ショートショート・替え玉合格と勘違いした女
1.
日本一の難関大学、東都大学1年・山城一郎には恋人がいた。
東洋女子大1年の小林由紀子という。
二人は大学のサークルの合コンで出会い、すぐに親しくなった。
由紀子は山城のことを東都大生として眩しいほどの信頼を寄せていた。
ある晩、山城の部屋で、彼がシャワーを浴びていたとき、由紀子は机の上に置かれた「高梨悟」と記された、高校の日本史のノートを見つけた。
ノートの脇には、筆跡を真似るための練習用の紙束が乱雑に積まれている。
山城が部屋に戻ると、由紀子は手にノートを持ち、静かな声で問いかけた。
「これは何?」
「それは日本史のノートだ」
「それはわかってるわよ。なんで、あなたが他人のノートを使って筆跡を真似する練習をするのよ?」
「替え玉受験の仕事をしている」
「やめて。そんなことして、捕まったらどうするの」
「せっかく苦労して東都大に合格したんだ。このくらいの旨味がなければつまらん。成功報酬は50万円だぞ」
「別れましょう」
由紀子は目に涙を浮かべながら、部屋を飛び出して行った。
2.
由紀子は山城と別れてから、しばらく男と付き合わなかった。
2年生になると、新しい彼氏が欲しくなり、大学の掲示板を眺めていた。
私立の最難関・若花田大学のスキー同好会が、合コンの張り紙をしていたので、参加してみた。
喫茶店を予約してあり、互いに見合ってビニール製のソファに腰掛けていた。
そんな中、由紀子の目に、どこか山城に似た青年が映った。
「政経学部1年の高梨悟です」
その男は柔らかな笑顔で自己紹介した。
その顔立ちも雰囲気も、山城に驚くほど似ているが、どこか違う。
由紀子は山城が練習用に使っていたノートに記されていた名前も「高梨悟」だったように記憶していた。
胸の鼓動が早まるのを感じながら、英語の教科書を鞄から取り出した。
「この部分、訳してもらえませんか?明日までの宿題なんです」
悟は辞書を使うことなく、流れるように日本語に訳していく。
由紀子は慌ててノートに筆記した。
訳が終わると、由紀子は周囲に聞こえないように声を潜めて語りかけた。
「あなた、替え玉受験じゃないんですか?」
「なんてことを言うんですか!」
「山城って東都大生が、あなたのノートを使って筆跡を真似してたの」
悟はしばらく沈黙した後、静かに口を開いた。
「母が探偵に相談したのは事実です。でもノートは戻ってきました。そうだったんですか、あなたにバレたからですか。僕は実力で受かったんです」
「ごめんなさい」
「あなたは不愉快だ、あっちに行ってください」
彼女は別の男のところに行って話しかけた。
その男は黒江年男という名の法学部1年生で、由紀子は黒江と意気投合した。
由紀子は東洋女子大学の2年生で、黒江は若花田大学1年生だが2浪しているので、黒江のほうが1歳上である。
黒江は高校時代ラグビーをやりすぎて、2浪してしまったと苦笑した。
それから二人は付き合い出した。
3.
黒江はラグビーで鍛えたというだけあって、山城などよりはるかに胸板が厚く逞しい。
彼女は黒江の虜になった。
だが彼女が喫茶店で英語を教えてもらおうとすると、黒江はあまりできないのでおかしいと思った。
若花田大学の政経学部と法学部ではそれほど差はないはずである。
ある日、由紀子が黒江に電話しようとしたら通話拒否になった。
彼女は自分が何か、彼を傷つけるようなことをいったのかとも思ったが、あまり思いつかない。
新聞を見て由紀子は驚いた。
「若花田大学法学部で替え玉入試が発覚」
由紀子はスキー同好会の部員がたむろしている若花田大学の学生会館に行ってみた。
「あのー。黒江さんは?」と由紀子は合コンにも来ていた他の学生に聞いてみた。
「あー。あいつなら、替え玉受験がバレて合格を取り消されたよ」
その男は不快気な顔で言った。




