”好き”ってよくわかんねぇ
【注意】
DESTINY本編をお読みの方へ。
現時点で第三章以降のネタバレを含みます、ご注意ください。
暫くして、その彼女は五個も年上の彼氏が出来た。全然俺と似ていないと思ったけど、トモハルいわく。
「自惚れ高くて、目つきの悪いところがそっくり。あと、性格が捻じ曲がってる気がする」
……なんだとよ。
「……くん、実君! 聞いてる?」
「あ、あぁ、わりぃ」
貴美恵の声に現実に引き戻された、そうだった、俺の初恋のあの子はもう居ない。
「ね、明日の日曜日何処行く?」
「んー、何処でもいいけど、あんま金ないからなー。どっか行きたいとこでもあるわけ?」
「……実君、私の事、本当に好き?」
溜息を吐いた、女はどうしてこうも『好き』を言わせたがるんだ。
「あぁ、好きだけど」
俺はそう返した。告白されたら、その子と付き合う、でも、同時は懲りたからもうしない。二股は絶対にかけない、って、決めた。
けれどもまあ、返答が気に食わなかったんだろう、貴美恵は怒って一人で帰った。
……女、面倒だ。好きだって言ったろ、今。
面倒だけど、何故か彼女は作るんだよな、俺。寂しいのかな。
え、何この話、まだ続くって?
……面倒だ。とりあえず、続くってよ。はいはい、続きね。続き、話す話す。
『今日から親、旅行でいないんだ。うち、来る?』
と、貴美恵からのメールが授業中に来た。唐突だな、おぃ。
ともあれ、その日は一旦家に帰ってなんかまぁ、色々と”色々と”支度をして貴美恵の家に行く事に。夕飯も作ってくれるってよ、いいね、流石手芸部、家庭的だ。
トモハルと部活後並んで門を出ようとしたら、妙に門が騒がしい。隣で悲鳴を上げて、トモハルはそこへ突っ込んだ。
「駄目じゃないか! 危ないから家にいないと」
「だって、暇だもん」
解っていたから別に驚かないけど、そこには俺の元カノの双子の妹が立っていた。マビル、っていう名前だ。手にトリプルアイスクリーム、二つ。周囲の男に買ってもらったんだろう、安易に想像できる。
「ええい、お前ら、散れ、散れ!」
トモハルは必死で群がっている男達を追い払い、マビルの頭を軽く撫でている。
「食べる? 買ってもらったの」
「そんなアイスばっか食べたらお腹壊すだろ……。一個貰う」
「だって、六種類食べたくて。これでも頑張って選んだんだから」
「じゃあ、一緒に少しずつ食べようね」
過保護、万歳。トモハルは俺に嬉しそうに手を振ると、手招きしている。
深い溜息を大げさに吐きつつ、眉間に皺を寄せて俺は歩み寄った、嫌なんだよ、この二人。
「で、なんでここにいるわけ?」
俺の問いにマビルはアイスを嘗めながら、俺には目もくれずに返答。
「トモハル。おば様達が町内の寄り合いで飲み会だから、ご飯一緒に食べてきなさいって。お金貰ったの」
「そういうことか……。何が食べたい?」
「パスタ」
「ん。というわけで、ミノル。またなー……一緒に喰うか?」
この二人と食べていたら、消化不良を起しそうだったので、丁重に遠慮しておく。
トモハル、異常に過保護なんだよな。気持ちは、解らんでもないが。
二人は仲良さそうに手を繋いで、そのまま消えていった。周囲の男達がそろそろ俺に尋問を始めるだろうな、と思ってたら案の定だ。
「あの子、誰?」
いい加減、聞きなれた質問。
「トモハルの家に住んでる子」
「ど、同棲!? なんて羨ましい!」
俺はマビルの性格とか好きじゃないが、容姿だけならピカイチだから、気持ちは解らんでもない。横目で騒いでいる男達を見ながら、爆弾でも、一つ。
「同じ部屋で、同じベッドで、手を繋いで眠ってんよ。あいつら」
別に何もないみたいだけど、な。絶叫の中、俺は帰宅。忙しいんだ。
着替えとか”色々”用意して、行きのコンビニで菓子とかも買って貴美恵の家へ。玄関を開けると、途端に良い香りが鼻へと流れ込んできた。
「いらっしゃい!」
エプロン姿で出迎えてくれた貴美恵に、思わず後退した、想像以上に、可愛かったから。顔が赤くなる、目をそらす。軽く会釈。
右往左往している俺の手を引いて、キッチンへと案内してくれた。すでに夕飯は出来上がっていた、驚いた、本格的な和食だ。
てっきり、カレーとか定番のものだと思ったのに。
「前、和食が好きって言ってたから」
はにかんだ笑顔、こういうのは嬉しい。手を洗って席に着けば、暖かい味噌汁にご飯が出てきた。蕪のひき肉あんかけに、出汁巻き卵か、悪くない。
