初恋の彼女、しゅーりょー
名前、門脇 実。カドワキ ミノル。現在、16歳、高校一年。サッカー部所属。
彼女、貴美恵、同校二年の先輩。きっかけ、告白されたから。ちなみに告白されるまで、知らなかった。手芸部だ。
校庭でサッカーをしていた俺を見て、いつしか目で追いかけて、産まれて初めて告白してくれたんだそーだ。
貴美恵の髪型、ショート。一見ボーイッシュ、だけど性格は非常に乙女な感じ。
そんな俺の、独り言。……を、どうして呟かなければいけないんだ?
一番最初に彼女が出来たのは、小六の時だった。今の世の中、小学生で付き合うのなんざ当たり前的な世の中だけど、俺の時はまだそこまで浸透していなかったので鼻が高くて、偉ぶっていた。
と、いうのもその時の彼女というのが学校一番の……いや、恐らく美少女と名のつく大会に彼女が出れば優勝できる位、ずば抜けて可愛らしい子だったから。
俺、自惚れていたんだ。で、馬鹿な事をした。
可愛い俺の彼女は、当然俺以外にも仲の良い男がたくさん居た。その中の一人で、どうしても俺が「勝てない」って思っている奴がいて、そいつと一番仲が良かったから。
正直、今でも子供だけど当時どっからどう見ても子供の俺は彼女に八つ当たりをしたんだ。
その彼女と、プールへ行く約束をしていた、デートというやつだ。俺が言い出した、数日前に仲良しグループで行った場所だったが子供の俺は何処に誘っていいのかわからなくて、またプールにしてしまった。嬉しそうに微笑んで頷いてくれて、嬉しかったのに。
でも、俺、すっかりその日を忘れていた。忘れていたのは、他の女とデートしていたからだった。
憂美、っていう他校のタメの子だ。サッカーの試合で俺を見て、一目惚れだといわれて、これまたその子も彼女には劣るけれど可愛い子だった。可愛いというか、気が強い美人。
自惚れてた。
その彼女とデートの日、憂美と手を繋いで買い物した。女というやつはなんでもかんでも「可愛い」を連呼するので、イチイチ相槌打つのも面倒だったけど、告白されて好き好き言ってくれていたので、調子に乗って色んな店に付き合ったさ。一個だけ、何か買ってやったな……。小学生の俺によくもまぁ強請ってくれたもんだ。
で、小学生だから、街路の簡易なパラソルの下で昼食を食べた、クレープだ。甘ったるくて俺は嫌になった、が、仕方がない。クレープが食べたいって言ったんだ、付き合うしかないだろう。憂美と二人きりでデートをしていた、本当の”彼女”とは二人で出かけたことなどなかったのに。
……彼女と付き合い始めたのは、彼女が俺の事を好きだと言ったので、俺も、その、実際幼稚園の頃から彼女が好きだったから、大きく頷いて返事をしたんだ。
でも、俺は当時恥ずかしくて彼女に「好きだ」と一言も言わなかった。その癖彼女は、大人の美形の足の長い男と仲が良くて四六時中一緒に居るだろ、憂美と一緒に居たほうが楽しかったんだ。
「実君、好き」
憂美が笑ってそう言って、俺の口元についていたクレープの中身の微塵切りの玉葱をさ、指でとってから嘗めて悪戯っぽく笑って。
「実君、私の事好き?」
瞬きしながら近寄ってきたから、その時、俺は。そう、思わず、反射的に。
「あぁ、好きだよ」
「実君、すっごく可愛い彼女いるよね。私、彼女になれないよね」
「あぁ、なんだ、知ってたのか。でも、それ誤解。アイツ、彼女じゃないから、問題ない」
「そうなの? あの子だよ、この辺りで皆男の子虜にしちゃう、あの子だよ?」
「可愛いからっていい気になってるけど、俺は憂美のほうが好きだし、可愛いと思う」
そう、頭に乗ってた。口から、ぺらぺらと、多々言葉が飛び出した。子供ながらに”何かを期待して”憂美の気を引こうと必死だった。
知らなかったんだ。真正面に、俺の可愛い彼女が居たこと。全く気づかないくらい、憂美に気を取られていた。
プールでの待ち合わせ時間が10時、そこから3時間彼女は待っていて、13時になったところで諦めて家へ引き返す途中だった。家に電話もしたらしい、俺のケータイにも着信があった。けど、俺は憂美に夢中だったから全く、見る事が無かった。
「じゃあ、私実君の彼女だー」
「あぁ、カレカノ」
「ね、キスしよっか」
言葉を聞いた瞬間に、照れたように笑って言ってきた憂美に。上手く表現出来ないけど、心が躍って、ガッツポーズ。キスきたー! 大人だ俺とか、妙に鼻の穴を膨らませた。
目の前に、可愛い本当の彼女がいた、立っていた。けれど俺は、その時憂美と、自然にキスをしてしまった。
……目の前に、彼女がいたんだ。見ていたんだ。俺は知らなかった。
