【3】
父である楊煕の元へもどった私は、案の定「そら見た事か!」と父にお説教をくらった。
しかも、しばらくは屋敷から出るな。と監視を付けられる事になった。
その後も、郭馥を討つ。と怒り狂う父を「これは私の問題だ」と必死に止めると、私は部屋に戻った。
部屋に戻り、布団に倒れ込む様に横になると。
「楊冥様?」
部屋の外から声がする。
「…紅徳?私の監視役になったらしいじゃない?」
私が扉に向かって独り言の様に呟くと、バツの悪そうな紅徳の声がまた聞こえて来る。
「…えぇ、嫌だとは思うでしょうが、我慢して下さい。命令なので」
私は紅徳の言葉に無言を返すと、そのまま目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、愛しい人の顔だけ。
どんな仕打ちをされ様と、どんな事を言われ様と…。
この気持ちは変わらないんだろう。
考え事をしていると紅徳の気配が消える。
気配を消しただけなのか、いなくなったのかは分からないけれど、私は安心して眠りに落ちた。
夢を見た。
郭馥の隣りにいる夢
郭馥と笑い合っている夢
そんな時もあった。
目が覚めた後は涙が止まらなかった。
「冥」
私が気分転換に庭を散歩していると、鄧選が私に気付いて近付いてくる。
「鄧選!久し振り!元気だった?」
小さな頃から兄弟姉妹の様に暮らして来た鄧選は、私にとって本当の兄と同じだ。
「勿論だ、お前も息災にしておったか」
鄧選は、郭馥との事を知っているのか、いないのか…。
いつも通りで嬉しくなる。
「将軍が近い内に戦が起こるだろう…と言っていた。こんなときに帰ってくるとは…」
そうか。
鄧選は知らないんだ。
その戦の理由を…。
その戦が起こるからこそ、帰ってきた事を…。
いや、私が帰ってきたらからこそ、その戦が起こる事を。
「その戦に出陣する為に戻って来たのよ」
私は「??」という顔をしている鄧選の肩をポンと叩く。
「また一緒に戦えるね、鄧選」
私の言葉に鄧選は、複雑そうに目を逸らす。
そう言えば、父と同じで、鄧選も私が戦に出る事を嫌がってたっけ。
私は苦笑すると、鄧選の側を離れた。
散歩の途中、私はある場所で足を止める。
「紅徳…?」
私はしゃがみ込んでいる紅徳に近付くと、後ろから声を掛けた。
「…何してんの」
「…!!…ッ、楊冥様…!」
「…どうしたの。こんなところで」
そこまで言って、私は紅徳の足元にいる子犬に気付いた。
「子犬…?」
「…えぇ、弱っているみたいなのですが、屋敷に入れるわけにもいかず、どうしたら良いかと思案しておりました」
私はなるほど…と呟くと、子犬の前にしゃがみ込む。
「お前…何処から来たの…?」
子犬の頭を撫でてやる。
可愛らしい。
やっぱり動物は癒される。
「ん…?」
頭を撫でた事が嬉しかったのか、子犬が顔を上げると、首に小さな鈴が付いているのが見える。
「あら、鈴付いてる…。飼い犬なの…?」
私が鈴に触れようと手を伸ばすと「危ない!」と 紅徳が私の手を掴む。
「…!?」
子犬が唸り声を上げ、牙をむき出している。
紅徳が私の手を掴まなければ、今頃噛まれていただろう。
「…お前…」
前の飼い主を忘れていないのね…。
あの人を忘れる事が出来ない私と同じ…。
「楊冥様?どうなさいました?」
「…紅徳…、私がこの子犬飼うわ」
その運命の日が来たのは、子犬と一緒に暮らす様になって、子犬も私になつき、私も子犬も元気を取り戻し始めた頃だった。
屋敷の外に出られない私は、いつもの様に庭を子犬と一緒に散歩していた。
紅徳は他の仕事を頼まれたとかで、今は傍には居らず、私は本当に久し振りに、自由な時間を楽しんでいた。
「…さすがに…これだけの期間を屋敷の中だけで過ごしてると飽きるわね…」
私はそう子犬に話し掛ける。
「…やっぱり、名前が無いと不便よね…」
最初の飼い主に付けて貰った名前があるだろうからと、私は子犬に名前を付けられずにいた。
「名前…二つあっても仕方ないもんね…」
私は子犬にしゃがんで話し掛けると、また頭を撫でる。
「…ちょっとだけ外、行っちゃう?」
私がそう言うと、子犬は嬉しそうに尻尾を振って返事をした。




