ひどい理屈だが、確かに、悠長にやっている時間はない。急を要する仕事にもこたえるのが、武器職人としてのつとめ。
その大きな仕事が舞い込んできたのは、つい先日のこと……
王都から、『親衛隊』の旅団がこのエルスの町を通過する。そんな話が飛びこんできたのだった。
そして、そういう話が武器職人の家にくるということは、つまり――
「よろしくね、リィナ! 今まで以上にたくさん作ってもらうことになるけど」
ハルカの押し付けた依頼表に、リィナは目を疑った。
「桁が一つ多くないですか!?」
「そりゃあ、王都からの旅団だもん。それに、うちからも十何人かはそっちに合流させるようにっていう話があったからさ。道々の武器職人たちに、依頼は分散させてるみたいだけど、なにせ大陸の端っこまでいく大遠征だから、それなりにたくさん必要なんだよ」
リィナはため息をつくこともできない。これだけの数を、たったの数日で仕上げるなどと、自分とレムのふたりが寝ずに働き続けても、できるかどうか難しい。
「それと……これは、あくまでウワサなんだけどさ」ハルカはさらに不穏なことを続けた。「その、親衛隊を率いている人が、リィナに……っていうか、レムさんに用事があるみたいなんだ」
「用事……親衛隊の方がですか? この、小さな町の武器職人に?」
「うん。レムさんの名前は、それなりに通ってるでしょ?」
確かにそうだ。レムは実際、国じゅうでも五本の指に入るほどの、腕利きの武器職人だ。もちろん、その名前は王都でも通っているだろう。リィナはそんな凄腕の弟子として、いつも誇らしい気分でいる。しかし、わざわざ親衛隊の騎士が、そこまでしてレムを捜し求める理由とはなんなのか?
王都には、それこそ親衛隊を相手に商売するような、素晴らしい腕前の武器職人がいるだろう。彼らは身の回りに、不便はしないということだ。
「まあ、あくまでウワサだから、気にしないで」
「そ、そうですね。それより!」
リィナはふたたび、頭を抱えることになった。
「これは……しばらく、地下から出てこれなさそうですね。もうすぐ『花祭り』もあるというのに……」
「その辺は、私がなんとかするよ。私は旅団にはついて行かないからね」
ハルカは頼もしく胸を張ってくれた。
「お店は取りあえず臨時休業ってことにして、リィナが地下にこもってる間のことは任せて。いろいろ対応しておくからさ。お祭りの準備にも、時間を見て参加するよ」
「助かります……さすがハルカ!」
しかし、ハルカの言葉は、自分が地下から出てこられないということも意味していた。
あれから何日経ったのか。
最後に食事をとったのはいつだったか。
「ほ~ら、リィナ! ぼさっとしないの」
「は、はい~……」
もう身体に残った魔力も底をつき始めている。ここらでいったん休憩をしないと、いい加減失神しそうではある。しかし、残った仕事も山積み。今日の日付すら、あいまいになりそうだ。
「お、お願いします。弟子が死んでしまいますから、食事を……」
「む~しょうがないなあ。はい」
レムは懐から、なにやら四角く、黒っぽいものをリィナに手渡した。
「な、なんですか、これは?」
かたいパンのような手触りと匂いだ。レムは作業の手を止めずに、作業用の上着の袖をまくる。
「それは『機能方』っていう、東のほうの非常食。むか~し、作り方をならったことがあるんだ。こんなこともあろうかと作っておいたんだよぉ~」
「た、食べられるんですか?」
「食べたくないなら食べなくていいよ!」
「食べます!」
食べてみると、表面は柔らかいのに、嚙みきれない。パンを、何十倍何百倍にも圧縮したような歯触りだ。そして、味はまったくしない。
「もともとは兵士の非常食、兵糧だったらしいんだけど、ここもある意味戦場だからねえ~。ひとつ食べると、お腹の中で水を吸って膨れ上がる。三日分の栄養を摂取できるらしいよぉ」
「ほんとうですか?」
そんな風には感じられない。
「さ、食べたらもう一度! 頑張ろう頑張ろう、あとちょっとだよ~」
「は、はい~」
