第32話【王の守護者】
前回からの続き……
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清火は魔物だらけの道を進んでいた。
魔物達は清火をみるなり襲い掛かってくるも、 清火は魂達を使い、 魔物達の動きを拘束する。
……出来るだけ殺さないようにしたい……雷さんが元に戻れたなら……まだ戻れる可能性はあるはず……
「……にしても不思議……まるでこの魂達はこの事態に備えたものみたい……」
そう呟きながら清火は空の亀裂の真下の地点へ向かおうとする。
すると次の瞬間、 数体の魔物達が清火の背後から突然現れ、 襲い掛かってきた。
しまった……透明化の魔法を使える攻略者もいたのか……
清火は反応が遅れ、 攻撃されそうになったその時……
「ぬぉぉぉぉぉっ! ! ! 」
男の掛け声と同時に魔物達の真横からマグマのような炎が噴き出してきた。
清火は炎が噴き出してきた場所を見ると
「……ったくどうなってやがる! いきなり街中の攻略者が魔物になるなんてよ! 」
フローガの姿があった。
その姿はごく普通の人間、 フローガは魔物になっていなかったのだ。
清火はフローガを見て喜ぶ。
「フローガさん! 無事だったんですね! 」
拳一さんは通信できない攻略者は全てじゃないとは言ってたけど……良かった……
そして清火の声にフローガは気付く。
「おぉ! モルス! お前さんも無事だったか! 」
フローガは清火の元に駆け寄る。
「しっかし一体どうなってやがる……街中魔物だらけじゃねぇか……」
「……それはあの亀裂に関係してます……」
「……どういうことだ? 」
状況が理解できないフローガに清火は事の経緯を簡潔に話した。
「……なぁるほど……俺達普通の攻略者にはどうすることもできない規模の話って事か……」
「率直に言ってしまうと……その通りです……」
するとフローガは頭を掻きながら
「まぁ俺達には俺達の出来る事をするが……この状況で雷は何してやがんだ……? 電話にも出ねぇし……」
雷の話をする。
それを聞いた清火は少し表情を曇らせる。
その様子にフローガは気付く。
「……どうしたモルス……顔色悪いぞ……? ……それに気づかなかったがその髪に付いた赤いもの……もしかして血か……? 」
「……」
「……お前さん……泣いてたのか……目の周りが赤いように見えるが……」
そう言われた清火は咄嗟にフローガから背を向ける。
……言えない……雷さんが……愛さんが死んだなんて……
清火は黙り込んでいると
「……おい……ありゃヤバいんじゃないか? 」
フローガは清火の前方を指差す。
その先には大量の魔物達が迫っていた。
……まずい……残っている魂達は少ない……フローガさんと戦っても……全部拘束するのは……
やむを得ないと思った清火は黒月を構える。
すると次の瞬間……
『あなたが手を下す必要は無いわ……清火』
空から声が響き、 突風が起こる。
魔物達は強風に吹き飛ばされ後退していく。
清火とフローガは上空を見るとそこには黒いドラゴンがいた。
……母さん!
清火はそれをザヴァラムだと一瞬で分かった。
ザヴァラムを見たフローガは驚愕する。
「おいおい! 魔物の軍団の次はドラゴンかよ! 」
そう言ってフローガは身構える。
「大丈夫です! あのドラゴンは私のは……仲間です! 」
一瞬自身の母だと言いかけた清火は言い直し、 フローガを落ち着かせる。
そしてザヴァラムは清火の前に降り立つ。
『私の背中に乗って……あの亀裂まで連れて行くわ! 』
「分かった……フローガさんは安全な場所へ避難してください! 恐らく攻略者協会本部がいいかと思います! 」
「お、 おし! 分かった! 気を付けてな! 」
そしてフローガは清火の指示で攻略者協会本部へ避難した。
そして清火はザヴァラムの背中に乗り、 亀裂へと向かった。
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しばらく上空を飛び、 亀裂へ向かっていると……
『……ッ! ! 危ない! 』
ザヴァラムは咄嗟に旋回し、 方向を変える。
しかしザヴァラムは何かに当たり、 落とされてしまった。
受け身を取った清火は体制を立て直し、 辺りを見渡す。
そして清火は人の姿に戻り、 倒れているザヴァラムを見つけた。
「母さん! 大丈夫! ? 」
清火はザヴァラムの元へ駆け寄る。
「……この力……相当な手練れね……まさか……」
そう言いながらザヴァラムは上を見る。
そこにいたのは
「……嘘でしょ……エンペラーさん……? 」
炎に包まれた魔物となったエンペラーの姿があった。
それだけじゃない、 エンペラーは謎の赤いドラゴンの背中に乗っている。
……あれは……スカーレットさん……
清火が空を見上げていると
「清火、 危ない! 」
ザヴァラムはそう叫び、 二本の大剣を出して清火を守るように立ちはだかった。
次の瞬間、 無数の空気の刃がザヴァラムに目掛けて飛んできた。
ザヴァラムは空気の刃を素早く弾き飛ばす。
何事かと清火は空気の刃が飛んできた方を見るとそこには二本の刀を持った鎧武者が立っていた。
まさか……あれって白刃さん……?