一度も、彼女には「好き」と言えないまま。一度も、彼女とはキスをしないまま。他の女に好きと言い、キスをした。
当然、ファーストキス。
次の日も、次の日も、彼女を放置して憂美と遊んだ。数日経って、彼女を思い出したから、会いに行った。大人の男になった気がして、肩に手を回してみたり顔を覗き込んだりしてみた。
けれど、元気が無かった。つまらなそうに見えて、苛立った。俺は始終舌打ちしていた、こんな気分になるなら憂美と遊ぶんだった、と思いながら俯いている彼女を見つめる。曇った表情、今にも泣きそうだった。どうしてそんな顔をしているのか、解らないまま。
帰り際、壁に彼女を押し付けた、キスしようと思ったんだ。憂美と何度もしたから、もう出来る。
そしたら。
目の前で彼女は身体を引き攣らせて、大粒の涙を零して、首を横に振るから。苛立った、付き合ってるなら、キスくらいいーじゃん、って思ったんだ。
強引に顔を近づけたら。
「私、キスは彼氏としたいから、出来ないっ」
……おぃおぃ、俺、彼氏だろ。一気に頭が沸騰した、思わず胸倉掴んで、顎を強引に持って、キスを。
キスをしようとしたんだ。
「私のこと、彼女じゃないって言ってたっ! ミノルそう言ってたっ! 私は、最初のキスは彼氏とするって決めてるの、絶対絶対、彼氏とするって決めたのっ」
彼女がそう叫んだ、泣きながら叫んだから手を緩めた、そして、当然そのまま走り去って。
「私、あの子みたいに可愛くないしっ!」
そこで初めて気づいたんだ、俺の彼女が憂美の存在を知っていたことを。血の気が引いた、一気に足元が真っ暗になった、視界が奪われた。
けれども、俺は開き直ったんだ。
じゃあ、要らない。逆切れしてたんだな、俺。憂美だったらもっと可愛いことを言ってくれる、と思ってたんだ。平手打ちでもしてくれたら、目が覚めたのかもしれない。
でも、俺は去っていく彼女を追いかけもせず舌打ちして呟いたんだ。あんな女、もう、要らない。憂美が居るから、あの彼女は……要らない。
憂美に会いに行った、家までの道程で女が数人爆笑してた。中心に憂美がいて、近づこうとしたんだが雰囲気が妙に怖くて遠目で見ていた。女の集団、こえぇ。
「どうよ、あの女、フラれた?」
「ばっかだよねー、実君もさ。ホイホイ騙されちゃって」
「憂美の演技が上手なんだよ、女優になったら?」
……隣の家のトモハルという間抜けな腐れ縁の男に後日殴られて、話を聞いた。俺の可愛い彼女は何もしていないのに、憂美の彼氏が彼女に一目惚れして、憂美をフったんだと。
その腹癒せに、俺と彼女の仲をぶち壊す計画だったんだとよ。成程、道理で男の扱いに慣れてたな憂美。本命は俺じゃない、キスもその男としていたから慣れてたんだろうな。
ヨリを戻したかったから、必死に彼女に会いに行ったけど、静かに哀しそうに微笑むばかりで話を聞いてくれなかった。普通に、俺に接するんだ「おはよう、ミノル」ってさ。あまりにも態度が普通で、俺のこと怒鳴ればよかったのに。俺はそこまでの相手だったのかと思って。
また、苛立ってきて。俺、言ったんだ。
「お前、人間じゃないから、人に何言われても何されても平気なんだよな? ちったぁ俺が謝ってんだから、泣くとか喜ぶとかさ、作り笑い浮かべてないで何か言えよ。ほんっと、可愛げないな、お前」
子供の……子供特有のわけのわからん他人を愚弄する言葉。彼女は、何も悪くなかった。で、特に意味もなく俺はそう言った。言葉に、意味なんてない。「お前のかーちゃんデベソ」くらいの発言だった。
まさか。その一言で。一瞬で彼女があんな思いを抱いたなんて、俺は、思わなくて。
今でも忘れられなくて、夢に見る。硬直して、大きな目をもっと開いて俺を見た、俺の可愛い初恋の彼女は。
『ごめんなさい』
俺にそう告げて、泣きもせずに、横を通り過ぎて行ってしまった。あの時の、表情が。
泣きそうなんだけど、笑っているようにもとれて、でも、口元は固く結んで、力なくだけど腕に爪を立てて。
……忘れられない。
それから、離れられない関係だったから一緒に居たけれど、俺と接することを極端に怖がるようになったみたいで、さ。前みたいに笑ってくれなくなった、遠慮がちに話しかけてくるようになった。
初恋、終了。
お読みいただき有り難うございました、トモハルの人気がやはり高かったので、気毒に思った作者が2007年くらいに書いた作品がこちらになります。
書いたら、ミノルの印象が更に悪くなって、申し訳ないことをしたなと(略)。
適当に続きます、時間があって気になったら立ち寄ってくださいませ。