へろへろになりながら、リィナはレムが新しく書き直した陣と、その上にどっさりおかれた鋼材をみてどっと汗を拭き出しながら、しかし気配りだけは忘れずに魔力を込め続けた。たとえ疲れていても、お腹が減っていても、一歩間違えれば命にかかわるのだ。
目の前の鋼材は、魔法陣のそれぞれ五つの頂点とその中央に配置されている。リィナが魔力を陣に流し込むと、それぞれ金属が変形していく。五つの頂点は、それぞれ頭すなわち兜、両手、両足に変わっていく。中心にどっさりおかれたそれは、胴体部分に。これは鎧を作っていく上での特殊な工程だ。それぞれ独立した五つの陣を、ひとつの円でぐるりと結び、一気に作るのだ。手間は確かに省けるものの、魔力の加減には細心の注意を払う。
「出来ました」
「はいよ~」
そして、そうして作られたパーツは独立しているので、最後にレムがそれを仕上げていくのだ。大量に積まれたなめし革を裏に仕付けて、ただの金属であるそれを、着用するための「鎧」に変えていく。
しかし、もう何十回と繰り返したその作業でも、
「リィナ、形が歪んでるよ! これは駄目だねえ~。もう一回」
「は、はいい~……」
疲れがたまっているのか、それとも凡ミスか、こういうことも増えてきた。
「リィナがこんなにへばるのは、珍しいねえ。でも頑張れ、わたしも頑張るから!」
「うう~……」
そうしてへろへろになりながら、それでも夕暮れ前になんとか作業を終えられたということは、どうやらあの非常食はだいぶ効果があるらしい。今度作り方を教えてもらおうと思いつつも、リィナは気を失って眠ってしまった。
○
次の日の朝。
山のように積まれた剣、槍、馬具、鎧、その他もろもろ。それらを騎士団の男衆が荷台でごろごろ引っ張っていく。
「今回も質の良いものを、ありがとうございます」
「なんとか間に合いました……」
「無茶な注文とは分かっていたのですが……この町では、あなた達に頼るものしかないものですからね」
若い騎士が頭を下げるも、リィナはいえいえ、と首を振る。これくらいは慣れっこだ。
「また、よろしくお願いします」
そう言って、若い騎士もまた、鎧の積まれた荷台を引っ張っていった。
「さて……」
リィナが町を見回すと、――どうやら相当長い時間、自分は地下にこもっていたのだということを思い知った。ずいぶんと様変わりしていたのだ。
石畳と木造りのあたたかい雰囲気の町は、家々の玄関先に色とりどりの花が飾られ、普段は野菜を売る店も、その店先には様々な花が並んでいる。『花祭り』のはじまりが近いのだ。
初めてこの町に来た時、リィナはまだ小さかった。レムは毎年リィナに花を何差しか買ってくれて、丁寧に生けてくれたものだ。この歳になっても、花を見ると心が躍る。
そして、今年からは、またひとつ心がときめくことがあるのだった。それは、とても気恥ずかしくて他人には決して言えないが――
「リィナさん、おはようございます」
店先の荷物を片付けていると、教会の方から歩いて来たロロがひとこと、短くあいさつした。
「おはようございます、ロロさん」
リィナの声は、思わずして弾んでしまう。
「ごめんなさい、家から追い出すような形になってしまって」
「いえいえ。お仕事、大変ですね」
ロロの服はすっかり、この町らしいものになった。黒いローブは旅人のもの。この家に新しい家族が出来て少し経つが、今でも新鮮な気持ちでいる。
「ずっとラウルさんにこき使われてましたよ。教会の掃除から食事、旅の方の案内に、荷馬車のエサやりまで……あれを全部ひとりでなさっているなんて、凄いですねえ」
「ご、ごめんなさい……」
リィナは謝るしかない。
今までこの家に住んでいたのは、武器職人ふたりだけだったから、仕事と生活はきちんと分けていられたが、ロロはそうではない。半ば追い出すような真似にしてしまっていたのを、リィナはひそかに気にしていた。
けれど、ロロは笑って、紅い目を細めて言った。
「聞きましたよ。なんでも、そろそろお祭りがあるとか」
「ええ。もしよければ、一緒に回りましょう。案内しますよ」
リィナが言うと、ロロもうなずいた。
「よろしくお願いしますね、リィナさん」




