第33話【全てを超える者】
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空を覆い尽くす空間の亀裂が広がる東京……
そこに凄まじい爆発と共に轟音が響く……
「……ッ! ! 」
清火は影と闘っていた。
清火は大鎌に炎を纏わせ、 街中を駆け回りながら影を斬り付ける。
しかし影はそんな大鎌の刃を指先一つだけで受け止めてしまう。
速い……いや……速いなんて次元じゃない……アイツに攻撃が当たる気がしない……
清火は影の圧倒的強さに戦慄する。
しかし影は何故か清火に攻撃をしてこない……
「……こんなの余裕ってか? ……なんならこれはどう! ? 」
そう言うと清火は両手に黒月を出し、 同時に引き金を引いた。
すると銃口から凄まじい威力の光線が発射され、 影を吹き飛ばした。
光線は立ち並ぶビルを幾つか貫き、 影を遠方へと飛ばしていった。
『……』
ビルの壁にめり込む影。
しかしダメージを受けている様子は無い。
次の瞬間、 清火は影の目の前に瞬間移動し、 大鎌を目にも留まらぬ速さで振り回し、 影を斬り付けた。
清火の攻撃で影がめり込んでいたビルだけでなく、 その先にあった建物まで斬り刻んだ。
……これだけやれば流石に傷の一つは……
そう思いながら斬撃を繰り出す清火の横には影の姿があった。
『……何を斬っているんだ? 』
「なっ! ? 」
確かに斬っていたはずなのに……何をしたの! ?
影の移動速度に清火は驚愕する。
「ッ……うらぁぁぁぁぁ! ! ! 」
怯みながらも清火は大鎌を振りかざし、 力一杯に大鎌を振り下ろした。
影は指一本で大鎌の刃を止める。
しかし力に押され、 影は地面に叩きつけられた。
大鎌はそのまま縦に回転した瞬間、 地面に巨大な溝が刻まれた。
それは高層ビルをすっぽり覆う程の大きさだった。
その斬撃に巻き込まれた影は無事ではない……と思われた。
『……この世界の水準ではお前は間違いなく最強だ……この星の神も敵ではないだろう……』
そう呟く影が無傷のまま溝から出てきた。
そして影は清火の前に瞬間移動する。
『さぁ……お前の全力を見せてみろ……まだこんなものでは無いだろう……』
影がそう言うと周囲の空間に違和感が発生する。
……この感じ……あの魔法使いの男の時と同じ……でも……力の規模が違い過ぎる……
風景は変わらずとも、 清火は自身が別空間へ移動させられたことに気付く。
『ここなら好きにできるだろう……さぁ……やってみせろ……』
「……やってやるよ……」
すると次の瞬間……
「わ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! ! ! ! 」
清火が叫ぶと同時に黒い霧のような物が周囲の空間を埋め尽くした。
霧に巻き込まれた影の視界は暗闇に包まれる。
するとその目の前に……
『お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛……! 』
黒い炎の騎士と闘った時に現れた『何か』がいた……
口からは無数の人間や動物の叫び声が響いてくる……
そして『何か』は影を飲み込もうとする……
しかし……
『……』
影は無造作に手を払うと一瞬にして『何か』は掻き消え、 黒い霧が消えてしまった。
「なっ……」
……嘘でしょ……あの力をあんな簡単に……
清火は『何か』による攻撃が効かない事に驚愕する。
「……まだ……まだだ! 」
清火はそう言うと大鎌を振り上げる。
すると次の瞬間、 影の周りの空間ごと何かに切断されたかのように斬り裂かれた。
「死ねぇぇ! ! 」
清火が叫ぶと同時に影の体は燃え盛る。
そしてその炎は瞬く間に氷へ変化し、 砕け散った。
影の体はバラバラになり、 地面へと落ちていく……
しかし……
「……ッ! ? 」
『……ふむ……空間の概念もある程度は操れるか……大したものだ……』
まるでその場の時間が一瞬にして巻き戻ったかのように影は元の姿で清火の前に佇んでいたのだ。
「な……何で……」
確実に斬った……そして燃やして……凍らせて……バラバラにしたはず……どうして元に……時間が操られた感覚も無かった……
理解が追い付かない清火に影は言う。
『……お前も出来るのだろう……因果の書き換えを……』
「ッ! ! 」
……嘘でしょ……アイツも因果の書き換えができるの……? ……でも……出来るとしたらおかしい……因果の書き換えは出来るとしたら自分の状態を相手の状態と交換が出来る程度……私には何も起きてないのに……どうやって……まさか……!