何より、一生懸命作ってくれたことが嬉しかった。お代わりしたら、喜んでくれたが、美味しいから当然だ。
……あの元カノも、料理が上手だった。俺の為に作ってくれたクッキーは、食べてあげられなくてトモハルが食べたんだったか。しんみりしてきたので、軽く頭を振る。
二人でテレビを見ながら、買ってきた菓子をつまむ。家にあったビールも拝借した、ワインも焼酎も日本酒もあったが二人ともビール。
未成年とか言わない、そこ。明日は学校も休みだし、夜中まで愉しむ。
朝方、隣で眠っている貴美恵に布団をかけた。軽く伸び、流石に裸で外に居られる程暖かい空気じゃねぇから、布団に再び潜りこんで瞳を閉じる。
布団の中で、手を繋いでみた。特に何も感じない、当然か。
出会ってまだ三ヶ月程度、相手は俺を知っていても俺は知らなかった。
トモハルみたいに相手と四六時中一緒に居るわけでもないし、知らないことのほうが多い。
まぁ、一緒に居ろと言われても今は無理だぞ……そこまで居たいとは思えないから。
それでも、俺を好きだと言ってくれたから、懸命に喜ばせようとしてくれるから。応えてやりたいと、思う。
好きになれたらいいなと、思う。好きだと口で言うけれど、彼女だから”好き”なんだろうけれど。
「好き、か」
天井を見つめて思い出すのは、あの日のことだ。小六の時の彼女の、事だ。
「い、一緒にプール行かないか?」
照れて、どもりながら俺が言ったら、一瞬驚いて硬直していた、その後直ぐに綺麗な歯を見せて笑ってくれた。
「行く!」
大きく頷いてくれた、で、その後。
「ミノルは、甘いものあんまり好きじゃないよね」
「良く知ってるな」
「甘さ控え目のクッキーなら、食べてもらえる?」
「控え目じゃなくても、食べるよ」
「ふぇ?」
「お前が俺に作ってくれたなら、な、何でも食べるって言ってんの! 当たり前だろ、嬉しいんだから」
手にしていたペットボトルを、彼女は落としそうになったから思わず受け止めた。顔を真っ赤にして口をパクパクしていたから、可愛くて可愛くて。
手から零れ落ちたペットボトルを、そっと手の中に戻そうとしたら手と手が触れたんだ。びっくりして、柔らかくて、なんだか熱く感じて二人して手を離したもんだから、盛大に音を立ててペットボトルが床に転がった。
炭酸だったから、ボトルの中でシュワシュワと泡が出てた。慌てて拾って、もう一度手渡した。
「落とすなよ、開けると吹き出て来るぞ」
「あ、ありがと……はぁう」
手がまた触れたから、またまた彼女は驚いて落としそうになった。だから苦笑して、強引に手を握って持たせた。なんだか触れたそこが熱くて、でも、心地良くて暫し照れながら見つめあったな、と。
もじもじ俯いたり、俺を見たり、落ち着きの無い彼女が可愛くて、頭を撫でた。飛び上がるくらい驚いて、また「はぁうー」って妙な声を出してたから爆笑。
腹を抱えて、爆笑。笑いながら、まだもじもじしている彼女の手をとって散歩に出た。その辺を歩いただけだけど、満足だった。
夕日を見ながら思ったんだ、早くまた会いたい、と。ちらりと振り返ったら、微笑して夕日の赤で頬を染めている彼女を目が合った。
穏やかに微笑むから、手を強く握って走り出した。可愛すぎて、恥ずかしくて、照れくさくて、でも手は離したくなくて。「好きだー!」と、叫びたい衝動に駆られたんだ、子供だったけどさ。
……もし、あの時の俺の感情を”好き”だというのなら、今、貴美恵に抱いている想いは残念ながら”好き”じゃない。
こうして手を繋いでみても、キスをしても、抱いてみたって、あの時のなんだ……胸が熱くなって思わず笑顔になって、無性に走り回りたいような高揚感は……こない。
けれど、そんな想いを貴美恵に抱きたいとは思う。好きになりたい。
今日、エプロンで出てきた貴美恵を見て、少し、あの時の感情が湧き上がった気がした。
貴美恵を、好きになりたい。そうしたら、喜んでくれるだろうし、何より。
トモハルじゃないけどさ、好き同士って……いいもんだ。
誕生日が来月だと聞いたし、近いうちに、何かプレゼントでも選びに行ってみるか。
と、そんな俺の想いとは裏腹にー。数週間後、破局した。わけもわからず、一方的に振られた。
別にショックは受けなかったが、意味がわからん。
「何したわけ、ミノル。先輩方の噂になってるよ、『門脇実はヤリ逃げ常習犯だ』って」
お読み戴きありがとうございました、だらだらと続きます。