二人を襲った三体の魔物はランキングトップのギルドマスター、 エンペラー、 スカーレット、 白刃の気配があった。
……そんな……あの三人まで……
清火が絶望していると……
「……清火……行きなさい……ここは私が止める……」
ザヴァラムは清火に背を向けたままそう言った。
「でも……いくら母さんでも……影の力を貰ってるあの三人を一人で相手にするのは……」
清火は躊躇していると上空からスカーレットとエンペラーが火の玉を降らせてきた。
ザヴァラムは清火に覆いかぶさるよう守るも、 背中に火傷を負ってしまった。
「母さん……! 」
「行きなさい清火……! 」
すると白刃が清火に斬りかかってきた。
ザヴァラムは大剣で刀を止め、 蹴り飛ばす。
「……母さん……どうして……」
傷が増えていくザヴァラムを見て清火は涙を溢す。
「……清火……行きなさい……あなたが守りたいモノの為に……」
「……15年も置き去りにしてしまったもの……せめて……今あなたにしてやれることをしてやりたいのよ……」
そう言ってザヴァラムは清火の方を振り向き、 微笑んだ。
……母さん……
そのザヴァラムの姿を見た清火は胸が熱くなる感覚になる。
そして清火は歯を食いしばりながら
「分かった……どうか死なないで……」
そう言って清火は空間操作で瞬間移動した。
清火がいなくなった後、 三体の魔物はザヴァラムの前に立つ。
あぁ……父上……母上……ようやく解りました……これが……子を守りたいと思える……『愛』なんだ……
そんな思いを胸にとザヴァラムは大剣を地面に叩きつける。
金属のような轟音が響き、 地面にヒビが入る。
そしてザヴァラムは睨み付けるように魔物達を見る。
「……我が名は覇神龍 ザヴァラム……至高なる神聖国、 メゾロクスの第一守護者……そして……我が至高なる王、 イージス様の守護者! ! ! 」
ザヴァラムは大剣を三体の魔物に向ける。
「守護者の名に置いて……ここから先へ進めると思うな! ! 」
もしも……ここで死に絶えようと……私は絶対に後悔はしない……!
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清火は急いで亀裂の方へと向かっていた。
……急がないと……母さんも危ない……
そしてしばらくして清火は亀裂の真下へと辿り着いた。
そこには魔物どころか人影も見当たらず、 不気味な静けさに包まれていた。
……父さんがいない……私が先に着いたって事か……父さんは……まだ魔物と戦っているの……?
そんな事を考えながら清火は空を見上げる。
次の瞬間
『……小娘……貴様が先にここへ来たか……』
不気味な男の声と共に空から凄まじい力を感じた。
それは体の芯にまで響いてくるほどの圧力であり、 指一本も動かせなくなりそうな程だ……
すると空の亀裂から人影が落ちてきた。
人影は清火の前に降り立つ。
……あれが……影……!
清火は見た瞬間に分かった。
今にも呑み込まれそうな黒いオーラを放つ影に神の想像すら超える力があると……
しかし清火は逃げなかった。
清火は大鎌を構え、 8体の魔物と戦った時と同じ形態に変化する。
……もう乗っ取られない……私の意志が力に勝っているんだ……
清火は力を制御する事に成功したのだ。
その清火の姿を見た影は言う。
『……準備は終わったか……』
「……えぇ……掛かってきなさい……アンタを半殺しにしてやるよ……! 」
そして清火と影の戦いが始まった……
続く……