『あらかじめ言っておこう……お前以外の対象には一切干渉してはいない……』
影は清火の心を見透かしたように言う。
「……ならどうして……」
『……お前と俺とでは力の次元が違う……俺は『因果』という概念そのもの全てに干渉する事が出来る……しかしお前は『因果』という概念の中でほんの一端に干渉しているに過ぎない……要はやろうと思えばどんな出来事もいつ如何なる時だろうと何度だって引き起こす事も出来る……どんなに非現実的なモノだろうとな……』
……そんな……じゃあ……どんなに攻撃してもアイツにダメージも与えられないって事じゃない……どんなチートよ……
清火は絶望的状況に完全に戦意喪失する。
そんな清火に追い打ちを掛けるように影は話し出す。
『そう……もう一つ言っておこう……俺の力は『因果』の操作だけではない……『この世』に存在する『時間』……『空間』……『物質』……『エネルギー』……それを取り巻く『概念』……つまりは『全て』を意のままに出来る……お前という『存在』すらも……』
「はは……なんなら出合い頭に私を消せばよかったじゃん……」
絶望する清火はそう言うと影は言う。
『それが出来んのだ……お前とお前の家族には……何故か干渉が出来ん……『存在の完全消滅』が一番手っ取り早いのだが……かなり面倒な状況になっているという訳だ……』
それを聞いた清火はあの少女を思い出す。
……まさか……あの子が私を守ってる……って事……?
すると……
『まぁいい……『全て』が終わればそんな障害も関係ない……それまでもう少し付き合ってやる……』
影はそう言うと清火の目の前まで瞬間移動し、 片手で軽く小突く。
次の瞬間、 清火は凄まじい威力の打撃が腹に入り、 地面へ叩き落された。
「がっ……は……! ! ! 」
今までに無い激痛が清火の体を駆け巡る。
清火は一瞬にして身動き一つできなくなってしまった。
……な……何なのあの火力……それに……この痛み……完全に何かいじられてる……これも……概念を操作したって事か……
激痛が収まらない中、 清火は必死に体を起こす。
すると影は清火の前に降り立つ。
『……中々の頑丈さだ……人間がここまで強くなるとはな……』
「……っ……! 」
清火は黒月を出し、 影に撃ち込む。
しかし影は目にも留まらぬ速さで手を動かし、 黒月の弾丸の軌道を変え、 清火に撃ち返した。
弾丸は清火の肩に直撃し、 清火は後方へ飛ばされてしまう……
『……無駄だと分かっていて何故抗う……』
影は清火の無駄な攻撃に疑問を覚える。
すると清火は撃ち抜かれ、 血が滲む肩を抑えながら立ち上がり
「無駄だからやらないとか……どうせ無理だから諦めるとか……そんな事考えるのは……もう辞めたんだよ……守りたいモノがあるから……それだけでいいんだよ……! 」
そう言いながら清火は影に突進し、 回し蹴りを入れる。
しかし影は清火の足を手のひらで滑らせるように受け流し、 そのまま勢いを利用して清火の体を地面に叩き付け、 蹴り飛ばした。
清火の体は完全にボロボロになってしまった。
……駄目だ……当り前のように……治癒が作用しない……
「……う……ぐ……」
地面で蹲る清火の元に影が歩み寄る。
『……殺さずにおいてやろう……『全て』が終わればお前も消える……今ここで焦って殺す必要も無い……それに……お前よりも……剣の英雄の方が一番厄介だからな……』
そう言って影は清火に背を向ける。
それと同時に辺りの空間の違和感が消え、 元に戻った感覚を覚える。
清火はふと空を目にやると亀裂が更に大きくなっている事に気付く。
……あれが完全に大きくなれば……文字通り『この世の終わり』か……このまま大人しくしてられるか……!
そう思った清火はフラフラになりながらもまた立ち上がり、 黒月の銃口を影に向ける。
そして、 引き金を引いた。
しかし……
『パシュッ……』
黒月の弾丸は影のすぐ目の前まで来た瞬間消滅してしまった。
気付いた影は清火の方を振り返り
『何故そう死に急ぐ……そんなに死にたければ……』
『望み通りにしてやる……』
そう言った瞬間、 影は手を清火の方に向け、 謎の黒い玉を飛ばしてきた。
その黒い玉は触れたら死ぬという感覚が本能で分かる雰囲気を感じた。
……ごめん……父さん……母さん……
死を覚悟した清火は目を閉じる。
すると次の瞬間……
『バシュッ! ! ! ! 』
何かを斬り刻む音と共に辺りは静寂に包まれる。
何事かと清火は目をゆっくり開く……
そこには……
「……娘に何してくれてんだこのクソ野郎が……」
守るように清火に背を向け、 剣を持ったイージスの姿があった。
「父さん……! 」
清火がそう言うとイージスは振り向き、 微笑みながら言った。
「悪い……道中の魔物の相手をしていたら遅れちまった……よく頑張ったな……清火……」
「……全く……遅ぇんだよ……」
安心した清火は微笑む。
『……その剣……ほう……剣の英雄か……お前を待っていたぞ……』
イージスの剣を見た影は身構える。
そしてイージスは影の方を向き、 剣を構えた。
次の瞬間、 影は手を薙ぎ払い、 凄まじい威力の衝撃波を飛ばしてきた。
それを見たイージスは剣を振り下ろす。
すると衝撃波は剣にぶつかるとまるで壁にでも当たったかのように止まる。
そしてイージスの剣は空間を斬り、 衝撃波を真っ二つに分断した。
『やはりその剣は忌まわしい……』
「……ここからは俺が相手だ……」
そしてイージスと影の戦闘が始まった……
続く……