第二話 お姉さん
──十六歳、六月。
(第一話からの続き)
ピリリリリッ…
ピリリリリッ…
急に私の部屋の呼び鈴が二度鳴った。
古いアパートなのでインターホンではなく、古い押し続けるタイプの呼び鈴だった。
「晃、少し待っててね?」
「あうー!あうー!」
ゆりかごの中の晃に声をかけたが泣かなかった。
これ幸いと、私は急いで玄関へと向かった。
こんな夜遅くに誰だろうか?
恐る恐る玄関のドアの覗き窓から覗いてみた。
すると、隣の部屋に住むヤンキー風のお姉さんが外に立っていた。
晃が大泣きしたから夜に泣き声がうるさいと言われるのかと、覚悟をして玄関のドアの鍵を外すとドアノブに手をかけた。
ガチンッ…ガチンッ…
ガチャッ…ギィィィィッ…
「ゴメンなさい!!子供が夜泣きしてしまって…ゴメンなさい!!」
開口一番、私は頭を下げてヤンキー風のお姉さんに謝罪してみた。
「はぁ…?鈴木さんさぁ、何言ってんだ?ってか…アンタ、いつの間に子供なんか産んだんだい?ちょっとお邪魔するぜ?」
「えっと…。」
戸惑う私を置き去りにして、ヤンキー風のお姉さんは上がり込むと部屋の奥へとどんどん進んでいった。
「これは一体…何なんだい!?あんた…まさか捨て子を拾ってきちゃったのかい?」
「あ、見られちゃいましたか…。そうです。そこの公園で捨てられていたこの子、拾ってきました。」
こういう人に嘘をつくとバレた時が本当に怖いので、正直に答えるに越したことはない。
ゆりかごの中を見ると晃は楽しそうに笑っていた。
「確か、鈴木さん…アンタさ?昼間は会社に行って、夜は定時制通ってんだろ?」
入居時に話したくらいで、それからはこのヤンキー風のお姉さんとは全く会話はしていなかった。
「何で、一回しか話してないのに、名前やら何やら事情知ってんだって顔してるね?」
「はい…。」
まさにその通りで本当に怖い。
このヤンキー風のお姉さんは、同性愛者か何かで私のストーカーと言ったところだろうか?
「私の苗字もさ?鈴木って言うんだ。でね?下の名前は、雪菜って言うんだ。」
「鈴木雪菜さんってお名前なんですね…。」
鈴木雪菜。
すずきゆきな。
ゆきな?!
私は暫くヤンキー風のお姉さんの顔を凝視した。
「あっ!?もしかして…ゆきなねえ!?」
「はるなぁ!!やっと…かい。ようやく私のこと…思い出してくれたのかい?そう、アンタの…ゆきなねえさ?」
物心ついた頃から、施設の中で私の姉代わりになって世話をしてくれていた、六つ歳の離れたゆきなねえこと雪菜さんだった。
目や鼻や口のバランスで思い出した。
だがあまりにも当時とは容姿が変わりすぎていた。
その為パッと見ただけでは分からなかったのだ。
「ゆきなねえ?一体…その髪!!そのピアス!!どうしちゃったの??」
髪はミディアムのウルフカットでプリンだった。
恐らく…前回カットに行った際に、ショートのウルフカットでアッシュカラーをしていたのが伸びたのだろう。
両耳には無数のピアスがつけられていた。
それが余計にヤンキー風な雰囲気を出していた。
元来のゆきなねえは、ロングで黒髪の清楚系な色白美人だった。
「まぁ…施設出てから色々と、ね?昔のことは置いといて、はるなが一人暮らし始めるって施設の人から聞いてさ?私の横の部屋空いてたから紹介したんだ。そしたら、私も居るし安心できるからって、決まったみたいでさ?って言うか…その子は悪魔の子だろ?」
ゆきなねえは早口で私に畳み掛けてきた。
その辺りは全然変わっていなくてホッとした。
でも、あれ程清楚系だったゆきなねえが何故?
ここまで変わってしまうなんて…。
施設を出てからの人生で一体何があったのだろう。
「そっかぁ…。ゆきなねぇもあれから色々あったんだ…。それにさ?このお部屋、ゆきなねぇの紹介だったなんて…。職員さんも言ってくれれば良かったのに!!それと…何で、この子が悪魔の子って分かったの?!」
「どうしてか聞きたいかい?ちょっとお待ちよ?」
ゆきなねぇはそう言うと、私の部屋から出ていってしまった。
◇◇◇◇
ドアが閉まる音がしなかったのに私は気付いた。
夜なので玄関のドアの開けっぱなしは流石に怖い。
仕方がない、私はドアを閉めに玄関へと向かった。
「ママ?どこいくのー?」
開いた玄関の外から可愛らしい声が入ってきた。
「えっとねぇ?ママの妹に会いに行こっか?」
次に聞こえたのはゆきなねえの声だ。
ゆきなねえがママと呼ばれるという事は、可愛らしい声の主はお子さんだろうか?
「ママのいもうと!?」
二つの足音が、玄関の方へと近づいてきていた。
とりあえず私は玄関で、ゆきなねえ達が来るのを待つことにした。
「じゃじゃーん!!うちの可愛い娘でーす!!」
そう言って、ゆきなねえが玄関の中へ入ってきた。
続いて誰かが玄関の中へと恐る恐る入ってきたのは、ゆきなねえと悪魔の特徴を併せ持った可愛らしい少女だった。
「可愛い!!名前は何ていうの??」
「でしょでしょ?この子の名前はねぇ、明梨って言うんだよねー。うちが産んだ実子なんだよ?」
この明梨という子には晃と同様、悪魔の身体的特徴が見られた。
「ゆきなねえが産んだ子なの!?でも…明梨ちゃんには悪魔の特徴があるよね?」
「あー!!そうなんだよねぇ…。明梨には、悪魔の血が混じってるみたいなんだよ…。遊んでたメンズの誰かが、悪魔だったのかなって思ってるよ?」
ゆきなねえの口から衝撃の言葉が飛び出し驚いた。