第三話 決意
──十六歳、六月。
(第二話からの続き)
ゆきなねえがそこまで男好きだとは知らなかった。
施設時代は心の内にずっと秘めていたのだろうか。
私は、恋愛するとしたら一人だけと決めている。
だから、慎重に相手は選びたい。
若さ故に、喰いついて酷い目に遭いたくもない。
きっと私の母親もそうだったに違いない。
「おねえちゃん?ママ、いもうと?」
考え事をしていた私に明梨ちゃんが声を掛けた。
「うん!!ママの妹の陽菜でーす!!宜しくね?」
「ママ─!!はるなおねえちゃん、すき!!」
確か玄関の入り口付近に明梨ちゃんは立っていた。
それが私の前まで、小さな足で歩いてきてくれた。
晃を私が育てる事になれば、こんななのだろうか。
私に可愛い姿を晃は振りまいてくれるのだろうか。
「んで、あの悪魔の子はさぁ?何か…親に繋がりそうな手がかりとかあるのかい?」
「うん!!ほらこれ読んでみて?」
ゆりかごの中にあった紙を、ゆきなねえに見せた。
「え!!悪魔が不貞して出来た子って…殺処分なの!?うちの明梨の父親の悪魔ってどうだったんだろ…。怖っ!!まぁ…?明梨もここまで大きくなったし?もう大丈夫でしょー??ねぇー?明梨?」
相手の悪魔もゆきなねえが妊娠したのを知らないはずだ。
晃の母親も逃す為に、無事捨てることに成功した。
だから、黙ってればバレないのかも知れない。
「あかり、よんしゃい!!ママ、まもるー!!」
四歳との言葉を聞いた私は驚きを隠せなかった。
明梨ちゃんはもっと幼く見えるからだ。
「じゃあ、明梨ちゃん?赤ちゃんに会ってみたいかな?」
「あかちゃん!?あかり、あいたい!!」
かなり明梨ちゃんが乗り気だが、私は母親のゆきなねえの反応が気になった。
「やっと本題に入れそうだなぁ?うちは明梨とあの悪魔の子を会わせてみたくて、連れてきたんだぞ?」
全く心配する事は無かった。
今の勢いのまま、明梨ちゃんに晃を会わせてみることにした。
「それじゃあ、玄関上がって奥の部屋行こっか?」
◇◇◇◇
「あかちゃん、どこー?」
明梨ちゃんがキョロキョロと部屋を見渡していた。
「あぎゃああああっ!!あぎゃああああっ!!」
急にゆりかごの中の晃が大声をあげて泣き始めた。
「あかちゃん、いたあ!!」
そう言いながら、ゆりかごの中を明梨ちゃんが覗き込んだ。
すると晃はピタリと泣くのをやめ静かになった。
「ママー?あかちゃん、にてる!!」
「そうだろ?明梨に似てるだろ?明梨の弟みたいだよな?」
「うん!!あかり、おねえちゃん!!」
「陽菜?て、事でさぁ?その子、アンタはどうしたいんだい?」
あの紙を公園で読んだ時から、私の中でずっと沸々と込み上げてきていた思いがあった。
「私、晃のこと自分の子として育ててみたい!!」
「自分の子としてかい?となると、陽菜が二十歳になるまでは、普通養子縁組は出来ないからねぇ?戸籍だけは、私の養子にしておこうか?まぁ、捨て子だから…明日あたり職員さんとかに聞かないとだけどさぁ?」
ゆきなねえは養子縁組について、色々と事情に詳しそうに聞こえた。それに、私が二十歳を迎えるまでには、あと四年程かかる。その間で色々とゆきなねえに迷惑がかかってしまわないか心配だ。
「ゆきなねえ?本当に…私の協力してくれるの?」
「勿論だよ?こんな私だって、明梨のお母さんだよ?四歳まで、無事に育ててこられてるんだ、大丈夫さ。それに、私は、陽菜がその子を育てるのを手伝うだけだからねぇ?」
「私…仕事も学校もあるから、ゆきなねえが手伝ってくれるなら、本当に助かるし…心強いよ!!」
「明梨?明日から、アンタはその子のお姉ちゃんだよ?良いかい?」
「わーい!!あかり、おねえちゃん!!」
とりあえず、この日は夜遅くなってしまったので、お開きとなった。去り際にゆきなねえから、今夜は晃の面倒を試しに私自身がみるように言われた。試してみて無理なら、明日朝一で保護して貰うようにすると念を押された。
◇◇◇◇
「昨日の夜はどうだった?その様子じゃ、寝れてないんじゃないのかい?」
朝一でゆきなねえが一人私の部屋に訪ねてきた。明梨ちゃんはというと、まだ隣の部屋で夢の中のようだった。
昨日はあれから、私は晃の面倒をみていたのだが、寝るところまでは完璧だった。
何故なら施設では、ゆきなねえと共に歳下の子達の面倒をみたりしていたからだ。
それに、紙おむつや粉ミルク、哺乳瓶はゆりかごの中に入れられていた。足りない物はゆきなねえから借りたので困らなかった。
ところが、晃は母乳で育てられていたのか、哺乳瓶でミルクをあげてもその後でおっぱいを欲しがった。
私はまだ十六歳で出産もしていない為、おっぱいを咥えさせても出るはずもなく、晃は泣きじゃくった。
仕方なく晃に哺乳瓶を咥えさせると泣き止んだ。でも、またおっぱいを欲しがって泣くのだ。
そのうちに寝てくれるのだが、またお腹が空いた晃が起きると泣き出して…の繰り返しだった。
「大丈夫…。私、この子育てたいの!!この子のお母さんになりたいの!!」
「陽菜の気持ちは分かったよ?それじゃあ、今日職員さんの所にでもこの子連れてって、どうするか決めてもらおうか?」
私はこの日は会社を有休を取って休むと、ゆきなねえと共に晃を連れ色々とまわり歩いた。